【書評・紹介】宇宙軍って実際何をするのだ⁉︎『ゼロからわかる宇宙防衛』【読者投稿】

文:誤字脱字 ツイッターブログ

ゼロからわかる宇宙防衛
 

 現代軍事に宇宙活用は必要不可欠で、進出著しい中国やロシアに対して米国は新たに宇宙軍を創設して自衛隊も宇宙領域の活用を掲げるなど、宇宙は正に21世紀の新たな戦場という様相です。
 話題も偵察衛星に早期警戒衛星、衛星破壊兵器と事欠きませんが、しかしその実態は正直よく分からないという方も多いのではないでしょうか?
 そんな宇宙に興味はあるけどよく分からないというミリタリーオタクの皆様にオススメなのが今回紹介するこの本です。

宇宙開発とミリタリーの深〜い関係

 本書は書名の通り宇宙については何も知らないけど軍事利用には興味あるミリタリーファンに向けて書かれた本で、副題にある通り宇宙開発とミリタリーの関係を網羅的に紹介しています。
 例えば日本の宇宙開発については戦中の中島飛行機の話から始まり日本の固体ロケット開発と日本油脂やIHIエアロスペースの関係、米国のデルタロケット:液体燃料N-Iロケット導入の経緯のほか、秘密の多い情報収集衛星の予想図や自衛隊における宇宙利用の取り組みなどが丁寧に紹介されています。
 それ以外にもスペースシャトルに要求された軍事的事項とその顛末、偵察衛星とハッブル宇宙望遠鏡や地球観測衛星の意外な関係、GPSや民間ロケット会社と米軍の関係など宇宙開発とミリタリーの幅広い分野の根深い関係について書かれています。
 他にも人工衛星の種類やしくみといった基本的な事項や衛星破壊兵器や弾道ミサイルなど純軍事分野に関する記述もあり、書名の「ゼロかわかる」をしっかり丁寧に実現した本です。

File:Space Shuttle concepts.jpg
NASAが当初考案したスペースシャトルの当初コンセプト図。これらは米空軍が「軍事宇宙船」としての機能を要求した事で大きく変容することになった。(画像:NASA


偵察衛星の色々


イランのロケット施設爆発についてアメリカ合衆国大統領が公開した非常に精密な画像。大変精密なために米国が保有する偵察衛星によるものと噂されている。

 特に本書では軍事衛星代表とも言える偵察衛星についての記述が充実しており、冷戦時代米ソの「ミサイルギャップ」から始まった最初の偵察衛星「コロナ」の驚きの画像回収方法、米国の偵察衛星キーホール(KH)シリーズの推移、レーダー衛星の特徴と最近の傾向、最新の日米偵察衛星運用事情や早期警戒衛星、謎多きSIGINT(信号情報)衛星など幅広い話題を網羅しています。
 また前述のように秘密の多い日本の情報収集衛星について、同様の機能を持つJAXAの地球観測衛星「だいち」を基に想像図と予想される性能や運用の状況を詳細に予想しており、自衛隊の宇宙利用を理解する助けとなる内容が多く含まれています。

File:Kh-4b corona.jpg
最初期の米偵察衛星コロナシリーズの1つKH-4B、宇宙開発の黎明期らしく現代では廃れた技術が随所に使われている。(画像アメリカ国家偵察局

 「公開されている他の衛星から秘密の偵察衛星の能力が本当に推測できるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、宇宙に打ち上げるロケットは隠蔽のしようが無く、軌道もほぼ一定で研究グループにより地上から撮影された秘密の偵察衛星もあるなど能力の推測は比較的安易と言えるでしょう。
 さらにアメリカ軍も民間の地球観測衛星の画像を購入するなど民間と軍用の一体化・デュアルユースが進んでおり、そのあたりの話もこの本では紹介されています。
 それ以外にも偵察衛星とシビリアンコントロールの関係など細かい話も書かれているのでこの一冊を読めば偵察衛星のあらましを知ることが出来るはずです。


宇宙兵器はどうなる?

 また衛星破壊兵器やスペースデブリといった深刻な内容から「宇宙戦闘機は作れるか?」といった箸休め的な話題まであり読み応えがあります。
 衛星破壊兵器と言えば最近インドが行って話題となりましたが、スペースデブリの話と絡めて「良いデブリ」と「悪いデブリ」の違いからかつて行われたアメリカと中国の衛星破壊実験の違いを解説したりしています。

地球周辺のスペースデブリ
地球周辺、静止軌道(高度約3万6千キロ)以下にあるスペースデブリを可視化したもの。これらのスペースデブリは宇宙利用に深刻な影響を与えている。(画像NASA ODPO

 「宇宙戦闘機は作れるか?」という講では衛星破壊やスペースシャトルの軌道変更と絡めて宇宙機動の難しさも説明しており、現代技術では過去のSF作品のような派手な戦いを行えない事を示しています。

 本書を通読すれば”現代の宇宙戦争”に対する偏見や思い込みを廃し、現在世界各国で進められている宇宙軍事利用の方法や方向性を理解する助けになるでしょう。
 そして映画でよくある何時でも何処でもリアルタイムで高解像度の映像を送ってくる偵察衛星について
「偵察衛星の多くは太陽同期極軌道を飛んでいるから云々」
 だとか、空中戦のようにド派手なドッグファイトを行う宇宙戦闘機について
「宇宙空間でこのような軌道をするには核融合ロケットを利用した上でスラスターで姿勢を90度変更してからでないと云々」
 といった問題点を指摘できるメンドウな一段違った宇宙ミリタリーマニアになれる事は間違いありません。

スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望 (吹替版)
”宇宙戦争”と聞けば多くの人はこの映画のような派手な撃ち合いを想像するだろうが、現在は画像取得や通信中継、通信傍受など静かな情報戦的な面が強いと言える。(画像:アマゾン


興味の範囲を広げてみよう

 本書は元々月刊「Jウィング」に連載されていた内容に数編の加筆・修正を加えたもので「宇宙開発に関心を持っていなかった人が、宇宙開発の話題を楽しめるようになること」を目標に書かれたものです。
 そのため難しい専門用語や理論を避けて、情報の多い米国の話が中心でロシアや中国などの話題が比較的少ないなど気になるとこもあるにはあります。
 しかし図表や写真などを多用して初めて宇宙分野に触れる人に向けて親切丁寧に書かれており、正に宇宙防衛の入門書として最適な一冊となっています。
 ミリタリー方面も丁寧に順を追って書かれているので、逆に宇宙の事は良く知っているがどうミリタリーに使われているのか分からない という人にも読んで欲しい内容です。

 2年間の短い連載をまとめた本ですが、それでも当初は夢物語だった「宇宙自衛隊」が現実のものになるなど変化の激しい宇宙業界の流れの速さは目を見張るものがあります。
 そんな最新事情を追うのに大事な基本をしっかり網羅、軍事と切っても切れない関係にある宇宙開発、その深〜い関係を是非お読み下さい。

スペースガールズ 少女宇宙開発全集
ミリタリー以外の宇宙開発に興味を持った方にオススメの一冊、絵のノリはMCアクシズまんまだが内容はかなり充実しておりおっぱい宇宙開発マニアも納得の内容だ(画像:アマゾン


ゼロからわかる宇宙防衛
大貫 剛
イカロス出版 (2019-07-29)
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