空自の日本防空史72
空自の特殊な爆弾
文:nona
今回は1990年代前後に配備が始まったクラスター爆弾CBU-87/Bと、91式爆弾用誘導装置GCS-1について解説いたします。
91式爆弾用誘導装置(GCS-1)
防衛庁技術研究本部五十年史 II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)に掲載されたGCS-1
91式爆弾用誘導装置GCS-1(Guidance Control Set)は、普通爆弾を誘導爆弾化するキットとして1980年に基礎研究が開始され、1991年に制式化されました。
試射においては、海上の移動標的に対しMk.82用で7発中6発、JM117用で3発中2発の命中弾が記録されています。
GCS-1は無誘導爆弾のように目標に肉薄せずとも高い爆撃精度を得られるうえ、投下後は即座に離脱できるため、母機の生存性を高めています。
誘導方式は赤外線パッシブホーミングであり、母機が目標付近へ爆弾を投下すると、爆弾は熱源へ向かって自動で誘導されます。
シーカーには、赤外線フレアを囮として排除するIRCCM機能を有していますが、赤外線反応の微弱な目標は捕捉できず、対地攻撃能力はありません。実質、対艦専用の装備です。
GCS-1の価格は1式あたり1500万円であり、1式あたり約1億円のASM-1、1.5億円のASM-2と比較すれば安価と言えます。調達は約10年にわたって実施されました。
後継装備としては、XGCS-2が試作されていたものの実用化に至らず、2009年に調達が開始されたGBU-54等のレーザー誘導爆弾が、限定的ではあるものの、GCS-1の役割を代替しています。
赤外線誘導が採用された理由
航空爆弾の誘導に赤外線を用いるのは、世界的にみても珍しようですが、この方式が採用された理由について、元防衛関連メーカーに勤務された前川和久氏は、搭載母機に改修が必要ない点や、周辺国への影響を考慮しあえて対地攻撃能力を持たせない、という政治的な配慮が目的、としています。
一方、航空機ジャーナリストの青木謙知氏は、海外で主流となりつつあったレーザー誘導方式との差別化をはかるため、あえて赤外線を採用した、と解説しています。
前述のとおり、基本的にGCS-1の搭載母機は大きな改修を必要としませんが、夜間の爆撃に対応するため、F-1およびF-2戦闘機では、機体のコンピュータにRCIDとRCCDモードが追加されています。
RCID(初期データによる投下点計算)とは、レーダーがロックオンした目標を自動で取得、投下点を算出するモードであり、RCCD(継続データによる投下点計算)は目標のロックオンを継続し続けることで、目標の移動に合わせ、投下点を更新し続けるモードです。
前川氏によると、F-4EJ改はOFP改修の問題でこのモードを使用できず、CCRP(投下点連続計算)のレーダー手動取り込み機能などで、代用する必要があったようです。
クラスター爆弾CBU-87/B
CBU-87/Bは重量430kgのクラスター爆弾で、米国のジェネラル・ダイナミクス社で開発され、空自では1987年から2002年にかけて調達されました。1989年からは、石川製作所でもライセンス生産されています。
主な用途は侵攻勢力の水際撃破。日本の海岸に迫る上陸舟艇と、すでに海岸へ上陸した人員や車両、物資などの攻撃に用いますが、内陸部に投下する予定があったかは不明です。
米軍納入価格は1万4千ドル。空自における1発の価格は不明ですが、調達には、のべ148億円の予算が投入されています。
CBU-87/Bは、BLU-97/B子弾を202個内蔵しており、投下後に指定された高度まで落下するか、一定の時間が経過すると、小弾を空中で散布します。
BLU-97/Bは重量約1.5kgで缶ジュースのような円筒形をしており、多数破片を形成する鋼鉄製外殻、可燃物に火をつけるジルコニウム焼夷材、装甲を貫通する成形炸薬を一つの弾体にまとめており、多目的な使用が可能です。
搭載母機に特別な改造は不要であり、空自のF-1・F-2・F-4・F-15の各機で搭載が可能でした。
メーカー公称の小弾不発率は5%ですが、自衛隊では各種クラスター爆弾に不発率の低減を要求しており、国産のCBU-97/Bの場合、信管の精度を上げることで不発率を1.1%まで抑制しています。
クラスター爆弾の廃棄
