空自の日本防空史73
空対艦誘導弾の登場
文:nona
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/1982/w1982_03058.html
ASMを搭載して飛行するF-1支援戦闘機
今回は空自の有する空対艦誘導弾について解説いたします。
自衛隊初の対艦誘導弾、ASM-1(80式空対艦誘導弾)
防衛庁技術研究本部五十年史 II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)に掲載されたASM-1
ASM-1(80式空対艦誘導弾)は自衛隊初の空対艦誘導弾です。
1973年に開発が開始され、1980年に制式化されました。価格は1発あたり約1億円で、年間25発程度、1996年まで調達されたようです。
開発費は約109億円と比較的安価ですが、コスト削減のため開発にはシミュレーションが多用されました。
発射に際しては、まず母機のレーダーで目標を捜索し、その座標をASM-1の慣性航法装置へインプットします。
この後にASM-1を発射すると、高度10m程度の超低空を慣性航法で飛行し、目標付近まで飛行します。
そして、終末航程でアクティブレーダーシーカーを起動し目標へ突入、これを撃破します。
元防衛関連メーカーに勤務された前川和久氏によると、シーカーのECCM機能として、周波数変換機能や、ホームオンジャミング機能を有する、と推定できるそうです。
ASM-1は推進にロケットモーターを用いることから、射程は50km程度と短めですが、 F-1戦闘機のJ/AWG-12レーダーもシークラッターの除去を苦手としており、波高次第では捜索能力が低下するため、その射程も生かせないケースも想定されたようです。
ASM-1はファミリー展開が行われ、陸自のSSM-1(88式地対艦誘導弾)、海自のSSM-1B(90式艦対艦誘導弾)、ASM-1C(91式空対艦誘導弾)のベースとなっています。
赤外線画像誘導のASM-2(93式空対艦誘導弾)
防衛庁技術研究本部五十年史 II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)に掲載されたASM-Ⅱ
ASM-2は、1984年に開発が開始され、1993年に制式化された空対艦誘導弾です。開発費用は約118億円、1発あたり約1.5億円の価格で、1995年から毎年15発程度導入されています。
ASM-2はパッシブ赤外線画像誘導のシーカーを採用していますが、その精度はGCS-1(91式爆弾誘導装置)以上、とみられます。
両者の実射試験に使用された移動標的の温度は、ASM-2が海面温度+15℃±5℃であるのに対し、GCS-1は海面温度+65℃±5℃。
ASM-2は、より微弱な熱源に対しても誘導が可能なようです。
ただし、赤外線誘導方式は雨や海霧で探知能力が低下するため、状況に応じレーダー誘導のASM-1も併用されます。
ASM-2のシーカーは高度なIRCCM(赤外線囮排除)を有するとされ、実射試験では標的に設置された発電機の熱をフレアとして判断、自ら標的のロックオンを解除しています。
加えて、目標を再捜索する機能も有することから、上記のASM-2は標的を通り過ぎた後、自ら再捜索モードへ切り替わっています。しかし、この時は飛行停止信号が送られ、標的には命中しませんでした。
ASM-2の改良点
この他のASM-2の特徴として、ジェットエンジン推進、被発見性を低減するステルス翼、目標および命中点の選択機能、焼夷効果を高めた徹甲榴弾、高精度のレーザーリングジャイロ式慣性航法装置、中間誘導におけるGPSの併用(ASM-2B以降)などの採用があげられます。
特に、TM-2Jジェットエンジンが採用されたことで、射程は大幅に延伸されました。
最大射程に関して、航空ジャーナリストの青木謙知氏は約110km、前川和久氏は80海里(144km)以上、と推測しています。
ASM-2の射程の長さを単独で生かせる空自機は、現時点ではF-2戦闘機だけですが、同機の配備に遅れが生じたことから、当初はF-4EJ改での使用も想定されていました。
もっとも、F-2が充足したことで、ASM-2を搭載するE-4EJ改の姿が見られるのは稀、とのことです。
ASM-2D/L
2000年代前半、ASM-2D/Lという発展型が空自主導で提案されていました。
ASM-2D/Lでは、赤外線画像をデータリンクで母機へ送信し、母機の乗員が攻撃目標を指定する機能を搭載する予定でした。
公式には明言されなかったものの、対地攻撃能力の獲得を狙っていた、と言われます。
類似の兵器として、米軍のAGM-84 SLAMおよびSLAM-ERが存在し、SLAM-ERは折り畳みの主翼を装備することで、270kmもの射程を有しました。
