空自の日本防空史48
目標は撃墜された
文:nona
KE007便が撃墜されるまでにたどったとされるコース
https://en.wikipedia.org/wiki/Korean_Air_Lines_Flight_007#/media/File:KA_Flight_007.gif
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目標を撃墜せよ
迎撃管制官は再度KE007便の背後についたオシーポヴィチ中佐機に「機関砲で攻撃せよ」と指示したものの、すでに警告射撃で撃ち尽くしており、
迎撃機のパイロットであればだれもが意識する「体当たり」も、できれば避けたいと思っていました。
中佐はミサイルによる攻撃を決定し、Su-15を失速状態に入りつつ降下、8kmの距離で態勢を立て直します。
そして午前5時25分31秒、中佐は赤外線誘導型のR-98Tとレーダー誘導型R-98Rの双方を発射、30秒後にR-98RがKE007便の尾翼付近で炸裂しました。
「目標は破壊された」
中佐は007便にミサイルの命中を地上へ報告し、KE007便は尾翼の方向舵制御系と油圧系統を損傷、1.75平方フィートの破孔によってキャビンは減圧を始めました。
KE007便の乗員は「何が起こったんだ」と叫び、気圧を維持すべく機体を降下させます。しかし、やはりソ連軍機に攻撃によるものだとは気づいていません。
迎撃管制官は、中佐の僚機のSu-15とスミルヌフ基地から発進したMiG-23にKE007便のとどめをさすよう指示していたものの、降下するKE007便を捕捉できませんでした。
KE007便は被弾後もしばらく飛行を続けていたようですが、午前5時38分ごろ、宗谷海峡と間宮海峡の中間にある海馬島(モロネン島)の海岸付近で、地上レーダーからも消失。
乗員乗客269名も全員が死亡した、とされます。
凱旋から人でなしへ
ついに領空侵犯機を撃墜したオシーポヴィチ中佐のSu-15ですが、間もなく燃料警告灯が点灯。中佐のSu-15は機関砲ポッドを携行しており、増槽を搭載できない状態で任務についていたようです。
この時点でソーコル基地から150kmの距離がありましたが、残りの燃料で飛行できる時間はたったの10分。
基地付近では霧も発生し、困難な状況での着陸を強いられますが、無事に帰投すると隊員達から熱烈な出迎えを受けたようです。
後輩からは羨望の眼をうけ、古参の隊員達も早朝から「早速乾杯だ!」と基地中が歓喜に包まれていました。
しかし、撃墜から2時間もすると民間機を撃墜が疑われ始め、しばらくしてソーコル基地へ軍委員会がやってきました。
中佐は質問攻めにあい「269人の乗客(と乗員)がいたことを知らなかったのか?」と尋問され、人でなしを見るような眼差しを向けられた、とのこと。
再び英雄となった中佐のその後
軍事裁判にかけられる気配すらあったオーシポヴィチ中佐でしたが、ソ連首脳部が撃墜を正当化する方針をとったことで、中佐の待遇は一変。
現場にウスチノフ国防相から電話がはいり、それからは命令されたかのように皆が笑顔を見せた、といいます。
中佐と家族は、ある事情(現地の朝鮮系住民による報復をかわすため、とも)でソーコル基地からの転属を勧告されたのですが、任地を選択する権利を与えられ、赴任先でも祝福された他、何かと便宜を図ってもらえました。
ところが、異動先で乗機のエンジン停止事故にみまわれ、緊急脱出の際に負傷。パイロットを続けられなくなり、彼はやむなく予備役へ編入します。軍での最終階級は大佐でした。
ソ連の解体後は年金を糧に家族と平穏に暮らしていたようですが、イズベスチヤ紙の取材をうけた際には、KE007便の撃墜が彼と家族に小波を立てていた様です。
前回の記事で紹介したように、彼は不明機にボーイング747の特徴を見たこと、それを報告しなかったことを告白していますが、民間機を撃墜したのか、という問いに対し、彼は「撃墜した機がスパイ機であり、乗客はいなかった」と、ソ連軍と同じ主張を繰り返しています。
彼の行為による民間人269名が死亡という結果は、常人では到底受け入れられない重大ものであり、ましてや償いきれるものでもありません。
ですから、彼の現実から目を背けるような発言も、致し方ない事なのかもしれません。
オシーポヴィチ氏を取材したイズベスチヤのイレーシュ編集長いわく、彼もまた「あの異常な状況の犠牲者」であると語っています。
大佐の大出世
