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基地防空隊の発足
航空基地というものは有事において極めて重要な施設であり、レーダーサイトと同様に標的とされやすいものですが、1970年代までの空自は戦闘機やナイキSAM、それらを管制するBADGEシステムの導入で手一杯。基地防空用の装備はきわめて貧弱でした。
当時の空自では約100基のM55対空機関銃とM2重機関銃が配備されていたに過ぎなかったそうです。
これはまずいとして、1976年に策定された防衛計画の大綱以降に81式短距離地対空誘導弾(短SAM)、携帯式地対空誘導弾FIM-92(携SAM)、対空機関砲VADSの調達が決定。
防衛庁としては五六中業が終了する1986年3月までに短SAM27セット、携SAMが272セット、VADS130門をそろえる計画でしたが、予算不足もあり期間内には達成できなかったようです。
装備の調達と並行して部隊建設も開始され、1984年に基地防空訓練隊が発足。1986年に千歳、三沢、当別の基地防空隊を統括する基地防空群が置かれます。
この防空群は後に廃止されますが、全国8か所の戦闘航空団を有する航空基地に計8個の基地防空隊が設置されました。
なお、1987年ごろの基地防空隊の主要装備定数は短SAM2セット、携SAM24セット、VADS16基とのことです。
防空網の外縁を守る短SAM
基地防空隊が保有する防空装備のうち、基地外縁の防空を担当したのが81式短距離地対空誘導弾、通称「短SAM」です。
短SAMはパッシブ・フェイズドアレイ式の三次元多機能レーダーを搭載した射撃統制装置1両、赤外線ホーミング誘導弾を4発装填する発射装置2両、緊急時に用いる目視照準具等で構成されます。
レーダーの探知距離は30~20kmかそれ以上とされ、6目標を追跡しつつ、2目標に対する同時攻撃が可能です。ミサイルの有効射程は7km。
1968年に開発が開始され、西独のローランドSAMと比較検討の末、1981年に正式化されました。(詳しくは次回の記事で解説)
「スティンガーを手に入れたな、スティンガーは携帯用のSAMだ。」
FIM-92はアメリカで開発された携帯用の地対空ミサイルで「スティンガー」の愛称も知られます。
有効射程4~5km、最大射程8kmで、短SAMを補佐する装備として空自は「携帯地対空誘導弾」の名称で導入、1983~87年度中に210セットをアメリカに発注しています。 1987年度の価格は72セットで約16億とのことですが、私個人としては高いのか安いのか、よくわからない装備ではあります。
「しかし、そのスティンガーは旧式の対対抗策<カウンター・カウンター・メジャー>が不十分なタイプだ。」
空自が導入したFIM-92は初期に開発されたA型であり、フレアにより欺瞞されやすい、という欠点がありました。
この欠点に対するフォローとして、フレア耐性を高めたFIM-92B(スティンガーPOST)が1983年から生産されており、A型と75%の互換を有するため、シーカー部のみ換装、という話もあったようです。
しかし、すでに開発が進行していた国産携SAMとの兼ね合いもあってか、このような改修が本当に実施されたかは不明です。
「お前、俺達になにか恨みでもあるのか!!」
FIM-92はアフガニスタンでの活躍が当時から宣伝され、世界中に普及した装備ですが、基地防空用として考えると...少々危なっかしい装備だったようです。
三菱重工の某テストパイロット(渡邉吉之氏?)いわく「これらの発射の最終責任者は携行者自身です。特に戦時となれば、情報も混乱するでしょう。目の前に突然戦闘機が現れたら、あなたならどうします?翼に日の丸が無いのを確認してから撃ってくれますか?」とのこと。
そんなことが起きないようFIM-92はIFF(敵味方識別装置)を装備しているのですが、IFFの質問波に対し(理由は様々ですが)IFFは必ずしも期待通りの機能を発揮できるとは限らず、混戦時において誤射を防止できるものではないようです。
VADS
VADSは短SAMや携SAMによる迎撃を潜り抜けた敵に対する最後の防衛手段として、あるいは地上部隊の掃討用として導入された機関砲です。
採用にあたっては、西独・ラインメタルのRH202ツヴィリング20mm連装機関砲と比較検討し、アメリカのM167A1VADSが採用されました。
VADSは20mm機関砲を用いる、という点で海自艦のファランクスCIWSと似ていますが、 VADSのレーダーは測距機能のみで自動追尾機能はなく、連射速度は最大で毎分3000発に制限、装弾数も500発に減じており、結果として有効射程は短くなっています。
特に高速目標への追従が困難だったのですが、1990年代に自動追尾用のTVシステムによる自動追尾機能が追加され、幾分は改善されたようです。
また、空自向けVADSの中には退役した戦闘機のM61を流用したVADS-2なる簡易版も含まれています。
詳細は不明ですが、VADS-2は測距レーダーをおよび計算機を搭載しておらず、機能も限定的という話ですが、対地射撃においては素のVADSと遜色のないもの、とされます。
対空砲による対地射撃は基地の目前まで敵部隊が迫った際の最後の手段のように思えますが、1976年のMiG-25亡命事件、1987年の警告射撃事件など、平時や有事の初動において必要とされる場合もあります。
前者は亡命機の奪還を目的としたソ連機の強行着陸を阻止する目的で、後者は強制着陸後の牽制など(当時のソ連大型機は機関砲塔を装備していた)、このような状況で機関砲が必要とされるようです。
次回は3種の対空装備のうち、短SAMについて少しだけ詳しく解説いたします。
参考
航空自衛隊「装備」のすべて「槍の穂先」として日本の空を守り抜く(赤塚聡 ISBN978-4-7973-8327-0 2017年5月25日)
日本の防衛戦力③航空自衛隊(読売新聞社編 ISBN4-643-87032-X 1987年5月14日)
防衛庁技術研究本部五十年史 II技術研究開発 5.技術開発官 誘導武器担当(防衛庁技術研究本部 2002年11月)
The Stinger missile and U.S. intervention in Afghanistan.(スティンガーミサイルおよび米国のアフガン介入).(Alan J. Kuperman 1999年9月)
三菱重工|パイロットの話 コックピットから その16 Missile(三菱重工 2012年2月)
第96回国会 参議院 安全保障特別委員会 1982年8月4日
防衛技術協会
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コメント
次期高射機関砲も研究中でありますが優先順位は低そうで
欧州方面、特に東欧方面では同じエリコン35mmによるドイツのスカイシールドシステムなど対空機関砲の開発や装備調達が比較的盛んでありますが、それに比べ日本は現実的な危機要素は薄いですか
失礼をば
スティンガーのところが某メタルギアっぽくて笑ってしまったw
照準装置が貧相なVADSが何故配備されているのか疑問に思っていたけど、あれはメルクール作戦や剣号作戦・義号作戦みたいな空挺殴り込みに対応するためだったのか・・・
陸自に頼むにも87式自走高射機関砲は少なすぎるからな〜
エリコンKD 35 mm 機関砲もあるにはあるが、まぁVADSとそんな変わらんか?
