空自の日本防空史39
警戒管制レーダーの発展 その2
文:nona
今回は国産の警戒管制レーダーを扱います。
初の国産三次元レーダーJ/FPS-1
航空自衛隊五十年史P241より
初の国産三次元レーダーJ/FPS-1
1960年代まで空自に配備されていた警戒監視レーダーは、目標の方位と距離のみ判別できる二次元方式であり、別個に高度を計測する測高レーダーを組み込む必要がありました。
しかし測高レーダーは目標を一個ずつしか計測できないため、複数目標への対応能力に欠けていました。
そこで捜索レーダー自身が目標を測高し、高度情報を取得できる三次元レーダーが求められ、1950年代から各国で様々な方式が開発されました。
日本においては1961年12月に各メーカーへ開発の検討が要求され、東芝およびGEはDefocus方式、日本電気とヒューズはFRESCAN方式、三菱電機は独自に位相差アンテナ方式を提案。
これを防衛庁および空自で比較検討し、1963年に三菱案が採用されています。
位相差アンテナ方式の三次元レーダー
三菱の提案した位相差アンテナ方式とは3枚(試作機は4枚)のアンテナを縦一列に並べ、アンテナの1つからファンビームを送信し、残りのアンテナで反射波を受信、その際の位相差を組み合わせ電波の到来角度を計測することで、目標の高度を算出する、というものでした。
位相差アンテナ方式は他の三次元レーダー方式と比べ、測高精度、高データ率、探知距離(おおよそ600km以上)などの点で優れる、と考えられたようです。
(三菱案が純国産だったから、というのも採用の理由かもしれませんが、詳細は不明です)
試作機は1965年に完成し、技術試験や実用試験が課されますが、関連機材などの開発などもあり、実際に運用が開始されたのは1972年3月のことでした。
また実用試験が完了した1971年9月、試作機が台風でレドームごと倒壊するハプニングがあり、量産機のレドーム強度が見直されています。
このJ/FPS-1のレドームは一般的な半球型ではなく円筒型が採用され、外観の識別が容易になっています。
欠点も多かったJ/FPS-1
長期の試験期間を経て実用化されたJ/FPS-1ですが、欠点も多数指摘されています。
航空自衛隊50年史によるとJ/FPS-1は「大規模な施設整備が必要なため狭隘なサイトへの設置が困難で換装に伴う運用中断が長期に及ぶ」「遠距離探知能力を優先したため受信感度が良く反面、電波妨害を受けやすい」「測高データ確立の際、異常測高が発生しやすい」とのこと。
特にサイトの換装工事は長期化する傾向にあり、石川県の輪島分屯地での換装工事は1年半を要しています。(J/TPS-100の試験運用を兼ねたものでもありますが)
こうした事情のためかJ/FPS-1の配備は7か所で完了し、前任のFPS-20のように目立った改修や延命はされず、2001年までに退役しています。
いったい何を間違えたのでしょうか...
移動レーダーの設計を流用したJ/FPS-2
航空自衛隊五十年史P399より
J/FPS-2
J/FPS-1で明らかとなった問題の解消狙ったのがJ/FPS-2です。同レーダーに対する空自の要求は
①狭隘なサイトへの設置
②ECM、低高度侵攻等への対応
③電子技術などの急速な進歩への追従(発展性の確保)
というものでした。
(上記の要求に加え、1976年9月のMiG-25事件の対策も追加されたようです)
今回は日本電気のレーダー案(同社が製造したJ/TPS-100移動レーダーの改修案)が採用され、1977年から試作が開始されました。
J/TPS-100のアンテナ方式について、空自は「プラナ型フェーズドアレー」と解説していますが、現在一般的に言われるフェイズドアレイレーダーとは少し仕組みが異なるそうです。
おそらくは導波管スロットアンテナを縦に並べプレーンアンテナを構成し、位相器によって仰角方向の電子走査を行うものと思われます。
短期間で配備が進むJ/FPS-2
J/FPS-2の試作および試験は1980年に完了し、同年12月に運用が開始されています。
開発期間をJ/FPS-1よりも短縮できたのは、前述のようにJ/TPS-100という既存のレーダーの設計を流用したおかげですが、移動レーダーとして設計されたこともあり、アンテナは小型軽量、既存のレーダータワー・レドームも軽易な改修で流用できる利点がありました。
そのうえ性能は大型のJ/FPS-1と同等かそれ以上とされ、探知距離も600km以上と推定されています。
なお、海自のしらね型護衛艦が搭載する艦載レーダーのOPS-12も日本電気が製造を担当しており、J/FPS-2と同じ技術が用いられているものと推測されます。
現代のJ/FPS-2
J/FPS-2は1990年までに11のサイトへ配備されたものの、現在は旧式化により次第に数を減らしており、2013年に7箇所、2018年に4基前後と減勢しつつあります。
もっとも空自の警戒管制レーダーの更新速度は緩やかなものですから、あと5年は運用が続くでしょう。
またレーダーサイトへの配備ではないものの、2012年には硫黄島へ航空管制用として移設されており、こちらも運用が続きそうです。
次回は1980年代に開発されたJ/FPS-3等を解説いたします。
参考
日本の防衛戦力③航空自衛隊(読売新聞社編 ISBN4-643-87032-X 1987年5月14日)
航空自衛隊五十年史(航空自衛隊50年史編さん委員会編 防衛庁航空幕僚監部発行 2006年3月)
防衛庁技術研究本部五十年史(防衛庁技術研究本部 2002年11月)/II 技術研究開発 7.第2研究所
弾道ミサイル防衛(2008年3月防衛省)
原書房
売り上げランキング: 307,955

コメント
それと、富士山レーダーのレドームもかなりの風速に耐えられる記憶があったので調べてみたら、風速100m/s以上に耐えられるとか。
最近レーダーについて色々と調べているのでこういった記事は勉強になります♪
<いったい何を間違えたのでしょうか...
