MiG-25驚異のウエポンシステム
(空自の日本防空史27)

文:nona

 今回はMiG-25のレーダーFCSとミサイルなどウェポンシステムを紹介いたします。

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Министерства ОБОРОНЫ СССР Самолет типа 02б
https://www.avialogs.com/index.php/item/56067-02-mig-25br.html
パイロットを風圧から防御することで音速域での脱出を可能にしたMiG-25のKM-1M射出座席。(本文とはあまり関係ありません)

ミグ25事件の真相―闇に葬られた防衛出動 (学研M文庫)
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 小動物を焼き殺す大出力レーダー

 
ベレンコ氏が搭乗していたMiG-25Pは、機首にRP-25シュメルチAレーダーFCSを搭載していました。これはTu-128大型迎撃機のレーダーを改良したものですが、最大送信出力は600kWに達し、防空軍内において、1km先の小動物を殺すエネルギーがある、と言われていました。

 
平均出力は不明ですが、発展型MiG-31のザスロンレーダーのシステム消費電力が最大20kW、平均送信出力が2500Wとのことで、シュメルチもこれに準じると思われます。(常時600kWを出し続けるのは電力供給や冷却を考えるとまず不可能でしょう。)

 
また、大出力が求められた理由としても、探知距離の延伸というよりも、むしろ大型爆撃機の電波妨害に打ち勝つという、という要求が強かったようです。

 
当時の戦闘機は妨害電波に際し、発信周波数の手動変更で対応していましたが、妨害側も即座に新たな周波数へ妨害を加えますから「いたちごっこ」から抜け出せないケースがあります。

 
その問題にRP-25はごり押しで対処したようですが、当時の爆撃機用のECM装置の出力を鑑み、実際に妨害を突破できる公算も高かったようです。

 
そんなRP-25の欠点はF-4EJのAPQ-120レーダーと同様、ルックダウン性能を欠いたこと。

 
この問題は皮肉にもベレンコ氏の亡命によって明らかになり、1979年以降に運用されるMiG-25PDおよびPDSはルックダウン機能を有するRP-25Mサフィール1・パルス・ドップラーレーダーへ換装されています。


 ソ連防空軍の迎撃管制システム

 
MiG-25Pはソ連防空軍のヴォズドゥーハ1という迎撃管制システムに組み込まれていました。

 
RP-25の探知距離は諸説ありますが80~100km程度。XB-70を相手とする場合、すれ違うまでに最低1分の猶予を得られるものですが、単座機ではスペック通りレーダー性能を生かせない、ということもあり、地上の迎撃管制システムによる支援が欠かせませんでした。

 
MiG-25とシステム間の通信はRSIU-5デジタル・データリンク装置が担当し、受信した誘導信号をアナログ変換し自動操縦装置へ伝えることで、MiG-25は自動で目標付近まで飛行できました。さらに、RSIU-5はRP-25が得たレーダー情報を地上に送信する機能も有します。

 
このデータリンク装置はベレンコ氏の亡命によって通信内容が筒抜けになる恐れがあり、MiG-25PDおよびPDS型の導入時にBAN-75に換装され、地上迎撃管制システムはルーチ・システムへ変更、MiG-31の実用化以降は同機から発信される誘導信号に対応しています。


 
MiG-25唯一の空対空兵装

 
MiG-25Pが搭載できる空対空兵装は4発のR-40(AA-6)ミサイルに限られていました。

 
(PD/PDS型以降はR-60短射程AAMが搭載可能になり、MiG-31は機関砲も搭載されています。)

 
R-40は全長6.76m、重量455~470kg、弾頭重量約70kgの大型空対空ミサイルで、射程は30km~50km。MiG-25PD/PDSの登場に伴い改良型のR-40Dに更新され、射程は50~90kmに延伸、中間誘導に対応しています。

 
誘導方式はセミアクティブレーダー誘導のR-40R型と、赤外線誘導のR-40Tの2種類が存在し、単一の目標に2発を発射することで、目標の回避行動を困難にして命中率を高める、という戦法が採用されています。


