ひとつ屋根の、ツバサの下で
 皆様、大変お待たせいたしました。

 サークル『烈風天駆』主宰、航空軍事美少女ゲーム研究家の加賀谷康介様から『ひとつ屋根の、ツバサの下で』の解説記事が届きましたので掲載します。

訳がわからない方は以下の記事を参照ください。
http://gunji.blog.jp/archives/1069767966.html

『ひとつ屋根の、ツバサの下で』キャラクター解説・元ネタ人物紹介


文:加賀谷康介(サークル:烈風天駆)
協力(督戦):OY(軍事系まとめブログ管理人様)



 今回は2018年2月23日に、アダルトゲームブランド「harmorise」様から発売されたPCゲーム『ひとつ屋根の、ツバサの下で』の紹介記事です。

 年齢制限に抵触する直接的な描写、及び重度のネタバレは回避しているつもりですが、本編開始後の内容に触れているところがありますので、未プレイの方はその点ご注意ください。

 本作は「フェアリー・ファイト(通称FF)」と呼ばれる架空の空中競技を舞台にした学園ドラマです。

 架空の空中競技、と言えば「sprite」様から発売されたPCゲーム『蒼の彼方のフォーリズム』がありますが、あちらは生身の人間が反重力シューズを履いて空を飛ぶの対し、こちらは歴史上実在した航空機(試作、実験機含む)に乗り込んで操縦する点が異なります。

 あくまで空中競技、スポーツとして行われていますので、機銃の射撃シーンはありますが実際の機体・人間を傷つけることはありません。テラ平和。

 また、実際の競技に至るまでの競技用飛行機調達、整備に関する部分もシーンを割いて描写しており、少しずつチームとなって空を目指してゆく様は、今は亡き「ABHAR」様から発売された『水平線まで何マイル?』を連想させるものがあります。

 ちなみに、なんで「フェアリー・バトル」じゃなくて「フェアリー・ファイト」なのかって?
 いやだってほら・・・「バトル」にしたら、71機中40機がメッサーシュミットに叩き落されるから、じゃないですかねぇ・・・?(遠い目)
※1940年5月、セダン橋梁爆破作戦での出来事です

 それでは、以下作中に搭乗するキャラクターとその元ネタと思われる人物を紹介します。
(実在の人物については、階級は基本的に最終軍歴/戦死時のものに基づいていますが、一部その限りではありませんのでご容赦ください)


〇メインキャラクター

広沢 ひかり(ひろさわ ひかり)

乗機は零式艦上戦闘機52型甲→?


 王道の純真素直系センターヒロイン。周りのキャラが濃くてセンターヒロイン(笑)気味なところはお約束。
FF未経験者だが、心底から飛行機が好きな零戦クラスタであり、格上の性能と技倆のライバルたちに果敢に挑戦する。

 名前の由来は、一般に旧日本陸海軍航空隊のトップエースとして有名な西澤 廣義(にしざわ ひろよし)中尉。モデルとは「広(廣)」と「沢(澤)」の名字が一致する。また、中島製航空機エンジンの一つに「光」がある。


佐々木 一彩(ささき かずさ)

乗機は二式(単座)戦闘機「鍾馗」Ⅱ型丙

 清く正しく美しいツンデレ系同級生。あと本作のチョロイン枠も兼任。
FFでは、経験者らしく的確な状況判断と果断な行動力を発揮してツバサ荘チームをリードする。

 名前の由来は、ビルマで長く奮戦した通称『腕の佐々木』こと佐々木 勇(ささき いさむ)准尉だと思われる。

 モデルとは「佐々木」の名字が一致する。
また、「一」は佐々木准尉が長く搭乗した一式戦闘機「隼」の年式名である。


松本 三毬(まつもと みまり)

乗機はスピットファイア9型C(Mk.ⅨC)→?

