空自の日本防空史63
F-4EJ改のアビオニクス


文:nona


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2018年の百里基地航空祭で飛行展示を実施する302飛行隊のF-4EJ改。

F-4EJ改のセントラルコンピュータ

 F-4EJ改はセントラルコンピュータとしてJ/AYK-1を装備します。
 試作改修機ではF-15Jと同じCP-1075/AYK(IBM AP-1)が装備されたとされ、量産改修機ではJ-MSIP機が搭載するCP-1075A/AYKが検討されたようですが、F-4EJ改では何らかの事情、恐らくはサイズや電力などの超過が原因で搭載が見送られ、三菱電機が製作したJ/AYK-1が採用されました。

 セントラルコンピュータは各種センサーの情報をもとに、ミサイルの射程計算や、機関砲および爆弾の弾道計算を実施し、HUDに照準点などを表示するなどして、パイロットを支援します。


新型のIFF

 F-4EJ改は新たなIFF(敵味方識別装置)として、すでにF-15やE-2早期警戒機で採用されていたAN/APX-76A選択識別質問機を搭載し、IFFモード4に対応しました。

 モード4以前のIFFは暗号化されておらず、逆探知の危険もあることから、味方勢力下での使用に限定されていましたが、視界外射程ミサイルの射撃や、空中管制機による前線での航空管制に支障をきたしていました。

 アメリカ空軍のF-4E後期型では、AN/ASX-1TISEO(電子光学目標識別システム)の名で搭載された望遠テレビカメラを用い、対象がMiGか否かを判断していたそうです。

 F-4EJ改の場合は、HOTASスロットルの質問波スイッチを押すと、J/APG-66JのIFFアンテナから質問波が発せられ、レーダーの指向された方向への誰何が可能とされています。

 ただし、相手機にレーダーを向けることで、敵に逆探知される恐れがあるうえ、以前の記事で紹介した通り、IFF自体にも様々な問題がありますから、できるかぎり目視による識別が求められるようです。


航法装置を高精度に

 F-4EJ改はINS(慣性航法装置)にJ/ASN-4を採用しました。これはリットン社のLN-39航法装置を国産化したもので、アメリカ空軍においてはAN/ASN-141と呼称され、A-10攻撃機に搭載されていました。

 元三菱重工社員の尾関健一郎氏によると、LN-39を採用した理由は、AN/APG-66レーダーと同様に、機器のサイズにあったそうです。

 精度については、従来のJ/ASN-63航法装置の誤差が3海里(5.5キロ)/時であるのに対し、J/ASN-4は0.8海里/時。離陸前のジャイロ整合に十分な時間をかければ0.3~0・2海里/時まで誤差を抑制できます。

 このような高精度な測位を可能にしたのはJ/ASN-4が内蔵するレーザーリングジャイロの効果が大きいようです。

 また、ASN-4はウェイポイントを12個、目標座標を3個記録する機能があり、HUDへの表示にも対応します。

 なお、F-4EJ改は、電波航法用のTACAN(戦術航法装置)も搭載しています。TACANの誤差は0.2海里と言われ、J/ASN-4以上の精度を有しますが、敵勢力下や山間部、洋上、低空域などで基地局の電波を受信できない場合もあり、このような環境では慣性航法装置が重宝されるようです。


電子戦装置も一新

 F-4EJ改のレーダー警戒受信機は、これまでのJ/APR-2からJ/APR-6に換装され、対応する周波数帯域が拡大されています。

 レーダー警戒受信機の表示画面は、F-15JのJ/APR-4と同様に、放射源の種別、方位、電波の強度をシンボルアイコンとして表示する方式に変更されました。

 また、RF-4E/EJ偵察機では、それぞれJ/APR-5AとJ/APR-6Aが搭載されており、受信したレーダー情報をDRAMもしくはEPROMへの記録に対応し、簡易的な電子偵察機としての運用も可能です。

 囮発射装置としては、AN/ALE-40対抗手段散布装置が採用され、チャフおよびフレアの使用を可能としました。

 このAN/ALE-40はAIM-9用パイロンの後端に装備され、機体に直付けされていません。
 電波妨害装置としてはAN/ALQ-131を搭載しますが、これも外装式です。

 AN/ALQ-131は電源と5つのモジュールで構成され、それぞれが異なった周波数帯の妨害を担当するほか、状況に応じて複数モジュールの統合も可能であり、妨害対象への最適化やシステムの近代化改修が容易、とされます。

 なお、F-4EJ改事業が始まる直前の1981年3月、国産のJ/ALQ-6訓練用妨害ポッドの配備が開始されていますが、F-4EJ側にも改修を施す必要があることから、搭載機は限られており、短期の運用にとどまっています。


RF-4EJの偵察ポッド

 RF-4EJは3種類の偵察ポッド、LOROP、TAC、TACERを装備し、用途に応じて使い分けます。
 LOROPポッドはKS-146A望遠カメラを装備し、50海里(92.6km)先の1mの物体を識別する能力があるため、(天気が良ければ)スタンドオフ偵察が可能です。

 TACポッドはKA-95B高高度偵察カメラ、KS-135A低高度偵察カメラ、D-500低中高度赤外線偵察カメラの3種類を搭載し、比較的近距離における偵察に対応します。

 上記のROLOPとTACは9インチ(あるいは6インチ)のフィルムを用いますが、解像度が求められる場合は、あえてモノクロフィルムを用いるそうです。
(とはいえ、RF-4が活躍する災害派遣の現場では、カラーの要望が多いようです)

 また、赤外線カメラの解像度は可視光カメラよりも劣るとされ、RF-4E/EJでは夜間撮影専用の機材となっていますが、熱源を記録できることから火山噴火の撮影で使用されることがあり、2011年の東日本大震災では福島第一原子力発電所の撮影に使用されました。


TACER

 TACERは電子偵察用のポッドであり、フランスのトムソンCSF(後のタレスグループ)で設計され、三菱電機が国産化しました。

 TACERはレーダー波の探知、識別、記録機能に加え、自身の移動時間と電波発信源の角度の差異をもとにした発信源の評定機能や、取得した電波情報を地上へ送信する機能も有します。

 これらの機能により、RF-4EJ改は相手が発するレーダー波だけで索敵し、味方部隊に攻撃目標を指示することも可能、とされます。

 もちろん、YS- 11EBや海自のEP-3などの電子情報収集機のほうが、電波の収集帯域や分析能力において優れていますし、早期警戒機や哨戒機でも電波による発信源の評定は可能とされます。

 しかし、敵勢力下において積極的に索敵できるのは、戦闘機をベースとするRF-4EJくらいなものでしょうから、有事においてTACERも重宝されたはずです。


 ここまでF-4EJ改を能力向上に中心に解説してまいりましたが、次回は同機の「延命」について詳しく解説いたします。


参考

航空自衛隊F-4(イカロス出版 ISBN978-4-86320-202-3 2009年11月5日)

F-4 ファントムⅡの科学(青木謙知 ISBN978-4-7973-8242-6 2016年)

戦闘機パイロットの世界“元F-2テストパイロット”が語る戦闘機論(渡邉吉之 2017年9月10日)

永遠の翼 F-4ファントム(ISBN 978-4-89063-378-4 小峰隆生 2018年12月20日)