優柔不断な上級司令部に対し、最後は半ば独断で撃墜を命令したカルヌコーフ大佐でしたが、彼にとっても撃墜はプラスに働いており、事件後は順調に出世コースを歩みます。
1987年にヴォロシーロフ記念軍総司令官大学を経て将官へ昇進、モスクワ地区の防空司令など要職を経て、1998年に新生ロシアの空軍総司令官に任命されました。
退役後はアルマズ社に身を置きミサイルなど兵器開発に関与し、2014年7月1日に死去。
彼が死去した直後にはウクライナにおいてマレーシア航空機の撃墜事件が発生していますが、カルヌコーフ氏の出身地はウクライナのルガンスク州で、事件の中心となったドネツク州と同様に分離独立を主張していました。
もし彼が健在であったなら、マレーシア機の撃墜を擁護する立場をとったかもしれません。
なお、生前のコルヌコフ氏は、KE007便の撃墜は当時のソ連軍法と国際条約に違反するものでなかったこと、KE007便の領空侵犯がアメリカによって仕組まれたものである、と撃墜が正当であると主張。
これは彼の空軍総司令官という立場もあり、ソ連および新生ロシアの公式見解とみなされるものとなっています。
次回は撃墜が発覚した9月1日以降の出来事などを解説いたします。
参考
ボイスレコーダー撃墜の証言 大韓航空機事件15年目の真実(小山巌 ISBN978-4-06-209397-2 1998年10月15日)
航空自衛隊五十年史(航空自衛隊50年史編さん委員会編 防衛庁航空幕僚監部発行 2006年3月)
大韓航空機撃墜九年目の真実(アンドレイ・イレーシュ,エレーナ・イレーシュ 共著,川合渙一 役 ISBN4-16-345680-5 1991年10月15日)
世界の傑作機 No.120 スホーイSu-15 フラゴン世界の傑作機 No.120 スホーイSu-15 フラゴン(ISBN978-4-89319-147-2 2007年3月5日)
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コメント
747は軍用機ではあり得ん
しいて言うならエアフォース1くらいか?
しかしそれならそれで大問題
こう、撃墜を命令したカルヌコーフ大佐がその後も順調に出世して空軍総司令官にまでになっているのは流石にモニョるな(´・ω・`)
この事件の5年前に起きた大韓航空機銃撃事件では、これまた大韓航空機の機体がソ連軍のSu-15に撃たれたようだが、その時はミサイルの当たりどころが良かったというべきか悪かったというべきか、乗客2名死亡13名が重傷で機体は主翼先端が分離するも2時間飛行を続けて凍結した湖に不時着、多くの乗客が助かっている。
この事故でもミサイルの当たりどころが違えば、あるいは機銃で一部の損傷に留めることが出来れば、その後の推移は変わったりしたのだろうか・・・?
他にボーイング747の派生軍用機型だとE-4がある
こんなゆとり的コメントが出る時代か
冷戦下の当時の状況を考えれば旅客機でも領空侵犯していればスパイ機として疑われても当然であり、陸地に近づけは撃墜される。
気づいていたのかどうかは知らないが、当時のサハリン上空で領空侵犯したコリアンエア機側の問題の方が大きいだろ、自殺行為
いくらが外観が民間機だろうと偽装している可能性もあるし、
民間機に偵察機材を仕込んでいる可能背もある。
*理由があれば民間旅客機を撃墜してもいいなんて理屈は理解に苦しむ
地雷を踏んだだけ。冷戦期にKE007のコース飛べば撃墜されると、パイロットであれば誰もが認識していた。
「疑わしい」だけで撃墜してたら国際法違反ね
国際法規に定められた手順で対応しなければならない
冷戦中だろうが戦争中だろうが手順を踏まなければいけない
日本の先の大戦での戦争犯罪に総じて共通するのはこれですよ
軍律裁判など手順を踏んでいない
手順を踏んでいたので無罪になったケースもあるね
〜だからーといって勝手な都合で法規無視せずにね、遵法精神持った方がいいですな
結局この事件で損してるのはソ連ですしね
国益損ねて何の得にもならなかった
世界の傑作機でこの件を読んだけど、パイロットの悲哀に涙した……。
もし特徴を伝えて上層がgdgdしている間に逃げられたら、責任が自分に被せられるとか、
見えている民間機の特徴自体が西側の偽装かもとか、そもそもこんなコースを民間機が飛ぶはずがないとかの葛藤だっただろうな……。
米軍にもイージス艦によるイラン航空655便撃墜事件とかあるけど、こちらも気になりますw
自分の家族でも親しい友人でもそれこそ恋人でも、同じように犠牲になっても同じ事をいえるんでしょうかね?
