「P-3C改造機OP-3CとEP-3、そして海自の秘密(?)情報収集部隊第81航空隊について」:岩国基地フレンドシップ・デーその1

文・写真:誤字様

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 さる2018年5月5日に行われた岩国基地フレンドシップ・デーでは海上自衛隊の新型哨戒機P-1と共にP-3改造機体UP-3D、EP-3、OP-3Cが3機並んで展示されるというマニアにとっては夢のような展示がなされていました。

 数が少なく普段あまりお目にかからない上に任務の内容もわかりにくいP-3改造の特殊機体たち、今回はこの中でも特に秘密が多いOP-3CとEP-3、そしてこの機体の運用部隊である第81航空隊について、岩国基地フレンドシップ・デーで私が仕入れた乗員の方々のお話も交えてご紹介いたします。

 なお現場で聞いた話を思い出しながら書いている部分もある上、情報も少ないので正確性については幾分怪しい点があることもご了承ください。

画像情報収集機OP-3C
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機体の側に置かれていた機体の説明図、画像収集が目的の典型的な偵察機 というイメージで良いだろう。

 最初にご紹介するのは居並ぶP-3改造機の中でも比較的大人しい(?)改造が施されている画像偵察機OP-3Cです。

 OP-3Cは画像偵察機を目的とした機体で、機体下面のフェアリング(出っ張り)の画像レーダー(側方監視画像レーダー「SLAR」)で海上の艦艇などの目標を捜索、これを長距離監視センサーLOROP(展示の際には装備せず)で解析、伝送する任務を行います。

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OP-3Cの前輪後ろにある特徴的な"出っ張り"ことレーダードーム、略してレドーム。この半円形の覆いの中に八木型とかホーン型とかパラボラ型とかフェーズドアレイ型の用途に合わせたレーダーが入っているものと思われる。

 乗員の方にに聞いた話では機首の捜索レーダは航空機用で海上の捜索にはあまり向いておらず、機体下部の画像レーダが海上目標の発見に重要な役割を持っているようです。

 またESMは翼端に内蔵されているようで、逆探装置として相手の探索レーダーなどを早期に探知しているようです。もっとも、相手も同じようなものを装備しているだろうからお互い見られているのはわかっているだろうな 的なこともおっしゃっていました。

 乗員は10名で通常のパイロットや機上整備員に加え、画像の解析員や航法通信員が乗っているようです。

 OP-3Cはその高い偵察能力を生かして平成22年2月のチリ地震や平成28年10月の鳥取県中部地震で情報収集活動に参加している他、東日本大震災の際に長距離監視センサーを使って原発の監視を行い、得られた画像データを関係省庁に送るような任務も行なっていたようです。

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OP-3Cの横顔、機体下部の画像レーダー用のレドームが特徴的だがそれ以外は現型であるP-3Cとあまり変わらない。

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OP-3Cの機体後部、ソノブイ投下口は残っているが使えるかは怪しい。P−3C系列の機体の中では一番スッキリとしたお尻である。


電子戦データ収集機UP-3

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機体の説明図、レーダーや無線通信などの電波は遠方まで届き便利だが、逆を言えばこれを収集すれば遠方の敵部隊の動きを迅速・安全に知ることが出来るのだ。電子戦データ収集機は現代的な情報収集には欠かせない機体である。

 次に紹介するのはOP-3Cとはうって変わってコブだらけの電子戦データ収集機UP-3です。
 電子戦データ収集機という聞きなれない名前ですが、まずこれはどういった意味なのでしょうか?

 現代戦はレーダーや通信などで電波を縦横に飛ばしながら戦いが行われます。
 レーダーで索敵や武器照準を行い、無線電信で上級司令部からの命令や現場指揮官からの要請などが飛び交いますが、電波は味方のみならず敵も利用出来るのでレーダー警戒装置で敵の接近を早期に予見し、無線傍受で相手の動きを知り、妨害電波によりレーダーや無線機器を使用不能にする”電波の戦い”つまり電子戦が重要になっているのです。

 この電子戦で根幹となる要素が電子戦データ収集機が行なっている電波情報の収集です。
 レーダーや無線電波には「この電波は我が軍の〇〇用電波である」といったわかりやすいラベルを付けて飛んで来る訳ではなく、逆にそれと分からないように様々な工夫がなされた上で電波が飛ばされています。

 こういった電波情報を有効活用するには多数の電波情報を長期間収集することが大事、そんな訳で平時から相手がどんな電波を使っているのか? その電波が何処で何時から何故発信するようになったのか? そんな情報を日々休まず収集しているのが電子戦データ収集機なのです。


 電波情報を収集するためには大きなアンテナがたくさんあれば便利、という事でたくさんレドーム(出っ張り)があるのがこういった機体の特徴です。

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 今回展示されていたEP-3の場合は機体上面に3つ、機体下面に2つのレドームがあります。また見えにくいですが機体下面後部にも小さなレドームがあります。