2005年~10年度を対象とした中期防衛力整備計画では、巡航ミサイルの研究開発が盛り込まれており、このASM-2D/Lや、それに準じた装備が開発される可能性がありましたが、政府内で反対の声があったことから、開発は見送られています。
XASM-3
http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/21/jizen/honbun/12.pdf
新空対艦誘導弾(XASM-3)(防衛省 経理装備局システム装備課 2009年10月)
XASM-3は、空自初の超音速空対艦誘導弾になる(かもしれない)装備です。
基礎研究は1992年頃から行われており、2002年以降に何度か開発要求がされたものの、実際に開発が認められたのは2010年度のことでした。
当初はASM-1の後継とされたものの、開発の開始が遅れたことで、ASM-2の後継とする方針も示されています。
XASM-3はシーカーにアクティブおよびパッシブレーダーによる複合誘導方式を採用し、推進装置として加速用のインテグラルロケットと超音速巡行用のラムジェットエンジンを搭載、最大速度はマッハ3に達します。
2017年には実射試験が実施され、翌2018年に開発が完了しました。
XASM-3の配備は延期
ところが、2019年3月にXASM-3量産化を見送る方針が、読売新聞などを通じ公表されています。
XASM-3の射程について、同紙は射程を百数十~約200kmと報じていますが、近年の中国海軍の防空能力の向上により、不十分であると考えられたようです。
射程の問題については、開発開始の遅れや開発予算の不足が原因として考えられますが、防衛省幹部の話として「敵基地攻撃能力につながるという見方への政治的配慮」から、あえてXASM-3の射程を制限した、という事情もあるようです。これは前述のASM-2D/Lとも共通しています。
なお、射程不足の対策として、早ければ2020年度予算で射程延伸型(400km以上の)が開発されるようです。
次回はF-2戦闘機の開発事業について解説いたします。
参考
航空自衛隊 主要装備F-2A/B
http://www.mod.go.jp/asdf/equipment/sentouki/F-2/index.html
誘導武器の開発・調達の現状 (2011年5月 防衛省経理装備局システム装備課)
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/seisan/sonota/pdf/05/001.pdf
「相手の射程外から攻撃可能」戦闘機ミサイル開発へ(読売新聞 2019年3月17日)
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190317-OYT1T50060/
F-2の科学 (青木謙知 ISBN978-4-7973-7459-9 2014年4月25日)
F-4 ファントムⅡの科学(青木謙知 ISBN978-4-7973-8242-6 2016年)
航空自衛隊F-2(イカロス出版 ISBN978-4-87149-475-5 2003年7月20日)
航空自衛隊F-4(イカロス出版 ISBN978-4-86320-202-3 2009年11月5日)
航空自衛隊T-2F-1(イカロス出版 ISBN978-4-87149-593-6 2004年11月20日)
世界の傑作機 No.117 三菱 F-1(文林堂 ISBN978-4-89319-141-0 2006年10月5日)
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コメント
技術の進歩ってすごいね
いくら航空機とはいえ索敵や巡航のために高空を飛ぶとなるとSPY-1の方が先手を取れるからかな?
そういう意味ではデータリンクって本当重要だなぁと思う。
>>2
飛ばすだけならラムジェットの燃料増やすだけで良いけどサイズや重量増をどこまで許容できるかだよね。
ASM-3みたいなシースキミングタイプだと燃費も悪かろうに。
あと、全然更新されない米軍のハープーンも……
ただでさえ3では二発しか積めないし
米国の試験場にて、あまりにも当たり過ぎるとのことでありったけのECMをかまされてもやっぱりあたったSSM-1。
しらねの艦橋構造物付近に着弾したのに、爆圧で艦首の甲板ハッチが跳ね上がるASM-3(怖い)。
デッカくなるのは方向性の一つとしては全然アリだと個人的には思う
そのうち戦闘爆撃機みたいな比較的小型な高速機に複数の対艦ミサイルを積む事自体がマイナーになるかもしれない
F−3の派生型でF/B−3でも開発しよう(別冊宝島並感)
まあ現実的に考えたらP−1ベースで開発した方が良さそう
せやな、可変後退翼に改造しよう(P-1別安)。
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