【読者投稿】防空戦闘の流れ 野戦防空
文:ミラー
夏も終わりを迎え残暑が続く日本の胆を一気に冷やした北朝鮮の弾道弾日本上空通過から時間も経ち、次は核実験の不安を覚える日々が続きますね。
今回は前回の記事で戦闘ヘリ運用が盛り上がったので、対抗手段である野戦防空の流れを書いていきます。
BMD防衛の基礎は防空戦力の発達と密接なので、少し触れられればとも思います。
誤解が無いように述べますが、どんなに完璧な攻勢作戦や防衛陣地も失敗する可能性は常にあり、この方法なら敵は怖くない!この兵器は役に立たないから不要!とはならないのでご注意下さい。
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1、野戦防空の歴史
元々は気球による偵察を阻止する為に、野砲を改造した高射砲をトラックに積んだり、歩兵による小隊対空射撃が対空戦闘の走りになります。
航空機の発達に伴い、主に後方地域や都市を守る戦略防空とこれから話す野戦防空へと別れ、何れも低空を守る発射速度が早くて弾幕を張れる高射機関銃・砲とより高い位置を狙える高射砲へと発達していきます。
これらは互いにカバー出来る様、防空陣地を敷き、初期は人の目や聴音器、やがてはレーダーにより統制されていきます。
結果、一機の敵に対して大量の火力を集中出来る様になり、高射砲の時限信管の調整も精密になります。
一方で航空機が高速になった結果、高高度への目標へ命中させる事が難しくなります。
これは弾幕不足よりも目標への到達時間が長くなる事で目標の回避機動についていけなくなった事が原因です。(WW2のドイツは恐ろしい数の高射砲を都市防衛に集中運用しましたが、航空機の迎撃に勝るものはありませんでした)
そこで、航空機の様に目標を追従し撃墜する対空ミサイルが開発されます。
そこから世界は冷戦を迎えるのですが、ここで見逃せないのはソ連軍の多重防空コンプレックスと自走化でしょう。
彼らは都市防衛等に用いられた長射程の防空ミサイルを前線に持ち込み、高高度の敵を低空へと追い落とすと共に、レーダー管制された機関砲等の低空域防空火力の集中で、航空拒否の概念を産み出しました。それらが地上部隊の前進に合わせて移動出来る様にもしたのです。
これに対する西側諸国の回答は、ソ連軍のレーダー網に掛からないよう、低空侵入による爆撃や高機動力の攻撃ヘリによるNOE飛行から物陰に隠れての防空火力の狙い打ちになります。
そして、時が流れ湾岸戦争が起こると、今度は弾道ミサイルから如何に都市や部隊を守るかが課題となりました。
現在ではBMD防衛の一角を担うパトリオット防空SAMのPAC2仕様が迎撃率7%程度ながら野戦部隊のミサイル防衛の駆け出しを行っています。
主に狙われたのは都市と後方地域なので、戦略防空のくくりではあるのですが、現在のレーザーや短距離ミサイルを用いた巡航ミサイルやロケット弾、弾道ミサイルからの防空を担う初期の例として充分でしょう。(海軍ではもっと前から艦隊防空として対艦ミサイルを迎撃対象にしてますが)
2、野戦防空の仕組み
野戦防空の流れとして、自衛隊を例にしてみましょう。
個々の細かいスペックは当然非公開ですし、本当の防空手順も公開されてる訳ではないので、あくまで仮定の話しです。(現職やOBは情報保全に気を付けましょう)
まず、自衛隊に於ける野戦防空は空自防空網の間隙を抜けられるか航空優勢の喪失から始まります。
空自を突破した敵機は戦略・戦域防空を担う空自ペトリオット部隊の迎撃や陸自の中SAMを回避する為に低空を飛ぶでしょう。
もし、高度を上げれば忽ちSAMが襲い掛かる可能性があるので、SEAD機が叩きに来るのは明白です。
逆に自衛隊側はSEAD(防空制圧)を避ける為に、決定的なタイミングまで射撃管制レーダーを封止している可能性もあります。
低空を陸自部隊目掛けて飛ぶ敵機は陸自の対空レーダー等が探すと共に、斥候からも報告があるでしょう。
ここで、部隊に随伴する野戦防空隊は、敵進路上に布陣するか対応方面の部隊に対処するよう命令が入るでしょう。
彼らは短SAMや近SAM、場合によっては87式自走高射機関砲をもって低空侵入する敵機を迎え撃ちます。
この時、部隊は統制された防空戦闘を行い、火力を集中させるでしょう。