 天然不思議ちゃん系後輩。本作動物愛護団体会長。
 見た目は幼いが国際操縦免許を持つ技倆は確かで、しかも空戦中の見越し射撃に天性の才能がある。

 名前の由来は、『零戦虎鉄』の自称で有名な岩本 徹三(いわもと てつぞう)中尉だと思われる。

 モデルとは「本」と「三」が一致。
 なお彼女の祖母マリー・コールドウェルのモデルは、ダーウィン上空で零戦隊と激闘を繰り広げた豪州空軍クライブ・コールドウェル中佐だと思われる。


神野 菜穂子(じんの なほこ)

愛機は百式司令部偵察機Ⅲ型(に、前方及び上方固定武装を施した乙+丙戦仕様)

 頭脳明晰成績優秀な万能年上生徒会長。本作のフィクサーにして意外に不器用な性格の人。
 FF選手としても優れた技倆を持つが、作中ではツバサ荘チームのリーダーとして空中指揮に専念している。

 名前の由来は、343空での活躍と破天荒なエピソードで知られる菅野 直(かんの なおし)中佐だと思われる。
 モデルとは名字の「野」と、「(か/じ)んの な(おし/ほこ)」の読みが一致する。

 なお、モデルの人物は「デストロイヤー菅野」として有名だが、ゲーム中では彼女がものを壊す場面は特にない。


佐々木 隼一(ささき じゅんいち)
 乗機は十八試局地戦闘機・震電(垂直尾翼に尾輪のない量産機仕様だが六枚ペラという謎の機体)。本作の主人公。

 祖母・秋子から震電を託され、その未知数のパワーに翻弄されながら、次第にツバサ荘チームのポイントゲッターとして成長してゆく。

 名前の由来は、『ラバウルのリヒトホーフェン』と呼ばれた台南空分隊長・笹井 醇一(ささい じゅんいち)少佐。

 モデルとは「ささ(い/き)じゅんいち」という氏名の読みが一致する。また、「隼」「一」は佐々木准尉が長く搭乗した一式戦闘機「隼」の愛称及び年式名である。※一彩の項目参照


〇サブキャラクター

刈山 祭子(かりやま さいこ)

乗機は艦上攻撃機・流星。

 ツバサ荘チームのメカニック担当。本作の胸部装甲部門堂々の第一位。
 学生の域を超越した工作技術を持ち、日常の整備から改修、はては部材からの機体組み立てまでこなし「レストアの神」の異名をとる。

 ただし祭子自身は飛行機酔いの体質であり、FF本戦を流星で飛ぶことはない。

 名前の由来は、整備の難しい四式戦で高い稼動率をマークした陸軍航空隊の整備隊長・刈谷 正意(かりや まさい)大尉。名前はモデルの人物に一文字加えたもの「かりやまさい(こ)」。


原田 秋子(はらだ あきこ)
 准一の祖母であり、かつて震電を駆って数々の栄冠を勝ち取った伝説のFF選手。
 現在はツバサ荘の名目上の管理人であり、翔鴎学園のOBとして孫の隼一をはじめ後進の成長を楽しみにしている。

 名前の由来は、戦後参議院議員として活躍した源田実大佐・・・
ではなく、「蒼龍」「飛鷹」零戦隊で活躍し、戦後幼稚園教育に転じた原田 要(はらだ かなめ)中尉だと思われる。
モデルとは「原田」の名字が一致する。


天吹 茜(あまぶき あかね)
乗機は四式戦闘機「疾風」一型甲。

 主人公らが通う翔鴎学園、その競技空戦部の部員。一彩の親友。
 あとファンディスクが製作決定したらルート追加/ヒロイン昇格しそうな子枠。
 名前の由来は、『運の穴吹』『ビルマの桃太郎』と呼ばれた穴吹 智(あなぶき さとる)曹長だと思われる。モデルとは「あ(な/ま)ぶき」という名字の読みが一致する。


本田 衣良(ほんだ いら)

乗機は四式重爆撃機「飛龍」。

 茜の属する翔鴎学園競技空戦部、その部長。
 真面目で責任感の強い性格だが、学園内で井の中の蛙的な競技空戦部に漂う弛緩した雰囲気を苦々しく思っている。

 名前の由来は、戦後343空の生き証人として活動し、三菱のテストパイロットも務めた本田 稔(ほんだ みのる)少尉だと思われる。モデルとは「本田」という名字が一致する。


加登 貴海(かとう たかみ)

乗機は通常P-51D。

 FF競技界屈指の強豪校、ネリス女学園エアガールズクラブの部長。
 菜穂子をライバル視し過去幾度となく勝ち負けを繰り返している。練習では息の合った編成空戦でツバサ荘チームを圧倒した。

 名前の由来は、ビルマで戦死後「軍神」と称えられた加藤隼戦闘隊こと飛行第64戦隊長・加藤 建夫(かとう たてお)少将。モデルとは名字の「加」と、「かとう た(てお/かみ)」の読みが一致する。