問答無用で旅客機だろうが撃墜して当然ていうのが当然ではなく、そもそも間違ってると思うけどね
暴力団抗争事件に巻き込まれて一般市民が犠牲になったら、抗争してるのに出歩く方が悪いと考えるのでしょか?
そう考える連中も一定数いるようだけど
領空を侵犯して来た他国の民間機を直ちに撃墜して
はならない、という国際規約(シカゴ条約)が
明文化というか実効化したのは、この事件が契機
だったらしいんすよ。悲しいことにね。。
ソ連を擁護する人は人命の重さを何だと思っているのか。
そのような非道な行為は何倍にもなって自らに跳ね返ってくるだろうが。
手続きに関してはそうみたいだね
しかし以前に戦時国際法絡みで一通り調べたけど、民間機に対する交戦権がそもそも付与されていない
航空機の発達は最近の事なので法整備は遅れていたね
ハーグ条約絡みで空戦法規も規定され、命令に従わなかった時のみ攻撃可能。
民間機は命令に服さねけるばならない
命令に従わなかった場合に交戦権が付与される、だ。
↓
私航空機からみると、敵国か中立国かを問わず、私航空機は、交戦国軍用航空機による臨検、捜索及び拿捕に服さなければならない(第49条)。交戦国軍用航空機は、私航空機や非軍用公航空機に対し、臨検・捜索のために接近しやすい適当な場所への着水着陸、進航を命ずる。この命令に従うことを拒否したときは、射撃される
これを明確な手順として決められたのがシカゴ条約ではないか?
故郷でおっぱいが待っているというのに!(クワッ
ところでソ連軍の命令系統のgdgdもさることながらガンポッドのせいで増槽積めない機体で警告射撃に全弾使い果たすって一体どういう警告だったのか気になる。
一体何発撃ったんだろうか。
そもそも大韓航空がわざわざコースを外して他国の領空を侵犯しなければ何の問題も起きなかった。しかも一度ならずも二度。
何か感情論ぶってる方がいらっしゃるが、それを言う先は大韓航空じゃないのか。
文句を言う先はロシアで合ってるだろ
それに日本としてみれば件の領空は北方領土とも絡む問題だよな
なんでロシアをことさらようごする
冷戦中はアメリカが結構、領空侵犯して偵察を強行してるし、U2が落とされて時も最初は「民間機が事故で〜」とか発表したりとかしてるし、「民間機ですから」と言われて「はい、そうですか。」ともならないだろう。勿論、とりえる手段が変わる事はあるだろうけど。
レーダーやセンサーの性能が上がった現代でも誤射、誤爆は絶えないし、敵味方の識別は重要度が増してる、それだけ難しいって事でもある。
前の記事で「識別信号もなく海を越えて来た」って話があったけど、この辺はどういう事なんだろ。
UPK-23の250発全弾警告射に使ったってことか?
曳光弾入ってなかったとしても、
そんだけ撃たれて747の乗員は気づかないものなのかな?