具体的な布陣に関しては、場所や情勢により変わるので付言を避けます。(申し訳ないです)
それでも突破した敵機に対しては、12.7mmHMGや分遣された携行SAM班により個別の防空戦闘を行う事になります。
彼らは広域多目的通信システム等の情報から敵機のおよその方角は分かりますが、対空射撃に必要な諸原は目視に頼る他ありません。
これは攻撃ヘリによる奇襲でも言えることで、固定翼機より速度に劣り、統制された防空火力には脆弱性を示すのに地上部隊や状況により防空部隊まで圧倒するのは、奇襲により統制された防空戦闘を許さない場合があるからに他なりません。
防空部隊側の重要ポイントは、地上戦闘と同じで、如何に防空火力が集中するキルゾーンに敵機を追い込むかです。
その為には、隠覆蔽が必須になりますが、これは統制された防空戦闘の為に必要な敵情報の会得と矛盾する方針でもあります。
隠蔽するほど、射角は絞られますし、視界も限られレーダーで電波を出せばSEADに狙われます。
そこで、レーダーなどの対空環視所を別に設けて、攻撃ヘリを含む敵航空戦力の奇襲に備えるのです。
簡単ではありますが、今回はここで終わります。
また、リクエストがありましたら応えられる様に頑張りますので、宜しくお願い致します。
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コメント
ゲームのように単純にいくわけない
ともあれ陸戦が主に想定される欧州方面では、ドイツのスカイガードに代表されるような対空機関砲の装備調達は現在も進んでいるが、事情が違うのか日本では対空機関砲の装備は減ってきているな
ポーランドにルーマニア、フィンランドあたりは最近新規調達決めたばかり
それはそうと今年の概算要求出ましたね。
概算要求書のみで、読みやすい概要書はまだ出てきてないのが悲しい所ですが
敵の命中精度の低さがかえって足枷とか皮肉だな。
http://sp.nicovideo.jp/mylist/50591949
UP主の故郷に銅像が建ったかは不明だがシステムはかなりリアルだし動画でシミュレーターだから流れや概要が解りやすい。
基本的な操作は今の最新世代でも変わらないのかな?。
外れる距離って、そもそも無い様な気がする。
徘徊しながらレーダー波を探知すると突入、自爆する
イスラエルのレバノン侵攻で成果を上げたそうな
アメリカも装備、中国もパクるようだ
イスラエルと繋がりあるし
「長射程の防空ミサイルを前線に」って如何にもソ連らしいな〜 そういえば野戦砲に対戦車能力付けて最前線に並べたのもソ連だったしw(ラッチュ・バムことZiS-3も元は野砲だ)
野戦防空戦闘全体の評価としてはどうなんだろうか?
圧倒的な米軍機に対してS-75(SA-2 ガイドライン)が予想外の脅威を示したベトナム戦争
防空コンプレックスが大活躍した第四次中東戦争
スティンガーミサイルを一躍有名にしたソ連によるアフガン侵攻
ステルス機と誘導爆弾と巡航ミサイルの活躍が目立つ2度のイラク戦
そして昨今のウクライナ危機と中東での睨み合いと各々の時代にそれなりに戦訓を求められる戦いがある。
ベトナム戦争とアフガン侵攻での航空部隊の苦戦から例え少数・未熟な対空ミサイルとはいえ運用によっては航空部隊の脅威になると言えそうだし、第四次中東戦争の防空コンプレックスの活躍とウクライナ危機やシリア内戦で見せた超長距離地対空ミサイルの存在感から、個人的には疲弊したイラク軍を圧倒的な米軍が叩いて見せたイラク戦のようにステルス機と電子戦機による痛撃の後にSEAD機が入念にSAM狩りをしないと空対地戦闘は限定的にならざるをえず、本格的に対空脅威をなくすのであれば地上軍が防空陣地を破壊するまで安心はできないのじゃ無いかとも思う。(それでもまだ携帯SAMの脅威が残る)
そして昨今の自衛隊の想定としている離島の防衛・奪還作戦となると戦域の狭さから防空火力が海上合わせて恐ろしい密度で集中することになるので、ステルス機の一撃離脱以外はかなり危険になりそう・・・
そういった戦場ではステルス機に追従できる速度を持つ戦闘機やオスプレイ以外はリスキーすぎてなかなか空も飛べないのでは無いだろうか?