 機体の説明板ではこのうち上面真ん中の1つは衛星通信アンテナですが残りの少なくとも3つは電子情報収集アンテナとなっています。

 説明板を見る限りではなんと機首と尾部のOP-3Cでは捜索レーダーが入っている場所まで電子情報収集アンテナになっているので、この機体が如何に電波の探知・収集に力を入れているのかをうかがわせます。

 乗員の方にうかがったところ受信できる電波は曰く「全ての電波」だそうです。

 乗員は15名と今回展示された機体の中で最大で、通常のパイロットや騎乗整備員の他に9名もの電波情報の分析員が搭乗しているようです。

 分析員の仕事や詳しい任務は秘密という事で教えてくれませんでしたが、分析員たちは電波波形を見れば何の電波かわかる 的なのを目指して日々訓練を重ねているようです。

 さらに機体の機器は定期的に最新機器に入れ替えているともおっしゃっていました。
 それを示すようにEP-3の大きなレドームの数は時代によって3つ、4つ、5つと増加しており、電子機器の進歩に合わせて最新の機材や多くのアンテナを搭載するなど機体、乗員共に練磨を続けている事を感じさせます。

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EP-3の横顔、上下のレドームが印象的。

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EP-3の機体後部、ブイ投下口の代わりにレドームが装備されている。また尾部にかけて板状のブレードアンテナが数枚突き出ている。


EP-3の能力や任務ってどんなもの? 公開されている情報から

 EP-3の能力や任務については公開情報が少ないのでなかなか実態が掴めませんが、防衛省ホームページで検索して出てきた資料などから推測してみます。

 EP-3はUP-2J(E)の後続機として電子戦データ収集装置を搭載し、対象潜水艦等から発射される種々の電波を探知、収集する任務を行うために作られたようです。

 そのために対象電波の弁別、収集、分析、解析、識別を行う能力があり、平成21年度の改善でさらに周波数帯域の拡大、分析精度の向上、低周波方探精度の向上、受信感度の向上、自動探知・識別処理機能の付加、データ電送機能の付加が行われており、この際には弾道ミサイル探知に関わる改修も行なわれたと推測されます。

 さらに平成27年にも搭載電子機器部品等の調達等がなされており、機材更新が定期的に行なわれている様がうかがえます。

 任務についてはEP-3とOP-3はP-3Cと共に日中中間線付近を飛行し、中国軍の情報を収集しているようです。

 また平成28年12月7日の米海兵隊のF/A-18墜落事故でもEP-3が出動していますが、これは墜落機の遭難信号をEP-3の能力により発見・位置特定を行うためだったのではないかと推測できます。

 さらに平成29年、30年と連続して「海上自衛隊の戦術技量の向上を図るとともに、米海軍との連携強化を図る」ために海上自衛隊のEP-3とOP-3が米海軍のEP-3E(自衛隊のEP-3とは別物)と東シナ海で情報交換訓練を行うなど、米軍との連携強化もうかがわせます。

 これ以外にもEP-3の平成21年度の改善がミサイル防衛に関する資料で何度か取り上げられているため何らかの形でミサイル防衛システムの一端を担っていると思われますが、EP-3がミサイル防衛体制でどのような役割を負っているのか詳しいことは不明です。しかし北朝鮮のミサイル発射の際に「ミサイルが自らの航跡を北に知らせる発信電波を、自衛隊がキャッチした」という報道が一部でなされていた事は注目に値するでしょう。

 具体的なEP-3の活躍については不明な部分も多いですが、2009年の北朝鮮によるミサイル発射実験の後にフジサンケイグループ主催の「第9回国民の自衛官」ではEP-3を運用する第81航空隊が団体表彰の名誉を授かっています。

【精鋭JSDF】第9回 国民の自衛官 表彰式[桜H22/10/19]
https://youtu.be/OI3ku_rK1T0?t=10m20s


 EP-3の乗員15名は多数の対潜員が乗るP-3Cよりも多く海自の保有航空機の中でも最大級で、自衛隊全体を見ても通常の乗員がこれを上回るものは乗員20名のE-767やB-747など一部の機体に限られます。

 乗員15名のうち航空機運用に関わる6名を除いた9名が電波情報の分析員で、恐らく専業の指揮官の指示の下で信号の識別・分析や電波源位置の推定などの作業を行なっているものと思われます。


海上自衛隊の秘密部隊? 第81航空隊

 ここまでご紹介したOP-3CとEP-3は画像と電波の違いはあれどどちらも情報収集を目的とした航空機です。

 これらの航空機は岩国基地の第81航空隊に集中配備されており、人知れず日本の安全のために電子戦データ収集及び画像情報収集を行なっているのです。

 第81航空隊にはこのようなユニークな航空機が配備されている他、解析隊という他の航空隊には無い部隊があります。

 詳細は不明ながら平成22年度の公募内容をみる限りOP-3C用地上支援装置LYQ-8B、改善型EP-3用地上解析装置NLYQ-7B、NLYQ-6電子戦データ処理装置専用端末装置といった設備を持ち、これには多数の計算機やデータベースサーバのほか記録装置や電子情報解析装置等が含まれているようです。

 画像情報や電子情報は機上で全て処理できるわけではなく、こういった地上の解析部隊に逐次情報を蓄積・解析して長期的な活動を経てようやく対象を理解するという形になっているのだと予想できます。

 恐らく第81航空隊の情報収集活動においてはEP-3やOP-3Cが"目と耳"となり情報を集め、この解析隊が"頭脳"となり情報を収集、処理しているのでは無いでしょうか?