もしも音声警告をしていたら大韓航空機側でも流石に認識しただろうし強制着陸なりできたかもしれん
今更言っても詮無き事だけど
それが領土上空を抜けたからいつものでは無いって成った結果とか
GSh-23の発射速度なら言うても全弾を4~5秒で撃ち尽くしてしまう量ですし。
>暴力団抗争事件に巻き込まれて一般市民が犠牲になったら、抗争してるのに出歩く方が悪いと考えるのでしょか?
そう考える連中も一定数いるようだけど
論点がずれ過ぎですよ
個人的に問題視したいのは、なんで曵光弾をソ連側は要撃機に搭載しなかったんだろうか。積んでないなら、どんなに撃っても警告にならない警告射撃にしかならないのでは
空自は相手を軍用機とはっきり認識した上で、沖縄本島上空を横断されるというクリティカルな状況にも関わらず、撃墜という選択肢を選ばなかった訳で。
あとこの時期は、ソ連政府指導部が機能不全を起こしていたことも事件に関係あるのではないかと。
この頃ソ連のトップだったアンドロポフは、高齢による体調不良で満足に執務ができない状態で、実際にこの事件から半年も経たないうちに亡くなってしまうという…(そして後任のチェルネンコも、書記長就任から1年で他界…)。
射撃を修正しやすい様に入ってるイメージだった。
アメリカのイージス艦が民間機落としたのもずっと軍用の周波数で警告してて民間機には何も聞こえてなかったから。
酔っぱらっておっぱい丸出しどころか全裸で歩いてる女の子がいたとしても、それを襲ったオッサンがいたらそいつはクズ野郎だろ
領空を侵犯しソ連に誤射させた責任を大韓航空がソ連に対してとればいい…のか?
その例えは少し正しくないと思う。
大前提で、完璧な対応せずに結果、誤射をしたソ連に責任はあるだろう。
例えるなら
いつか殺しにくるかもしれないストーカーに敷地内に入られては常に嫌がらせを受けては逃げられる。
また実際に何度もケンカになったりして周りからも「有名な危ない家」と言われてる家の敷地に間違って入って、その家の人にストーカーと勘違いされて刺された感じ。
それも二回目。
(ストーカー被害を訴えてた側もストーカーをストーカーしてたとか更に複雑な関係だけど)
ご自分で仰ってる通り、国際緊急周波数での警告という正式な手順を踏まなかったことがソ連側の落ち度であり非難される理由の一つです。
因みに軍側が正式な手順を踏んでいたとしても民間機の撃墜を正当化するのは外交上非常にリスキーです。
そのくらい軍と民間とは立場が違うと思ってください。
15様
Su-15はUPK-23-250ガンポッドを2個携行でき、
それぞれに250発の弾丸とGSh-23L機関砲を内蔵します。
連射速度は毎分3500発前後で
全弾を撃ち尽くすために約6秒を要します。
ちなみに中佐は「機関砲を4回に分けて247発撃ち尽くした」と回想しています。
UPK-23-250の総弾数は250発じゃないのか?
あるいは
なぜ500発撃ったと言わなかったのか?
など疑問は残りますが、
そこは想像力を働かせていただければ、と思います。
18様
大佐が言う「識別信号」とはIFFのことかもしれません。
19様
中佐機がコクピットの真横で
航行灯をつけ、機関砲を撃てば発砲炎で気付いたかもしれません。
あるいはアフターバーナーを焚きながら正面に出るなどすれば確実でしょう。
そうでもしないとあの状況では乗員は気付かなかった可能性は高いです。
旅客機のコクピットは視野が狭いうえ
パイロットも意外にも外を見ないのだそうです。
かつて旅客機事故が空自のF-86に空中で追突し、
乗員乗客全員が死亡する事故がありました。
27様
Su-15が発進したソーコル基地は
事件が起きるかなり前に曳光弾の不足を報告していたそうなのですが
補給は来なかったそうです。
補給がなかった理由は不明ですが、
極東方面はソ連全体でも比較的重要度の低いエリアですし
アフガン方面への補給が優先されたのかもしれません。
>>大佐が言う「識別信号」とはIFFのことかもしれません。
IFFだと、味方かあくまでも不明機かしかわからないと思ったので、「民間機な訳がない」と言う発言が気になったしだい。
そうだとすると、やはり思い込みだったのでしょうか。
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