CBU-87/Bをはじめとした、クラスター弾の廃止の是非を問う議論が海外で進んでいた2007年、久間章生防衛相は国会で「クラスター弾につきましては、長い海岸線で、そして平野部は非常に狭小な日本の場合に、その長い海岸線で着上陸を防ぐにはクラスター弾を使わないと、それに代わるべき手段が今のところ考え付かないわけであります。」
と語り、クラスター弾の重要性を訴えていました。
しかし、2008年12月に各国の署名が行われたクラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)では、日本も条約に同意しており、まもなくクラスター爆弾の運用は停止されました。
この、クラスター爆弾禁止条約にはいくつかの例外規定があり、現在はEFP(自己鍛造弾)を用いた代替装備の開発が進められていますが、実用化されるかは不明です。
謎の勘違い
ここからは余談ですが、2001年10月のアメリカによるアフガニスタン攻撃でクラスター爆弾が使用された件に関して、社民党の辻元清美議員が、中谷元防衛庁長官(防衛庁長官としては初の自衛隊出身者)に対し、
「このクラスター爆弾というのはどういう爆弾と防衛庁長官は認識されていますか。」
と質問したところ、中谷長官は「地中深くまで、三十メートルぐらいでしょうか、入って、そこで爆発をして地域を破壊する爆弾だというふうに思っております。」
と回答し、 辻元議員に「それは別の爆弾ですね。防衛庁長官、しっかりしてくださいよ。」と返された議事録が残っています。
今でも話題にされる「B-52が艦船から飛び立ち」という発言がなされるのは、この1か月後のことでした。
ちなみに、BLU-108といえば、CBU-97クラスター爆弾が内蔵する子爆弾集合体のことですが、BLU-109は、重量約2000ポンドの貫通爆弾のことを指すようです。
兵器の名前は多種多様で、そのうえ用途は異なるのに名称が似ていることはよくありますから(文民による議論においては)多少の間違いも許容されるべきだ、と私は思います。
次回は空自の空対艦ミサイルについて解説いたします。
参考
国会議事録
第153回国会 衆議院 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会 第7号
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/153/0104/15310160104007a.html
第166回国会 参議院外交防衛委員会 第7号 2007年4月24日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/166/0059/16604240059007a.html
主要記事の要旨クラスター弾の軍事的有用性と問題点―兵器の性能、過去の使用例、自衛隊による運用シナリオ―(福田毅 2007年9月)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999717_po_068008.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
世界の傑作機 No.117 三菱 F-1(ISBN978-4-89319-141-0 2006年10月5日)
F-2の科学 (青木謙知 ISBN978-4-7973-7459-9 2014年4月25日)
防衛庁技術研究本部五十年史 II 技術研究開発 5.技術開発官(誘導武器担当)(防衛庁技術研究本部 2002年11月)
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コメント
一番ヤバいのは僕はものすごく軍事に詳しいんだと過信するタイプです
僕は詳しいんだ防衛大臣「P-8買おうぜ!」
こういった誘導爆弾を敵艦船に向けて落とす時ってどんな想定になるのだろうか?
対空能力マシマシの海上主力艦に突撃するのは対艦ミサイル部隊の役割だろうけど・・・
上陸作戦中の上陸艇や輸送艦に低高度で侵入してトス爆撃で放り込んで赤外線誘導で安全確実に攻撃完了 なんて感じだと合理的だし、むしろ赤外線誘導爆弾以外に何を使えって感じますね
クラスター爆弾は海岸線の防御には使えるけど内陸で使っちゃうと後処理が大変なので仕方ないのかね〜
開発中の「島嶼防衛用高速滑空弾」では「高密度EFP(自己鍛造弾)」を使ってクラスター爆弾的な効果を狙っていますね、クラスター爆弾と違って内陸部でもガンガン使えるしこちらの侵軍に合わせて使えるので必要十分な代替兵器となりうるのかな?