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平成26年6月11日に東シナ海の公海上空において自衛隊のYS-11EB及びOP-3Cに異常接近した中国戦闘機Su-27。上空での情報収集は妨害機との接触と紙一重の危険な任務でもある。(出典:防衛省ホームページ:http://www.mod.go.jp/j/press/news/2014/06/11c.html

 第81航空隊が行うような情報収集活動は平時であっても大きな危険が伴う活動で、冷戦初期には少なく無い数の米軍電子偵察機が撃墜された他、冷戦後にも2001年の海南島事件では米軍で同種の任務を行うEP-3Eが中国機と接触して海南島に緊急着陸、一時機体と乗員が拘留されています。

 日本でも平成26年6月に海上自衛隊のOP-3C及び航空自衛隊のYS-11EBに中国軍のSu-27戦闘機が数十メートルの近距離に接近したとして防衛大臣が懸念を表明する事態になっています。(これに対して中国は「中国の防空識別圏に侵入し、中ロ合同演習に対し偵察・妨害を行った」と主張、しかし演習海域とはいえ「国際海域に航行禁止区域を設定するという権限は、いかなる国も有さない」はずである)

 画像収集や電子戦データ収集は戦時でも平時でも最重要であると共に大きな危険が伴う部隊でありながら、その任務の性質上なかなかその活躍を一般国民が知る機会が無いのは残念な事です。

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2017年の岩国基地フレンドシップ・デーで会場外に駐機されているEP-3とOP-3C、レアな機体のため岩国基地が公開されている時には必ず展示されている という訳では無い。

 こういった任務に使われる機体が並んで展示され、また乗員の方々にいろいろなお話を聞けた今回の岩国基地フレンドシップ・デーがどれほど貴重な機会であったかは言葉に表せないものがあります。

 みなさまもお近くの航空祭でこのちょっと変わった航空機を見たら、その可愛い外見を愛でると共にちょっと特殊な任務を行う乗員の人たちのお話を聞いて見てはいかがでしょうか?


参考
EP-3の能力や改造については以下を参考にした。
日本の航空宇宙工業 50年の歩み
http://www.sjac.or.jp/common/pdf/toukei/50nennoayumi/4_3_nihonnokoukuki3-4.pdf#page=12
EP-3 電子戦データ収集装置等換装に伴う機体改修:行政事業レビューシート
http://www.mod.go.jp/j/approach/others/service/kanshi_koritsu/pdf/review/sheet/0340.pdf
弾道ミサイル防衛
http://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/seisaku/results/19/sougou/sankou/02.pdf
平成27年度補正予算案(防衛省所管)の概要
http://www.mod.go.jp/j/yosan/2015/hoseiyosanan.pdf
海上自衛隊装備品紹介のEP-3のページを見ると塗装とレドーム数の変化がよくわかる
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/aircraft/tayo/details/ep-3.html


米軍の電子戦機の活躍と事故については以下のサイトが詳しい
VQ-1 History
https://www.vpnavy.org/vq1_1950.html
THE HAINAN ISLAND INCIDENT
http://fly.historicwings.com/2013/04/the-hainan-island-incident/


最近の中国との国境付近の問題については以下を参照
中国、米軍哨戒機を追尾 今月10日以降 自衛隊機にも執拗さ増す
http://www.sankei.com/politics/news/130114/plt1301140007-n2.html
自衛隊機に対する中国軍戦闘機による異常接近  -中国の空間認識-
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-052.html


第81航空隊が参加した災害派遣など
兵庫県豊岡市における行方不明航空機の捜索・救助に係る災害派遣について(最終報)
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2009/07/29d.html
高知県土佐清水沖における米軍機の捜索救助に係る災害派遣について(最終報)
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/12/08d.html
チリ中部沿岸で発生した地震に係る防衛省・自衛隊の対応について(14時00分現在)
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/02/28b.html
鳥取県中部を震源とする地震に係る災害派遣について(最終報)
http://www.mod.go.jp/m/news/2016/10/28d.html


こういうのまで公開してるのどうなんだろうか?
第81航空隊解析隊地上解析装置等の定期保守整備及び臨時修理役務に係る契約希望者募集要項
http://www.mod.go.jp/msdf/bukei/k4/nyuusatsu/K-22-0000-0005.pdf

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