せめてM42自走高射機関砲ぐらい・・・ いや、流石に古すぎるわな。
空挺狂いのソ連相手なら何の対策も無くいるわけにもいかず、陸自も余裕が無いとなると自分のところでVADSぐらい用意したくもなるわな。
パーンツィリ-S1みたいなのがあれば便利そうだけど、空自は野戦で簡易飛行場を使うような運用はしないので問題ないのか?
ショットダウンののちも残存兵士で戦えるシステムを劇中でプロポーションしちゃうあたり我が国とは決定的に違うのだなと
というより欧米と日本の対空コンプレックスの青図版の差かと。
日本はかなり対空縦深を取ってるの欧米に比べて基地防空が疎かになっていると思われがちですがPAC2〉03改〉03式〉93式〉91式≧93式とかなりの充実(配備されているとは限らない)とPAC2の更新でMEADSのゴタゴタが有る欧米とは正直比べられないと思います。
本当に空に向けて撃つ気あるのかな?と思わんでも無い
「ダメだ…、できない…(グレイ・フォックスにロックオンしながら)」
スティンガーといえば、チャーリー・シーンが出てくる方の『ネイビー・シールズ』。
スティンガーは地上のハード・ターゲットに撃つもの、という誤解というかお約束は、ここから始まったのではないかと…。
むしろ対地兵器として使ってるのはその映画くらいで、創作界隈で戦車や装甲車破壊するハイテク携帯ミサイルはもっぱらジャベリンのような
昔は短samとか持ってたようだけど、全部放棄してるし、陸自に丸投げになるのかな
昔実射を見たことがあるけど、複数による弾幕射撃は壮観。曳光自爆榴弾だから空中でクラスター爆弾が爆発してる感じ。
撃ち落とすと言う意味ではどうなのかは別だけど。
※9
実際の所、スティンガーを含めて携帯SAMは、背景が地面とかだと使えない場合が多い見たいですね。同じ理由で低空の目標も厳しい見たい。
短SAMと言えばガメラを撃ち落としては記憶。
本格的に陸自が後方警備関連と少数精鋭の正規戦戦力に二分されそう()
それでも陸自の防空コンプレックスの深さはソ連並みで、航空基地にたどり着く前に戦域防空の網を抜けるという地獄が敵には待ってる模様。
03中SAMとか戦域防空に当たる装備が方面毎にあり、師団クラスの防空を担う11式短SAMも中々の性能と聞くので期待してしまいます。
そういえば、WW2や自衛隊創成期の戦域防空は戦闘機以外だと何が担当だったんだろう。
ただ、仮に一纏めにするならどのみち陸自の人員を増やさないと何処の防衛もできなくなりそうで怖い
それこそメタルギアとかのゲームだと対空ミサイルで対地攻撃できる事が多い
(大型兵器どころか人間や小動物さえロックオンしちゃう)
逆に対戦車用のロケットやミサイルを大きく上に向けてヘリと戦う事も多い
基地防空隊は創設から30年が経過しているので
時代に合わせた再編もあり...なのかもしれません。
ただ基地防空隊も結構な装備規模ですから
人員をどこから融通するのか
気になるところではあります。
WW2ではミサイル自体がないでしょうよ。戦後もアメリカですらナイキ・エイジャックスまでは拠点・都市防空は対空機関砲が主力だった。
日本も、傑作ホーク対空ミサイルが配備されるまではお察し。ホークは戦域防空ミサイルになるのかしら、チト微妙。
確か第二次大戦時の欧州での米陸軍の場合、M1 90㎜高射砲装備の防空砲兵旅団や連隊が大隊単位にばらけて戦域に展開していたような記憶が。
※17
実用化されなかったですが、ドイツではヴァッサーファルやライントホター等、日本では噴龍といった地対空ミサイルが開発され、試射までは行われていたそうです。
また、MIM-3ナイキ・エイジャックスが配備されるまでの米本土の拠点および都市防空の主力はM1 120㎜高射砲だったと記憶しています。
ミサイルがほとんど部隊配備されてないので気になった次第でして。
※18
ありがとうございます。
やはり大型高射砲を広域に配備して対応だったのですね。
航空機側もスタンドオフ兵器がほぼ無いと考えると、高射砲の射程でも充分だったのかも知れませんね。
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