J/FPS-1、考えとしてはフェーズドアレイレーダーがアンテナ素子でのレーダー送信時にやっている位相の変化による上下の”振り”を、どデカイ複数のアンテナでもってレーダー受信時の位相の変化から逆算して求めるという、そういう事をやっちゃっているわけか・・・?
上下のアンテナが離れていれば精度は出そうだし、FRESCAN方式のように周波数を変化させなくていいから性能は安定しそうだけど、ダダでさえデカイアンテナが余分に必要な上に位相差から角度を算出するのが物凄く大変そう(´・ω・`)
ヒューズ社のFRESCAN方式ならその後の米軍艦載レーダーでも長く使われた方式なので、こちらであればこんな失敗はしなかったかもしれないが、こっちはこっちで1960年にAN/SPS-39が米海軍へ引き渡されたばかり、そいつもWikipediaによれば当初の平均故障間隔(MTBF)はわずか14.2時間であったみたいなので、当時のレーダー開発の難しさを感じさせますな〜(この時代は英海軍も984型3次元レーダーなんて空母の艦橋にしか載らないデカイレーダー採用してますし・・・)
<海自のしらね型護衛艦が搭載する艦載レーダーのOPS-12
『世界の艦船』第433号のP84、「海上自衛隊の現有艦載レーダー」のOPS-12の説明によれば
「陸上移動用三次元レーダーを艦載用にモデファイして開発された」
「動作原理、性能などは”はたかぜ”型DDG搭載のSPS-52Cとほぼ同じであると考えてもよいだろう」
などとありますね。
J/TPS-100とOPS-12は同じJ/TPS-100をもとに生まれた兄弟みたいなものと言っても良さそうです(大きさとか性能とかどのくらい変わっているのだろうか?)
名無しのミリヲタ(42年もの)様
そういえばFPS-1のレドームは球体ではなく円柱でした。
これもFPS-1サイトならではの構造だったようで
後継には引き継がれませんでした。
誤字様
軍用レーダーの資料は一般人向けのものがなくて...困りますよね。
対空レーダーのファミリー化は
記事の制作時に偶然気が付きました。
制式名こそ異なりますが、メーカーが同一だったもので...
次回記事で解説の予定のFPS-3ですが
これも陸のJTPS-P14と海のOPS-24自衛隊用の対空レーダーで
共通の設計がなされている、と推測しています。
3様
どうなんでしょう?
FPS-2は固定運用ならではの利点があるとはいえ、
技術の進歩は速いものですから...
ただ
ごく短時間で全周警戒ができる点においては
FPS-2よりもP25が優れていると思います。
FPS-2は毎分5~6回転で
更新間隔も長くなるため、要撃機の誘導精度の低下や
切迫した状況下の状況認識の困難さなどが
問題となっていたそうです。
現在の警戒レーダーは多面アンテナ方式が主流ですから
かなり改善されたようですが。
nona様
いつも興味深い記事をありがとうございます。
次回も期待しております。
J/FPS-3、JTPS-P14、OPS-24に関しては、開発時期が1980年代半ば~後半で開発担当会社・工場が三菱電機通信機製作所という共通点がありますね。
ちなみに設計担当技術部も共通です。
J/FPS-3とOPS-24はMMIC化されたT/Rモジュール(FPS-3 は空冷、OPS-24は液冷)によるAESA、JTPS-P14はPESA(電力増幅段はTWT3本並列)という違いがあり、また使用周波数帯域はJ/FPS-3がS/Lバンド、OPS-24がLバンド、JTPS-P14がSバンドとなっており、それぞれ使用目的に合わせた帯域を選択していますが、受信部や信号処理系、ARM対策の疑似電波発射装置(デコイ)等については共通の技術基盤に基づいているものと思われます。
技本とのJ/FPS-3共同開発で得られた知見を生かすとしてMELCOが受注に成功し、陸のP-14も海のOPS-24も試作をすっ飛ばしていきなり装備品を開発したのですが(P-14初号機は「参考品購入」)、ご存じの通りOPS-24では様々な問題が噴出してしまいました(汗)。
従来のOPS-14シリーズが手堅い設計で好評だっただけに海自におけるMELCOの評判は急降下することに・・・・・・。
ただ、P14では大きな問題なく部隊配備が進んでいることから、OPS-24の問題はメーカーサイドだけでなく海幕側の要求仕様の不備もあったのではと邪推してしまいます。
※3さんへ
単純な送信出力だけならJ/FPS-2の方がJTPS-P25より上でしょうが(具体的数値は当然防秘)、nona様ご指摘の通り信号処理系の性能は格段に向上していますし何といってもAESAですから、全周同時監視能力や同時多目標処理能力、ECCM性に関しては圧倒的にP25の方が上だと思われます。
コメントする