空自の日本防空史54
硫黄島,移動訓練の地に
文:nona
今回からは1980年代に本格化した硫黄島基地の活用について解説いたします。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2002/photo/frame/ap145031.htm
2002年度防衛白書に掲載された硫黄島の全景写真
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移動訓練の地となった硫黄島
硫黄島は東京から南へ約1200km、小笠原諸島の南端に位置する孤島です。1968年にアメリカから日本へ返還され、海自の分遣隊が基地施設を引き継ぎました。
返還の当初は、目立った活用はされなかったのですが、本土では1971年の雫石事故をきっかけに空自の飛行訓練空域が見直されており、新たに移動訓練を実施できる土地が求められていました。
候補地選定にあたっては、アメリカのネリス空軍基地など、天候が安定し設備も整った北米大陸の飛行場を間借りする構想もあったのですが、最終的に硫黄島が移動訓練地として選ばれ、1982年に「硫黄島訓練場整備計画要綱」が策定されました。
同年には訓練支援を目的とした海自の救難飛行隊の常駐が始まり、1984年には空自の硫黄島基地隊が創設され、移動警戒レーダーのJ/TPS-101が固定型に改めた状態で配備されました。
硫黄島の基地化が進む一方、太平洋戦争時に疎開した元島民よる硫黄島への帰島運動も続いていたのですが、政府は火山島としての危険性、あるいは生活・経済基盤の不備を理由に、民間人の定住を認めませんでした。
その補償として、1985年に元島民に対し一人あたり45万円の見舞金が支給されたようですが、国会において、野党議員から「島内を自衛隊の管理下とするための厄介払いだ」という旨の批判もなされています。
NLPも硫黄島で
1991年からはNLP(夜間離着陸訓練)のため、米海軍機も定期的に硫黄島を使用しています。その発端は1982年に始まった神奈川県厚木基地のNLP反対運動でした。
NLPは夜間に複数の空母艦載機が飛行場を周回し、滑走路への模擬着艦を繰り返すため、周辺住民への騒音被害も大きいものだったのです。
政府はNLPの移転先として、1983年に伊豆諸島の三宅島、さらに浮体飛行場(メガフロート飛行場)を検討したのですが、三宅島における島民の反対運動が長期化したこと、1987年にアメリカ海軍も浮体飛行場を拒否したこともあり、暫定措置として硫黄島でのNLPが開始されました。
その後30年近く硫黄島でNLPが実施されていますが、2018年に空母航空団が厚木基地から山口県の岩国基地へ移転したことに関係し、空母着艦訓練全般の訓練地を、鹿児島県の馬毛島に移転する計画が進行中です。
この計画の一環として2019年1月、防衛省は同島を160億円で購入しています。
硫黄島の生活環境
硫黄島での移動訓練は騒音や民間機とのニアミスの問題を気にせず、比較的自由な訓練ができたようですが、離島ゆえの不便な環境が訓練に支障をきたす場合もありました。特に水の不足は切実な問題だったようです。
それまで硫黄島基地では滑走路に降った雨水を生活用水としていたのですが、1980年代の移動訓練の関係で島内人口が40名から400名に急増し、さらに航空機の洗浄用としても真水が使用されるなどして、水の供給が追い付かなくなっていました。
1983 年に初めて同地を訪れた佐藤守氏は、同島の厳しい水事情を聞き付け、水の入ったポリタンクを輸送機に持ち込だほどです。
島外脱出計画
もし貯水量が一定を下回ると、まずシャワーと洗濯が隔日に制限され、最終手段として「島外脱出計画」も発動される予定でした。
この計画は実際に発動されたことがありますが、その際は救難隊の40名だけが硫黄島に残ったそうです。
その後、硫黄島には約8万トンの貯水池が建設され、造水装置の導入されました。「航空自衛隊50年史」では水不足の問題を「ほぼなくなっている」と解説しています。
ところが、2011年の7月には雨の不足で貯水量が4分の1まで低下。この時は400名の隊員のうち300名が本土に引き揚げ、残る隊員も節水でしのいだ、という話です。
硫黄島の娯楽
硫黄島は文明から隔絶され娯楽も少ない土地ではありますが、基地施設整備によって改善された部分もあります。
かつて個人の連絡手段は手紙に限られており、それも3日に1度だけ、というものだったのですが、1985年に衛星電話が利用できるよう改善されます。これは同年に民営化したNTT(旧電電公社)の支援をうけたものでした。
その後に本土で普及が進んだ携帯電話やインターネットへの対応は遅れたものの、2016~7年にかけ携帯電話各社の4G通信に対応し、あわせてインターネットへの接続も可能とされています。
また「航空自衛隊50年史」では、硫黄島ならではの娯楽を「積極的」に紹介しており、
いわく、
・9ホールのゴルフ場(米軍時代に造成、荒地に近い。)