※1
某総統「わい軍事の天才、欧州制服軽くなしたから腐った建物みたいなソ連なんてひと蹴りすれば崩壊するだろwww」
文民の大臣(軍事を良く分かってない)と質問する野党議員(やっぱり良く分かってない)のやりとりは、見ててもどかしいものです。昨年、攻撃型空母の議論が国会で再燃した時もそうでしたね。
nona様、投稿乙です。
※1
「新進気鋭」「歯に衣着せぬ論客」「私は工学に詳しい、銀河の帝王にして全宇宙の支配者」とか自分で言ったり取り巻きに言わせている人たちや、私のような「キーボード特技兵」にとって耳が痛いワニ。
結局 この辺に仕掛けました→じゃあそこは立ち入り禁止ね くらいにしかならないだろうな クラスター弾も同じで使用地域が立ち入り禁止地域になっていつ完全除去されるのか?なんて福一同然な状態になるだけで
基本国内で戦う日本としては条約締結もやむを得なかったのかな、と思う でも仮想敵国は未加盟だし、同盟国も作戦上の必要を理由に使いそうだし・・・うーん
普通に考えればそうなるかと。
ただ、水際防衛時となるといくらその場が不発弾処理で後々困ろうと防衛できなきゃ意味がないのも戦争の厳しさ。
地雷や不発弾処理に関しては例え通常爆弾や精密誘導爆弾であっても発生は防げない。
結局規模と運用要求の問題で、物量で劣勢な大規模な揚陸作戦に対抗するのには相応の被害も覚悟する必要があるのも理解できなくはないかなぁ。
不発弾処理だけでなく海だって未だに太平洋戦争時の機雷処理してるくらいだし。
(数年前だか近所で処理してたのには驚いた)
地雷といえばカンボジアが有名だけど、あそこは敵味方が入り乱れて地雷ばら撒いたせいで地雷が民家の壁からも出てくるほど乱雑な運用がなされてたそうです。
より計画的な焦土作戦の方がまだマシなレベル。
爆弾抱えて、タイのウタバオ基地に着陸出来ないから
クラスター爆弾をラオス領内にボンボン投棄しちまって大量の不発弾が拡散しちゃった!
というのがデカイ。
>>6
空中ロックオン出来る様なので、トス爆撃用でしょう
海面上を500ノット程度で驀進し、迎角45度で急上昇
HUD上に着弾クロスヘアーを敵艦群真ん中に志向してアフターバーナー焚いて超音速で投下。
爆弾は砲弾のように空を駆けていく!!!
500lbs爆弾なら240mm級巡洋戦艦の主砲弾に匹敵する威力となる。
問題は、翼安定式滑空砲弾の様なシロモノなので、クラスター爆弾以外ではマトモな命中精度なんざ無いよ
しかし、赤外線自律空中ロックオンならその問題が一挙に解決する。
なお、誘導は有人戦闘機による体当たり特別攻撃の操縦パターンをシュミレータ使ってデータ化し全てAIプログラム化して対応している。
この場合、高高度進撃急/緩降下突入という、陸軍機特攻機の突入要領を踏襲しているとみられる。
ASM1は超低空侵入超低空突入、ASM2はそれに加えて突入寸前に高度1000m程度まで急上昇して急降下突入の複数パターンを採用と。。
カンボジアよりタチが悪いのがラオスの不発弾。
JMAS(陸自不発弾処理隊OBが主要メンバーのNGO)
が大変に苦労して、多種多様な不発弾を処理している。
クラスター子爆弾の信管の特徴から不発率が高いんだよ。
基本的に、JM261 2.75inマルチパーパス弾の子弾信管と同じ基本構造。
凹みのある雷管上にボールベアリングを置く、それを左右から挟んで押さえる様にU型のプラスチック板が押し込まれる。
そのボールベアリングに先っぽをボールベアリングの曲率に合わせた撃針を撃針バネで圧した状態で嵌め込む。
U型のプラスチック板には布製のフィラメントが固定されており、爆弾ケーシングから子爆弾が放出されたら風圧で抜けて離脱する!
そうすると赤色のベロ👅が信管からはみ出す。
この状態で落下する。何かに当たればボールベアリングが弾け飛び信管が起爆しHEAT-MPが起爆する!
対人専用のボール型子爆弾の物も有るが、信管は似た様な構造。
で、錆止め油がCastor油みたいに固化し易い物を使ってたらしくて、田んぼの泥、下草の生い茂る草原、竹林の落ち葉や竹の葉の上、常緑広葉樹の葉
こういったものに落ちると30%以上が不発弾となる。
しかし、蹴飛ばしたりすると信管は生きているのでドカンとなる。
救いようが無いのが、ラオスにそんなに投下した理由がある。
ベトナムは悪天候で出撃しても30%くらいの確率で目標が確認できなくて爆撃を中止したんだと!