ガネフとか、よくもまああんなものを野戦防空に用いる気になったなぁ、と(最大射程が55kmでナイキより射程が長い上に、ランチャーが履帯で自走できるという)
某大戦略では、ソ連軍プレイヤーの頼もしい戦友だった…。
こういう野戦防空陣地の嫌らしいところは、(当たり前っちゃ当たり前だが)航空攻撃だけでは決して無力化できないこと。
これを完全にやっつけるには、砲兵で集中射撃を浴びせるか、地上部隊で蹂躙するしか手段がないので、有力な地上部隊に野戦防空システムの傘が加わると、正面攻撃以外に有効な打撃を与えられないことになってしまう(守りに入るとこれがより顕著なことに)。
そういえば今やってる『空母いぶき』では、中国軍が宮古島に構築した防空陣地を艦砲射撃で叩くために、護衛艦を殴り込ませる展開になってますな。
SA2の命中率は最初は6%、後半は1%を切ってるんだが
B52に対して2%程度で北爆を阻止できず、北ベトナムは敗北寸前まで追い込まれたが、国際社会の反ベトナム戦争機運に負けた
イラク戦争前のノースウォッチ、サザンウォッチ作戦においては100回以上攻撃されて被撃墜ゼロね
電子妨害装置を積むようになるとミサイルによる被害は減少
大型のB52でさえ一度に数十発の攻撃でも当たらなかったり
低空における火砲の被害はどうにもならないがこれは湾岸戦争でも見られたように同じか
今は更に発達した電子妨害装備の他に、ステルス機、ステルス機でない機体にはAN/ALE-50などの曳航式デコイも加わり、湾岸戦争以降に劇的に被害が出なくなったのはコレの登場のおかげじゃないかと個人的見解
従来のチャフフレア装置から発射できる電子妨害デコイもイタリアのレオナルドが開発してるな
空中発射式の長距離巡航電子妨害デコイもイスラエル製のサムソンから発展しアメリカでも開発されており
SEAD任務も徘徊型無人機が登場し、実戦で運用され開発が進んでいる
長中射程ミサイルは西側の最新装備の機体にどの程度の命中率で当たるんでしょうかね
電波ホーミングミサイルは厳しいんじゃないか
光波ホーミングの開発もそりゃ進む
命中率で見ると少ないようですが、対空兵器の評価においては防空陣地を嫌って進路を変更させたり、ミサイルを嫌って低空に逃げた所を機関銃で撃墜したり、攻撃に集中できずに爆撃精度が低下したりといった副次的な効果も見逃せません。
特にベトナムにおいてはミサイルを回避するために爆弾を捨てたり動き回って燃料を浪費して作戦継続が出来なくなる(ミッション・キル)の成果も無視できないことはよく言われる通りです。
B-52への命中率2%も「50発の対空ミサイルと5名の乗員が乗った1000万ドルの大型爆撃機の交換」と書けばそこまで法外な取引とは言えないと思います(時と場合にもよるでしょうが・・・)
SEAD任務について、湾岸戦争からイラク侵攻まで第一線で活躍し、バクダット上空でのワイルド・ウィーゼル任務にも複数回参加しているダン・ハンプトン=サンの本が非常に良いので興味ある人には是非ともオススメしたいのですが、その本によれば最初期のウィーゼル任務の際には9基のSAM破壊確定までにF−100F装備のウィーゼルの損失率がじつに50パーセント、1966年だけでも(全機がウェールズで無いが)F−105が126機失われ、その内103機はSAMと高射砲で撃ち落とされた模様、戦争後半にはウェーゼル隊にもF-4ファントムが配備されてますが、それも26機が撃墜されてしまったようです。
イラク戦争では米軍の積極的な攻撃精神と高い技能に戦闘機に装備されたの曳航型デコイなどの電子戦機器、ついでにイラク軍の時代遅れの装備によって撃墜された米軍機は固定翼機1機とヘリ6機だけでしたが、前述の本ではデコイが失われた(デコイのおかげで助かった)戦いも何度かあったので、決して安易な戦いではなかった印象です。
