空自の日本防空史77
トラブルを乗り越えて
文:nona
2018年に埼玉県の入間基地で公開されたF-2B(機体番号23-8111)。2011年の東日本大震災で被災後、復元されたうちの1機。
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技術実用試験の完了
1999年中にXF-2に生じた問題に対策を施し、追加の試験を実施したことにより、同年中に終わるはずであった技術実用試験は2000年6月まで続きました。
開発費に関しては、当初の想定の2000億円から約3280億円まで増加し、試験機のソーティ数は900回を予定のところ、1170回まで増えていましたが、航空機開発において、この程度の予算超過や納期の延期などは珍しくない話でもあります。
第三飛行隊への配備を開始
F-2戦闘機の自衛隊引き渡し式は2000年9月25日に実施され、早ければ翌日に青森県三沢基地の臨時F-2飛行隊 (第3第飛行隊)へ配備される予定でしたが、三沢市議会は防衛庁からF-2の安全性について説明を受けていないとして、配備に反対を表明。第3飛行隊がF-2を受領できたのは10月3日のことでした。
これだけ聞くと市議会が神経質すぎるように思えてしまのですが、三沢基地の配備戦闘機は、過去15年間でF-16が7機(うち1機は韓国展開中)、F-1は4機、F-4EJ改も1機と、毎年のように墜落しており、住民から不安の声が聞かれるのも仕方のないことでした。
F-2の配備前年である1999年に岩手県内でF-16が墜落した際には、同機のEPU(緊急動力装置)の燃料として搭載された劇毒のヒドラジンが流出する可能性があるとして、地元消防士への健康被害も懸念されました。
EPUは単発のFBW機では不可欠の装備であるため、F-2も搭載していますが、主任設計者の神田國一は、F-2のEPUは通常のJP-4ジェット燃料で作動するとしており、安全性の問題は改善されている、とのこと。
F-2のレーダーに問題が生じる
三沢基地の臨時F-2飛行隊は2001年3月までに18機のF-2を受領し、F-1から機種更新を完了。部隊名も第3飛行隊へ戻しました。
2001年8月21日には中谷元防衛庁長官がF-2に搭乗し、53分にわたり要撃戦闘訓練を体験しています。
しかし、この頃のF-2に作戦能力はなく、対領空侵犯措置任務も、同じく三沢基地に配備されたF-4EJ改が担当していました。
そうした状況にあった2002年の3月2日、東京新聞がF-2の搭載するJ/APG-1レーダーの問題を報じ、民間においても議論を呼んでします。
東京新聞のいうレーダーの問題とは「空対空モードでの目標探知距離が20海里にすぎず、目標追尾中にロックオンが外れ失探し、目標シンボルも消える」というもので、航空総隊はF-2の部隊運用試験の延長と対領空侵犯措置任務の付与延期を求めた、とされます。
当時、第3飛行隊のパイロットとしてレーダーの不具合の調査を担当した藤曲雅彦氏は「レーダーを1日も早く実用化したくて、問題点を追及して、改善提案をして、それについて一つひとつ詳細なレポートを提出し続けたんです」と語っており、こうした努力の末に、第3飛行隊によるF-2の試験は2004年3月に完了し、同月19日、ついにF-2による対領空侵犯措置任務が開始されました。
藤曲氏は、このときのレポートがきっかけで上司から飛行開発実験団への転属を進められ、後にテストパイロットとして活躍されています。
調達数の削減が決定
ようやく作戦機として認められたF-2ですが、2005年以降の防衛大綱ならびに中期防衛力整備計画では、戦車や護衛艦といった正面装備の削減を進める方針が定められており、その流れでF-2の導入数も削減が実施されました。
石破茂防衛長官は削減の理由を語る中で「国民に説明できないものは買わない」としたそうです。
2004年8月8日の読売新聞は一面で「F2戦闘機 調達中止 高価で性能不足」と報じ、二面の解説記事でも「F2事実上の”失敗”後継機導入に慎重な検討必要」としました。
2004年の時点でF-2を「性能不足」と決めつけたのは時期尚早にも思えますが、この時点ではまだAPG-2レーダーへの換装や、AAM-4ならびに各種誘導爆弾への対応は決定されておらず、価格に関しても、1996年から調達が実施されているにも関わらず、調達数の少なさから高止まりしていました。
F-2の価格の内訳については、1997年調達分の場合、機体が約77億2800万円、レーダーFCSと電子戦システムが15億5900万円、エンジン13億1700万円、このほか機関砲や増槽などの装備品を含め、約120億円とされています。
また、機体パーツのうち左主翼や胴体後部、エンジンの非国産化部分などは米国で生産されていますが、自身の儲けにつながらない生産コストの低減に消極的だったようです。
ともかく、上記の決定により1995年に130機としていたF-2の調達数は2005年に98機に削減し、2006年に94機へ再修正されました。
削減の対象とされたのは飛行教導隊向けの8機と、予備機として調達予定であった39機のうちの28機です。(1995年以前にはブルーインパルス用として11機が要求されていたこともあります)
予備機に関しては、F-2では将来にわたり事故が生じる可能性が低いとして削減が可能であるとして、定期整備時の補填として用いられる在場予備機の調達だけが認められました。
実際にF-2による大事故は(従来機との比較では)少ないため、その点に限っては上の判断は正しかったのですが...