 R-40のフロン冷却機構

 
R-40独自の特徴として誘導部に耐熱素材や環境制御システムが採用され、MiG-25側からもフロンガス冷却装置で冷却する措置がとられました。さらにR-40TのIRシーカーは別途液体窒素で冷却されます。

 こうした措置はミサイルが長時間曝される空力加熱に耐えるためのものですが、ベレンコ氏は高速飛行時にミサイルが揺れて恐ろしい、と語っていたらしく、機外むき出しのミサイルというのは、MiG-31でも踏襲されていますが、危うい設計だったかもしれません。

 
(アメリカのXF-108やYF-12といった高速戦闘機はミサイルをウエポンベイに格納する計画でした)


 R-40の実力

 
R-40の性能についてベレンコ氏は、SR-71が飛行する高度27000m以上では(おそらく大気が希薄で舵がきかないため)使い物にならない、正対するSR-71は相対速度が速すぎて追従できない、追跡時もやはりSR-71が速すぎて追い付けない、と否定的に語っています。

 
一方、1980年代に諸外国へ輸出されたMiG-25とR-40のうち、イラク空軍機が西側機を相手に一定の戦果を挙げています。

 
1985~86年にかけてイラク軍のMiG-25が、少なくとも5機のイラン機(F-4を4機、EC-130を1機)をR-40で撃墜しており、湾岸戦争においてもF/A-18を1機撃墜しています。

 
(21世紀に入りRQ-1無人機を1機撃墜した記録も残っていますが、使用したミサイルは不明)


 パイロットが携帯した拳銃の裏事情

 
MiG-25Pの武器はR-40一択でしたが、パイロットはサバイバルキットの一つとして拳銃(種類は不明)と予備弾倉の携帯を認められており、ベレンコ氏も函館空港にて野次馬を散らすため、少なくとも1発を空中へ向け発射しています。

 
かつて防空軍のパイロットは武器を携帯しなかったものの、ある遭難パイロットが自衛や食料調達用として銃の必要を訴えており(本人は遭難死しており、遺留品のメモにそう記していた)、これをきっかけとしてパイロットへの拳銃貸与がなされたようです。

 
それ以来パイロット達は拳銃を常に持ち歩きましたが、その一人が帰宅した際、妻と間男が寝ている場に遭遇。怒りのあまり二人を射殺した、というショッキングな事件も発生しています。以降拳銃は基地で保管される方式に改められたのだとか。

 これはベレンコ氏の伝聞を元した話で、どこまで本当の話かは不明ではあるものの、大変興味深い裏話です。

 
なお、かつてアメリカの爆撃機パイロットは狩猟専用銃としてM4、M6、AR-5などサバイバルライフルを持つ場合があり、ソ連でも宇宙飛行士用としてTP-82という3銃身の特殊銃が存在していました。


 
次回はMiG-25事件シリーズ最終回。事件以降のソ連軍・自衛隊・ベレンコ氏について解説いたします。


 
参考資料

ミグー25ソ連脱出―ベレンコは、なぜ祖国を見捨てたか(ジョン・バロン著, 高橋正訳 1982年3月30日)
P12,P16-17,P43-44,P121-122,P218-241

ミグ戦闘機 ソ連戦闘機の最新テクノロジー(ビル・スウィートマン著 浜田一穂 訳 ISBN4-562-01944-1 1988年7月30日)
P151-195

世界の傑作機 No.172 ミコヤンMiG-25、MiG-31 (文林堂 ISBN978-4-89319-243-1 2016年5月5日)
P26-33,P56-71,P84-113

「ミグ25」の6つのおもしろい事実 ロシア・ビヨンド(ロシアNOW)
 2014年3月15日 エカチェリーナ・トゥルィシェワ
https://jp.rbth.com/science/2014/03/14/256_47533

ソ連の日本亡命でMiGに恩恵 ロシア・ビヨンド(ロシアNOW)
2016年9月29日 ラケーシュ・クリシュナン・シンハ
LOCKON: FLAMING CLIFFS 2 Flight Manual
http://www.checksix-fr.com/downloads/lockon/FC2/Docs/lockon_fc2_flight_manual_en.pdf
P141

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