昨今の電子関連技術の急速な進歩に合わせて従来兵器の陳腐化が急速に進むと共に、電子戦で優位に立つために平時のSIGINTが大変重要になっている というのが個人的な見解
F4あたりからECM搭載されるようになったが、それでも全機には行き渡らず四機に一機の割合
それで迎撃側は、F4の時は攻撃を控え、装備無しのF105を狙う戦術をとったりした
勘違いしているようだが旧イラク軍の防空装備は悪く無かった
世界を敵に回したイランと対立していたイラクには西側からもテコ入れがあり、くどいようだが防空システムはフランスが構築、ローランドミサイルまであった
レベルは低く無い
それとベトナム戦争において即席のECMポッドが導入されるようになると、F4四機の内一機が装備で妨害担当、残りが爆装したまま任務を続行可能な状況が増えた
ECMなど無かった第四次中東戦争時の防空網の印象が強いようだが時代は移り変わるよ
ベトナム戦争から湾岸戦争、イラク戦争にかけての損害が段違いに減少してきている状況はおっしゃる通りなんだが
ECMなど諸々無かった時代と現在を重ねて考えるのは全く間違いだと思う
後ろから襲いかかるようで申し訳ないけど、第四次中東戦争についてはSA-6に対応していなかっただけで、イスラエル側は電子戦機材自体は装備していたはずでは。
最初期のワイルド・ウィーズル任務は、逆探があるだけで対レーダーミサイルも誘導爆弾もなく、ロケット弾と通常爆弾だけで高射砲が所狭しと並んだレーダーサイトに攻撃を仕掛けてた訳で、損耗率5割なんてぶっ飛んだ数字になるのもむべなるかな…。
あとB-52は、当時はアメリカの核戦力の一角を担っていて、非核武装のD型でもあんまりボコボコ落とされると、核攻撃型のG型にしわ寄せが行くことになるので、ある程度でも損害を減らせたのは大きな成果だったはず(というかラインバッカー作戦では、実際に応援で参加したG型が何機が落とされて問題になっていたりして)。
※18
いや、※15はイラク戦争の話をしているので、イラク軍の対空装備が時代遅れなのは間違いないかと(湾岸戦争からイラク戦争までの間、イラクの軍用機材は大して更新できなかったから)。
あとベトナム戦争の頃だと、編隊はまだ出力の小さかったECMポッドの傘に全機を隠さないといけなくて、そのために密度の高い編隊を組む必要があったのを考えると、パイロット側の負担も大きくなっていたりします。
ウクライナの例を見るとS400とかの長射程のSAMやパンツィーリなどの中距離や短距離のSAMを何重に張り巡らせてるらしく、戦闘機を展開しなくてもウクライナ空軍を封殺してるらしい
イスラエルは装備してたんかね?
F4へ簡易ECMが装備されたのはその後だと思ったが
それはともかく、ECMの技術やSEAD任務の機材兵装攻撃手段も発展多様化しているんだよね
つまりは全部の時代を一律に語るのはおかしいな、と
恐らくAN/ALQ-51のような機上電子戦装置と、確かニッケル・グラス作戦だったかで急遽供与されたAN/ALQ-71のような電子戦ポッドと勘違いしている可能性が。
ミサイルの最小射程の問題やECMとの戦い、敵機に対地攻撃を放棄させるミッションキルに関して触れるべきでした。
しかし、昨今の防空戦闘はレーダーの能力への依存が強く、ステルス化や電子戦の影響が大きく響きますね。
一方でミサイルのアクティブホーミング化が進み、光学式も赤外線と画像の組み合わせといった複数の探知手段を組み合わせるの主流になりつつありますね。
光学式も索敵はレーダーへの依存が強いという問題もありますが。面白いのはレーダー画像方式なる対艦ミサイルも研究中なので、対空ミサイルにも適用されるかもしれません。
次回は海のネタでも書こうかなと考えています。
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