で、タイの空軍基地借りてたんだが、爆弾搭載状態での着陸は危険すぎるので予め投棄して捨ててから着陸進入する事を厳命されていた。
そこで、ベトナムとタイの間にあるラオスの反政府共産ゲリラのパテトラオ支配地区に自由に投棄したんだよ。
狙わずにテキトーにね。子供がクラスター子爆弾から爆薬抜いてダイナマイト漁したり、爆弾ケーシングの鋼材を廃品回収して儲けたりするレベルで。
中には大型黄燐焼夷弾が丸ごと不発弾になってる物すら。
で、コレらが国連で大騒ぎしてあの条約となったの。
その辺りは、次回の対艦誘導弾の話で説明があるはずですよ。
ASM-1とセットで運用されるのを争点されてましたから。
それに当時の艦艇の近接防空火器はSAMと比較するとまだ脆弱なので。
記事の最後にありますよ
安価な対艦ミサイルということで、当時の支援戦闘機の主任務が洋上阻止攻撃だったことがよくわかる装備品。
海上の標的以外を狙えないあたり、本当に熱線しか感知できないようだけど、ある程度でも自律性がある分、攻撃側からはありがたい装備であったはず。
※1
統領「兵役時代は模範兵で、第1次大戦では斥候として何度も活躍したこの私が、軍事に詳しくないだって!?」
※5
あと大戦末期に海防艦「粟国」を大破させたBATなんて装備も。
無線誘導だったフリッツXやイ号噴進弾と違って、アクティブ・レーダー・ホーミングによる自律誘導兵器だったけど、使用した評価はあまり芳しくない模様。
僕は軍事に詳しいんだって防衛庁に売り込みにいったピュアバレー先生がたまたまいた某ドラゴン大臣に返り討ちにあった話があるとかないとか
>>15
だから、MK1アイボール(目玉)で探知して、MK1(脳味噌)で演算して、MK1生体操縦システム(人体)で誘導して
爆弾を目一杯搭載した各種軍用機で体当たり突入する
特別攻撃隊が編成されました!!!
人間がシーカーヘッドであり、人間がCPUであり、人間がアクチュエータである。こんなの人間じゃないです!機械部品ですわ。
その結果、スレタイの赤外線誘導爆弾や対艦ミサイル大国と成り果てるのです。
ジャベリンが10万ドルで、兵士に手榴弾がわりに使うな!と厳命されてなかったか?
まあ、アレとか01式軽MATが撃ち放し式赤外線誘導だけど。
昔の誘導弾は高いから。ましてや量産されず単品特注品のモノだとね。
砲弾だって、TNT炸薬の105ミリHEなら数纏まれば一発5万円で買えるでしょう?
20ミリ機関砲弾が1万円以上するんだけどね。
ロボット生産ライン組んで、流れ作業で1万発つくるとかになればも少し安くなるはず。
クラスター爆弾や対人地雷、白リン弾()は非人道兵器として、禁止させようとする活動とかあるから、その関係で知っていたんだと思う。
改めて調べるまで、エロ爆弾こと、イ号爆弾とケ号爆弾がゴッチャになってた。
温泉(熱源)に突っ込んだって事で、勘違いしてたかも。
直接関係無いけど、対人地雷も「正規軍はちゃんと仕掛けた位置配置も記録するから大丈夫(キリッ」とかいうけど実際どれだけが爆発してどこのヤツが残存しているのかなんて戦闘状況で精密に記録できるのかね
結局 この辺に仕掛けました→じゃあそこは立ち入り禁止ね くらいにしかならないだろうな クラスター弾も同じで使用地域が立ち入り禁止地域になっていつ完全除去されるのか?なんて福一同然な状態になるだけで
防衛において対人地雷かなり効果的な物だったから陸自にとってはかなり痛かった。
少なくとも陸自では対人地雷に関しては、かなり精密に記録する運用だった。そうじゃないと、逆に我側の障害にもなる。後先考えずにゲリラの活動を妨害するような目的で使う訳ではない。
仕掛け方も効果的なパターンがあるし、基準になる物は簡単に吹き飛んだりしない物を複数使う、資料も複数作って、基準になる場所等に、安全ピン等と一緒に埋めるとか、処理、回収を前提にしてる。
無秩序にばらまかれた地雷とは違うし、
少なくともクラスター爆弾とかのようにどこにどれだれあるもかわからない不発弾とも全く違う。
あと地雷や不発弾の被害は教育不足や知ってても、貧困から鉄屑として売るために危険をおかして拾いに行って被害に合うとかが多い。
そもそも敵は日本に配慮して対人地雷を使わないなんて事もないし。
なるほど運用の仕方によって爆弾・ミサイルそれぞれの欠点をカバーするわけですね。
※15
どうも電子妨害に弱かったみたいですね。一つ対艦誘導爆弾について詳しくなりました。ありごとうございます。
自己鍛造弾が事故鍛造弾になってますね
ご指摘ありがとうございました。
修正しました。
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