檜山 曜(ひやま よう)

乗機は通常P-51D。

 ネリス女学院エアガールズクラブの部員。
飄々とした性格だが、部長の貴美のことを尊敬し、貴美から信頼されている。

 名前の由来は、空戦で片足を負傷切断し、義足でP-51を撃墜した記録をもつ檜 与平(ひのき よへい)少佐。モデルとは名字の「檜」と、「よ(へい/う)」の読みが一致する。


羽切 悠(はぎり はるか)

 層流翼採用の機体で固めた最強校・蒼柳学園制空部の部員。
 「FF界最強のアイドル」と呼ばれ、地上にあるときは実況解説なども担当するが、空中に上がると鬼神のごとき強さを発揮する。

一彩とは身内と過去に面識があるようだが・・・?

 名前の由来は、日中戦争での活躍と横須賀空でのテストパイロット勤務が光る羽切 松雄(はぎり まつお)中尉。モデルとは「羽切」という名字が一致する。


東郷 桃(とうごう もも)
 悠の所属する蒼柳学園制空部のキャプテン。
うさんくさい京言葉を話すが、細い目の奥で何を考えているのかわからない。

 名前の由来は東郷平八郎元帥・・・でなく、陸軍航空隊の東郷三郎少佐・・・は恐らく製作者知らないと思うので、やや不明瞭だが、日中戦争の海軍航空隊エースで「軍神南郷少佐」こと、南郷 茂章(なんごう もちふみ)少佐ではないかと思われる。モデルとは名字の「郷」と、「も(ちふみ/も)」が一致する。



岩城 達也(いわき たつや)
蔵満 碧(くらみつ 
あおい)

 蔵満学園ファイティングフェアリー部の部員。校名は「くらみつ」だが、グラマン/ゼネラルモーターズFM-2に乗って出場する。


XPLANES(エックスプレーンズ)研究部
 翔鴎学園のネタ枠。
作る方も乗る方もおかしい(褒め言葉)、一癖も二癖もある機体で登場する。
メンバーは次の方々。

丹下 久留人(たんげ くると)

 乗機はFW-190A。XPLANES研究部代表。名前の由来はドイツの有名な戦闘機設計者クルト・タンク博士。


能代 寂(のしろ じゃく)
 乗機はXP-56改。XPLANES研究部でいわゆるオタサーの姫。名前の由来はアメリカで全翼機と言えばこの人、ジャック・ノースロップ。


掘天(ほるてん) 
 乗機はフランスのアルスナル・デュラン10(作中では10C2という名称で紹介)。名前の由来はドイツで数々の無尾翼、全翼機を設計したホルテン兄弟。


葉院家(はいんけ) 
 名前の由来はメッサーシュミットの政治的ライバル、エルンスト・ハインケル博士。しかしなぜか漢の浪漫、旋回銃塔戦闘機デファイアントに搭乗する。


北都(ほくと) 
 乗機はXF5Uフライングパンケーキ。名前の由来は左右非対称の奇抜な設計で知られる(手堅いのも作ってはいる)リヒャルト・フォークト博士。


鈴屋(すずや) 
 乗機はTa154。名前の由来は米陸軍戦闘機やヘリコプター開発で知られるアメリカのベル・エアクラフトではないかと思われる。


北上 淳司(きたかみ じゅんじ)

 ひかりがバイトをしている「北上サイクロン」の店長。
モデルは漫画『湾岸ミッドナイト』の北見淳と思われる。


〇その他固有名詞、単語など

唐屋一番(からや あいん)
 ツバサ荘の近くの島にあるショッピングモールの中華料理店。刀削麺がおいしいと有名。
名前の由来は、人類史上最多撃墜記録者である旧ドイツ空軍エーリヒ・ハルトマン少佐のコールサインから。


風郷学園(ふうごうがくえん)
 ツバサ荘チームと本戦で対戦する。
全金属製航空機の技術的確立に大きな功績を遺したユンカース社の創業者、フーゴー・ユンカース博士から。


伽藍姉妹(がらんしまい)
 旧ドイツ空軍の高名なエースパイロット、アドルフ・ガランドから。なおガランドは四人兄弟の次男で、弟二人も戦闘機パイロットとして戦死している。


良葉浦工業学園(らばうらこうぎょうがくえん)
 ニューブリテン島ラバウルから。改めて説明の必要はないと思うが、約2年間激しい航空戦の舞台となり、数々のエースが誕生しその何十倍もの搭乗員が命を失った場所。


