空自の日本防空史74
FS-X(次期支援戦闘機導入計画)の始動


文:nona


74
主要装備 F-2AB|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊
https://www.mod.go.jp/asdf/equipment/sentouki/F-2/index.html

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1982年に始まるFS-X計画

 空自初の国産・自主開発戦闘機である、F-1の量産初号機の配備が始まったのは1977年のことでした。

 F-1は当初の耐用命数を3500時間で設計された短命な機体ですが、1982年からASIP(航空機構造保全プログラム)の適用をうけ4050時間へ延長され、当時の慢性的な原油高もあって年間飛行時間が150時間台に低下したこともあり、想定よりも退役の時間が延びることが判明しています。

 ただし、F-1にはF-4EJ改のように能力向上を施す余地がないため、延命期間中に国内で新規に後継機を開発することになり、防衛庁は1982~85年度の中期業務見積もり(現在の中期防衛力整備計画に相当)の期間で、FS-X国内開発の可否を検討しました。


FS-Xの運用要求とその価格

 1985年1月、空幕は技術研究本部に対してFS-Xの運用要求を提出し、併せて国内開発の可否を問い合わせます。

 主な要求として「ASMを4初携行し450海里の戦闘行動半径」「MRAAM2~4発の運用能力」などが提示されました。

 この頃、三菱・川崎・富士重工の3社は上記の要求を満たす機体をそれぞれ構想しており、開発に欠かせない研究資料も蓄積されていました。

 技術研究本部は1985年9月17日の報告書で「(エンジンを除き)約10年で国内開発ができる可能性があり」と報告しています。

 なお、FS-Xの開発費は約1600~2000億円、完成機の価格は約80億円と見積もられていいましたが、この見積もりが甘すぎると指摘があり、民社党の大内啓伍議員は1985年3月の国会で、FS-Xの開発費を5~6000億円、機体価格も80億以上に高騰するだろう、と予想しました。

 大内議員の語るところでは、第4世代機の開発費はF-14で7145億円、F-15で約1兆円、F-18で5630億円、トーネードで5000億円と、いずれも高額であり、FS-Xも開発費や機体価格の高騰はさせられない、というのです。


国内開発を見送る

 大内議員は海外機の導入も提案したのですが、当時の日本では国内開発案が主流とされており、防衛庁も1986年1月末に、海外機に関し「いずれもFS-Xの全部の要求を完全には満たしていない」としました。

 これによると、F-16はASM4発の携行能力がなく洋上飛行に不安のある単発機、F/A-18は航続距離が不足し重量のある艦載機、トーネード(IDS)はMRAAMを搭載できず、欧州機ゆえにインターオペラビリティを欠く、とのことです。

 ただし、海外メーカーはペーパープランしか挙げていない日本企業が贔屓されるのが不公平であるとして、各社が提案する既存機改造案の受け入れを要求しています。

 また、米国防総省などは、日本のFS-X開発計画が、防衛政策において日本が米国から独立しようとする姿勢の表れであると懸念しており、米政府を介して、日本へ米国機を導入するよう圧力を加えました。

こうした事情もあり、1986年12月に防衛庁の米国調査チームは、「これまで対象となっていた国内開発、現有機の転用および外国機の導入のうち、国内開発を「開発」と改め、米国の共同開発を含めて、引き続き検討し、我が国防衛上の観点から最も適切な結論をできるだけ早期に得る。」と報告しこれ以降、国内単独でのFS-X開発は公式に要求されなくなったそうです。

 栗原裕幸防衛長官はこの件について「今の日米関係でとり得るギリギリ妥当な線ではないか」としています。米国としては共同開発よりも、既存の米国機の導入を要求していたためです。

 しかし、元IHI社員のジャーナリストである前間孝則氏は、当時の国内航空産業界では、この決定が「敗北宣言」として受け取られた、としています。

 とはいえ、もし米国に逆らって国産化を進めたとしても、(技術研究本部が報告したように)エンジンの開発でつまずく可能性が高く、米国が何かしらの対抗措置を取らないとも限らないため、日本政府や防衛庁の判断は仕方のないことであった、と思われます。


FS-Xの母体

 共同開発案として、JD社はF-16改造案とF-16XL、MD社はF-15とF/A-18の改造案、パナビア社はトーネードISDとADVを融合したトーネードJ案をそれぞれ提案しました。

 しかし、トーネードJは共同開発の難しさから1986年中に選定から外され、1987年に西廣整輝防衛局長はアーミテージ国務次官補に対し、F-15改造案とF-16に絞り、F-18を選定から外す、と通告しました。

 最後に残ったF-15案について、性能上は(ステルス性)を除き問題ないものの、経費が高額になりすぎることから、これも選定から外されており、1987年10月21日、防衛庁はF-16改造機の日米共同開発を発表するに至りました。


F18だけは...

 選定から外れたF/A-18改造案ですが、これを望む声は多く通産省出身の山本雅司装備局長や、零戦からT-2までの航空機開発に携わった高山捷一元空将らは、F/A-18を望んでいました。

 同機は低空や洋上飛行における安全性の高い双発機であるうえ、機体の大きさから発展性の高さも評価されており、かつて国内企業で構想されたFS-X案と機体規模が近しいものでした。

 一方、制服組トップの大村平空幕長が「F18だけは避けてください」と栗原長官へ上申したり、技術研究本部長の筒井良三参事官が「空母の艦載機として開発されたF18は必要以上に重い」と語ったことも伝わっています。

 実際、FS-Xの選定時に実用化されていたF/A-18Aは、自重が12,9トン(F-15と同等)と重く、空力設計の問題が指摘されたり、F-16よりも航続距離が短い、といった欠点がありました。

 加えて空自の要求を満たすため推力の向上も必須とされ、機体とエンジンを同時に改造するリスクも懸念されています。

 これらのF/A-18Aの欠点はC型で大きく改善されますが、同型の初飛行は1987年の9月。FS-Xの候補とするには、やや微妙な時期でした。

 さらに、開発経費の見積もりもF-16の約2000億円に対し、F/A-18は2600億円と高額。
 
 上記の問題点からF/A-18は敬遠され、開発リスクの少ないと見られたF-16が選定されたようですが、双発機を選ばなかった点について、防衛庁は公式に理由を説明していないのだそうです。


次回に続く


参考

国会議事録 衆議院予算員会第一分科会 第1号 1985年3月7日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/102/0384/10203070384001a.html

航空自衛隊F-2(イカロス出版 ISBN978-4-87149-475-5 2003年7月20日)

戦闘機屋人生 元空将が語る零戦からFSXまで90年(前間孝則 ISBN978-4-06-213206-0 2005年11月29日)

F-2の科学 (青木謙知 ISBN978-4-7973-7459-9 2014年4月25日)

主任設計者が明かすF-2戦闘機開発(神田國一 ISBN978-4-89063-379-1 2018年12月15日)

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