空自の日本防空史78
「平成のゼロ戦」を操る


文:nona


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2015年に入間基地航空祭で公開された第8飛行隊のF-2戦闘機

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F-2のデジタルインターフェイス

 F-2は操縦装置のデジタル化が進み、これまでの戦闘機と比べ大いに進歩したものの、F-4EJ改がそうだったように、ベテランパイロットにしてみると手放しで喜べる代物ではなかったようです。

 F-2の操縦計器は高視野角HUDと複数のMFD(マルチファンクションディスプレイ)が主体となっています。

 HUDに関してはディスプレイは某製作所が製作し、映像ソフトウェアは某重工で開発されました。
 ただし、F-2のテストパイロットである渡邉吉之氏は「重工でつくられたソフトなので、ちょっと重いのが欠点」と語ります。

 また、アナログ計器はコクピットコンソールの端に追いやられており、これまでアナログ計器の優位性を訴えていたベテランパイロットたちも、デジタル計器に慣れることを余儀なくされています。


サイドスティック

 F-2の操縦桿はF-16に倣い、右側コンソール上に設置するサイドスティック方式を採用しています。

 FBW機の操縦桿は機械リンクが不要で設置場所を選ばないため、設計者は高G環境下でも楽な姿勢がとれるよう右側コンソールに設けたのだそうです。

 しかし、サイドスティック方式に違和感を持つパイロットは数多く、元空自パイロットの田中石城氏によると、現役時代に知り合ったスペイン空軍の少佐が「操縦桿が右側についているのが気にくわない。男は金〇を守るべきなのに、両手を広げて操縦桿とスロットルを持つのは、正面にスキができる。やはり中央に操縦桿がなけりゃあ」といった旨の発言をしたそうです。

 この少佐の意見がスペイン空軍にどれほどの影響を与えたかは不明ですが、同軍は操縦桿がコクピット中央に設置されたF/A-18を採用しています。


フォースコントロール

 F-16およびF-2では操縦桿の入力にはフォース(加圧)コントロールを採用しており、パイロットは腕を動かさずに操縦桿へわずかな力をかけるだけで、機体の操縦が可能でした。

 この技術もまた、高G環境下での操作性を向上させるために設計者が考案したものですが、渡邉氏は「設計者の道楽の一つ」と記しています。

 フォースコントロールにはいくつかの欠点があり、その一つとして、機種転換から間もないパイロットが従来の操縦桿に無用な力をかけ、必要以上のGが生じる問題があります。

 空自においてもF-15パイロットがF-2に体験搭乗すると、従来機のクセで操縦桿を力いっぱいに引っ張り続けることがあり、必要以上の疲弊をまねいて「真っ白に燃え尽きた」と形容される姿になるのだそうです。

 加圧センサーの感度も時には敏感すぎるきらいがあるようですが、テストパイロットの藤曲雅彦氏は、操縦桿の付け根の加圧センサの近くを握ることで、より精密な操作が可能となり、空中給油などがやりやすくなる、としています。

 ただし、テストパイロットの職務上、通常の握り方でも給油できることを証明しなければならず、これは非公式の裏技だそうです。

 なお、2008年に飛行中にF-2の操縦桿が外れる、という事件が起きていますが、この時にパイロットはオートリカバリーモードで姿勢を立て直し、加圧センサーが正常であることを確認、操縦桿をはめなおして無事に帰投しています。


FBWとCCV

 F-2は国産化された3重のFBWシステムを搭載し、CCV技術がもたらす高度な運動性能と、操縦系統の冗長性が確保されており、一部の操縦翼を失った場合も、他の操縦翼による補間が可能とされます。

 FBWを構成する3個の機体制御コンピュータは合議制をとり、1個が異常をきたした場合は、これを排除。

 コンピュータが3系統ともダウンした場合は、バックアップのアナログFBWへ切り替わります。この状態ではCCVの機能に制限が生じ運動性は低下するものの、通常の飛行に影響はない、とされます。

 また、電気系統はシールドされており、電磁波や落雷から保護されています。
 F-2は操縦系統を多重冗長化によって安全性を高めていますが、2007年にF-2Bが離陸直後に墜落した際は、IRAN時の単純な配線ミスによるFBWの誤作動が、事故の原因とされました。

 この時、F-2Bに搭乗していたテストパイロットの永田恵嗣氏(渡邉氏の後輩であるCajun氏?)は墜落時に重傷を負いますが、副操縦士の助けで機外へ脱出しています。


F-2の空中戦法

 F-2は配備当初こそ支援戦闘機に分類されましたが、空対空性能はF-1と比べ格段に向上しており、アビオニクスの性能もF-15Jに引けを取らない、とされます。

 ただ、F-15とは機体の特性に明確な違いがあり、小説家の鳴海章氏は複数の空自パイロットへの取材をへて、F-15を「ハイパワーエンジンで機体をぶん回す」とする一方、F-2を「大気中を滑るようにくるくる回る」機体であると表現しました。

 あるF-2パイロットはF-15と戦う際の必勝法として「とにかく逃げ回るんです。あっちは双発、こっちは単発、燃費がちがうわけです。そのうちF-15の方が帰投限界燃料になって、基地にもどらなければならなくなります。こっちに尻を向けたときに撃てばいい。」とも語っています。

 スペック上の最大航続距離はF-15のほうが優れますが、F-2は旋回に伴う速度や高度の喪失が少なく、アフターバーナーの使用を減らせるため、結果としてF-15よりも長く戦場に留まれるのだそうです。


危険?なテクニック

 2019年2月、第6飛行隊のF-2Bが訓練飛行中に墜落する事故がおきたのですが、共同通信は事故の状況について「F2は追跡を避けるため、エンジンの出力を下げて降下しながら旋回。その後、急上昇したが失速した。」と報道しています。

 (災害を除く)事故によって喪失した2機目のF-2Bとなりましたが、「エンジンの出力を下げて降下しながら旋回」という戦法は、かつてF-1戦闘機が用いていたものを彷彿とさせます。

 元第6飛行隊長にしてF-1パイロットでもある高部充博氏は、F-16とのDACTでこの戦法を用いて自ら囮となり、僚機にF-16を撃墜させています。

 高部氏によると、推力をしぼり水平尾翼で排気口を隠すように旋回を維持することで、赤外線誘導ミサイルのロックオンすら阻止できる、とのこと。

 ただし、機体は木の葉のように空中を舞っているだけにすぎず、高度を失ってしまったらおしまい、という危険な技であることに変わりはないようです。


参考

戦闘機パイロットの世界“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論(渡邉吉之 2017年9月10日)

スクランブル 警告射撃を実施せよ(田中石城 ISBN4-906124-26-7 1997年4月27日)

航空自衛隊F-2(イカロス出版 ISBN978-4-87149-475-5 2003年7月20日)

世界の傑作機 No.117 三菱 F-1(ISBN978-4-89319-141-0 2006年10月5日)

テストパイロットインジャパン(鳴海章 ISBN978-4-7779-1474-6 2010年2月28日)

F-2の科学 (青木謙知 ISBN978-4-7973-7459-9 2014年4月25日)

主任設計者が明かすF-2戦闘機開発(神田國一 ISBN978-4-89063-379-1 2018年12月15日)

共同通信社

空自F2墜落、操縦ミスか 訓練飛行再開へ (2019年2月27日)
https://this.kiji.is/473442695480886369

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