リリエンタール、ジューコフスキー、セバスキー、ウィルバー、オービル
 ツバサ荘にいる猫たち。時おり三毬が世話をしている。名前の通り航空関連の人名から。


ミケネコダコタの宅配便
 主人公たちの島に荷物を運んでくる。DC-3を使っているらしい。正直うまいと思った。


二十重群島・中島(なかじま)
 「磯野ー!野球しようぜー」・・・ではなく、ツバサ荘がある島。言うまでもなく二式単戦「鍾馗」を開発・生産した戦前日本最大の航空機メーカー・中島飛行機から。


鳴尾島(なるおとう)
 作中でFF本戦が行われる場所。紫電改などを開発・生産した川西航空機の主力工場、鳴尾工場及び隣接の鳴尾飛行場から。


翔鴎学園学内予選の際、校内放送で呼ばれていた「坂井先生」
・・・大空のサムライでもいるんだろうか?この学園


〇気になる台詞、エピソードなど

「私たちがFF本戦で優勝しなければ、ツバサ荘や翔鴎学園が潰されてしまう!とか」
菜穂子の冗談。
大洗女子学園かな?


「寝不足は美容と操縦の敵よ」
作業で徹夜する祭子に対して、菜穂子が言った一言。
ジブリの映画『紅の豚』でポルコがフィオに言った言葉のオマージュだと思われる。


「呉の記念艦っていうと、『大和』なら俺も修学旅行で行ったけど」
隼一の台詞の一つ。
隼一の言ってる「記念艦の大和」っていうのは、大和ミュージアムにある10分の1大和とは違うんだろうなぁ。
でも震電が開発されるような歴史で、『大和』が現存するなんて、『征途』の世界なんでしょうかここは・・??


「こんなの、呉の『鳳翔』航空博物艦にだってないのに!」
ひかりの台詞の一つ。
だから世界観ががががが。太平洋戦争は一体全体どうなったんでしょうか?
少なくともこの世界、呉には「艦」である『大和』と『鳳翔』の2隻が存在し、一般市民に公開されているようです。ドゥーユーノースカイママ?


「飛行機に飴玉を載せておくと妖精グレムリンが飛行機に悪さをしない(要約)」
ひかりの台詞の一つ。
アメリカ/イギリスの航空機関係者に広く信じられている迷信。
関係ないが横山信義氏の小説『八八艦隊物語』には、ひかりの元ネタである西澤廣義が多銃型零戦で米軍機多数を撃墜し「グレムリン」と恐れられたという一節がある(無駄知識)。


「92歳の元スピットファイアの女性パイロットが70年ぶりにスピットに乗って飛行した(要約)」
ひかりの台詞の一つ。
第二次大戦中、スピットファイアの空輸任務に従事していたジョイ・ロフトハウスさんが2015年5月8日、御年92歳でスピットファイアの飛行に搭乗している(操縦は同乗者が行ったようです)。


 最後にゲーム全体の感想でも。

 本作、彩色は昨今はやりの淡い色使いとは一線を画する、油絵を彷彿とさせる濃厚な塗りで、登場飛行機とヒロインの魅力を質感たっぷりに表現してくれます。

 また、軽快でリズミカルなメロディのBGMは、数々のゲーム・アニメ音楽を担当した羽鳥風画氏の作曲によるもの(氏の同人サークルのCDもお勧めです)。
(氏は冒頭で紹介した『水平線まで何マイル?』にも楽曲を提供されています)

 ストーリーはヒロインのルートによって方向性は異なりますが、飛行機とそれに関する物語がキャラクター造形の芯に深く関わっており、単なる背景や舞台装置で終わっていないのは非常に好感がもてます。

そんな本作は
震電やデファイアント(笑)の空戦シーンを見るのもよし
本記事で取り上げていない小ネタを探してみるのもよし
もちろんヒロインとのキャッキャウフフ(死語)に期待するのもよし

 月並みな学園モノに飽きていましたら、彼/彼女らと一緒にフェアリー・ファイト天使の競演を楽しんでみてはいかがでしょうか?

<著者紹介>
加賀谷康介(サークル:烈風天駆)
第2次大戦期の航空戦に関する研究を行う。
代表作に『編制と定数で見る日本海軍戦闘機隊』

URL:https://c10028892.circle.ms/oc/CircleProfile.aspx


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