次回に続く
参考
航空自衛隊F-2(イカロス出版 ISBN978-4-87149-475-5 2003年7月20日)
戦闘機屋人生 元空将が語る零戦からFSXまで90年(前間孝則 ISBN978-4-06-213206-0 2005年11月29日)
テストパイロットインジャパン(鳴海章 ISBN978-4-7779-1474-6 2010年2月28日)
F-2の科学 (青木謙知 ISBN978-4-7973-7459-9 2014年4月25日)
主任設計者が明かすF-2戦闘機開発(神田國一 ISBN978-4-89063-379-1 2018年12月15日)
国会議事 第141回国会 参議院予算委員会 第8号 1999年3月2日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/145/0014/14503020014008a.html
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コメント
機体の設計や基本的な制御機器の完成度が上がって来て単純な墜落事故は少なくなったが、その分搭載電子機器のマッチングや強化改善が問題になっているイメージ。
F-35もその辺り苦労しており多額の経費がかかっているが、墜落事故のような深刻な事故の割合は比較的少なくなっているので良い傾向なんだろうな(いうて諸々の事情で事故は避けられないが(´・ω・`)
群青の空を越えてのことですね
F35Bよりも高額になるんだろうなぁwww
F-2Bを修理するのに新規パーツも必要な為、ロッキードマーチンの工場も含めて一時ライン再開させたよ。
一機当たり73億円かかったそうだけど。
フレームがやられるほどでなければ同等品製造にそこまで金かからない?
現状見積もりで200億くらいだから無理やね
F35もトータルユニットコストはそれくらいだけど
レーダーの初期不良の修正に際して、何度も詳細なレポート作成して提出できる才能は、航空実験団にぜひとも欲しい才能だったと思われ。
あとアメリカ側がパーツのコストダウンに熱心でなかったのは、F-2の母数の少なさを考えると、やむを得ないのではないかと。
F-2にしか使わない部品はその分しか作らないし、F-16との共用部品はそれ以上コストの下げようがない訳で。
※1
その某ゲームのライターの人が、『宇宙への帰還』というSFアンソロジーで、谷甲州や横山信義といった人に並んで短編を上梓していたので驚いた(自分が買って読んだ当時は誰だか知らんかった)。
んーと、ちょい何が言いたいのか分からないんだけど、APG-2を始め、追加装備としての予算は能力向上改修費として計上され、多機能RFサンサみたいな研究開発の為の物は研究開発費として計上されるよ。
F-2自体の本生産が終わって契約修了と言う形になったのに、大規模災害で被災したF-2Bの復旧の為の再ラインを立ち上げようとする日本を相手に、きっちりとお金を請求するロッキードマーチンさんは商売人の鏡やで。
とまあ、皮肉を言いつつ、当初予測130億円を掛けてもF-2Bを直そうとしたのは、F-16BDとは操縦系が別物過ぎて、変わりには成らなかったからではないかと思ってる。
レーダーの寿命は意外と短くて数年使うと交換が必要になる。
新型への更新間隔も短いので関連機材の生産ラインはある程度残しているはず。 そのためレーダー周りの生産・更新は(他の機材に比べれば)比較的低価格で出来ると考えらえる。
難しいのは羽根とか機体とかフレームが関わるもんだろうね、更新は全く無い上に生産設備は大規模なので維持できない。
あとは配線や配管、油圧機器など滅多に交換しないようなものはある程度予備を作っておけば機齢が尽きるまで十分に持つ可能性が高いので生産ラインは閉じていそう。
汎用品が多く使われていれば流用は出来るだろうけど、戦闘機のような特殊な機材では専用品も多いだろうから多くは生産ラインを一から作り直すことになるんじゃなかろうか?
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