・硫黄島温泉(露天掘りのサウナ)
・釣り(90cm,8.5kgのアオチビキが釣れることがある)
・島内一周17.5kmのジョギング・コース
などの例を挙げています。
そのほか厚生面に関しても「公害はない。給養は防衛弘済会が実施し、食費は1日923円、夜は満天星の下で営内生活は快適で健康そのものである。」と珍しく僻地勤務の環境を讃えています。
一方、火山活動の危険やサメ、マダラサソリ(毒は弱い)の害について注意すべき、とも記していますが、島内でおきると言われる怪奇現象については、さすがに触れていません。
次回は、1987年に硫黄島で起きた、あるアクシデントを解説いたします。それは同年12月の警告射撃事件にも劣らぬ緊迫したものでした。
参考
航空自衛隊五十年史(航空自衛隊50年史編さん委員会編 防衛庁航空幕僚監部発行 2006年3月)
米軍機訓練の移転候補地、馬毛島買収で合意へ(読売新聞2019年1月9日)
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190108-OYT1T50136.html
第98回国会 参議院決算委員会 第3号 1983年3月23日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/098/0410/09803230410003a.html
第101回国会 参議院決算委員会 第1号 1984年9月18日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/101/1410/10109181410001a.html
ジェットパイロットが体験した超科学現象(佐藤守 ISBN978-4-7926-0448-6 2011年4月11日)
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コメント
ドイツ空軍ではパイロット養成をアメリカ移管ですな
ただそのおかけで、アメリカ育ちのパイロットがドイツの空に対応できないなんてことに…。
硫黄島の水事情は、溜池ができてからかなり楽になったとは聞いたけど、今でもまだまだ厳しいものがあるんだな…。
サソリといえば、入間基地の硫黄島分遣隊のマークがサソリだった。
>怪奇現象
硫黄島は日米双方にとっての激戦地なので、日本兵のだけでなくアメリカ兵のにも遭遇するとのこと。
訓練等で訪れた現代のアメリカ兵が外を歩いていると、突然そばのヤブから古臭い装備で武装した兵士が現れて、「何をボーッとしている! そばにジャップのバンカーがあるんだぞ!」みたいなことを言ってどこかに消えるらしい。
戦死した後も戦争してるあたりに、メンタリティの違いを感じる…(エインヘリヤルかな?)。
はじめから水を貴重な資源として徹底管理する艦艇と、あくまで陸上勤務でしかない基地では、上下水道風呂選択など一人あたりの水使用量が段違いなんでしょうか
とくに硫黄島は地殻変動が激しくて、トンネルならまだしも大規模タンク等の地下化は難しそうだし
面白い。硫黄島の幽霊の話をもっと聞きたい
訓練場ってのは難しいですな。
どう考えても足りなくなる空母と雨さえ降れば…!の陸上基地だと後者への設備投資が疎かになるんでしょうか
病弱な子は良く構ってもらえて、元気な子は放任っていう感じですかね?
いや違うか…
もちろん亡くなった両軍将兵への敬意は忘れずに。
まぁいわゆる「陸の孤島」よりも諦めがついて良いのかもしれないがw
水不足は第二次世界大戦時の硫黄島の戦いでも大変だったみたいね、艦船なら高出力な主機の廃熱を生かして海水を沸騰させるタイプの海水淡水化プラントがあったりするのだけど、硫黄島のような小さめの陸上基地ではそこまで行うほどの発電機は無いのかもね。
小さめの海水淡水化プラントを建設するのがベターなんだろうけど、動かすのに燃料を余分に食うし消耗部品も色々ある、万一壊れた時とかを考えると潤沢な雨水を貯めておいた方がお得で安心って話になるわな〜
しかし「島外脱出計画」が発動されるほどとは・・・
今後中国軍艦艇が太平洋まで進出するのが多くなると硫黄島をもっと活用して って話が出てきそうだけど、そうすると施設整備とかも大変そうだのぅ(´・ω・`)
硫黄島ならE-2DもF-35Aもフル重量で運用出来るし、いずも型が居住環境と管制・指揮能力を提供すればかなりの航空戦力を運用出来ると思うんだよね。
まあいずも横付け出来る港湾はないだろうから妄想の域は出ないのだけれど。
まあ、海自だとEEZが独立している南鳥島もあるけどワニ。
真夜中に怒鳴られ叩き起こされる米兵
拾った煙草で殺されかけた自衛官
突然、ふらふらと歩きだし錯乱する両隊員
配属になった日米隊員による恒例の怪談話
銃の携行は禁止
平成に入って行われた天皇陛下の慰霊によって激減したこれらの怪奇現象etc...とまぁ、出るわ出るわ
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