台湾海軍左營軍区故事館

文・写真:nona

 本年高雄市で一般公開が開始された、もう一つの軍事博物館が、この台湾海軍の左營軍区故事館です。左營は空軍軍史館航教館の岡山と、高雄市街の間にある海軍の街。故事館の近くには左營軍港港、海軍軍官学校、軍の保養施設も隣接しています。

 
本年7月には左營港の台湾艦艇から超音速対艦ミサイルが誤発射され、沖合の漁船に命中する重大事故が発生したことも知られています。このミサイルは不運にも自国の漁船に命中し、1名が亡くなられたのですが、もし中国船に命中していたら、両岸関係もただごとではなかったはず。

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 こちらが左營軍区故事館。同日に訪問した空軍軍史館航教館と比べ、こぢんまりとしています。

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 碇のモニュメント

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 「左港七 六瓲 昭和十七-四」とあります。詳しい由来は不明ですが、日本海軍時代のものであることは間違いない。

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 もうひとつ碇をかたどったモニュメント。軍艦丹陽の元乗組員の寄贈によるものらしい(?)。軍艦丹陽とは旧日本海軍の駆逐艦雪風のことで、左營基地内にはスクリューが残されています。

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 エントランスに展示される台湾海軍の1950~70年代の艦艇の銘板。

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 アメリカ供与艦の碇。

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 駆逐艦資陽(旧ギアリング級駆逐艦ホーキンス)の再現艦橋。

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 1960年の航空写真をもとに再現された左營のジオラマ。中央の沼は蓮池潭で、ガイドブックでは必ず取り上げられる観光名所です。

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 台湾の歴史紹介コーナー。先史時代、オランダ植民地時代、鄭氏政権時代、清朝時代、日本時代、国民党時代、そして現代までの400年の歴史を淡々と綴っています。

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 19世紀末の日本の植民地時代も詳しく解説されていますが、感情を殺し、あくまで中立の立場で解説しているよう見受けられました。

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 時代が下って1937年。日中戦争がはじまった年に左營軍港の建設が計画が開始、1940年に正式に工事が開始。

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 これに伴い、いくつかの集落で立ち退きを迫られることに。故事館のパネルは淡々と解説していますが、もっと感情的に書いてもいいと思う。

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 1941年に台湾に設立された海軍第六燃料省の紹介。当初の第六燃料省の仕事は南洋から運ばれてくる原油の貯蔵精製でしたが、1943年ごろから石油の輸送が滞ると、新竹の支廠にサトウキビ燃料工場を建設。燃料不足の解消に努めています。

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 「二戦末期日本海軍戦事失利、採行自殺式攻撃、空中為神風、海上震洋特攻隊。」太平洋戦争末期、左營や高雄には震洋特攻隊の基地が置かれました。

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 太平洋戦争後の1954年、中国大陸から台湾へ逃れた国民党政府は、アメリカと中美共同防御条約を締結します。

 
1949年に中華人民共和国が成立した頃、アメリカは民心の離れた国民党を見限ろうとしていたようですが、朝鮮戦争における中国(の義勇軍)の参戦や、ベトナム民主共和国の成立によって、東アジアの共産主義国の封じ込めの拠点としての、台湾の重要性を痛感。再びの軍事援助を認めたのです。

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 しかし中美共同防御条約は1979年で終了し、駐留していたアメリカ軍は撤退。アメリカ政府が台湾の頭越しに中国との関係改善を図ったことがきっかけでした。

 
台湾はニクソンとキッシンジャーを目の敵にして当然のはずですが、先の日本統治領時代の解説と同様、恨みを書き綴るようなことはない模様。

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 台湾海軍に所属していた艦艇の写真。かつての台湾海軍は、艦級ごとに共通の漢字を用いたようです。

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 補助艦艇など。

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 艦艇の模型。

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 左營に置かれている台湾海軍の教育施設の紹介。シンプルなパネル展示ですが、漢文フォントが綺麗で、パネル配置も凝っていて面白い。

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 台湾の歴代総統について学べるタッチパネル。総統職に就く人は眼鏡率が高いようです。

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 台湾海軍の退役済み艦艇を閲覧できるタッチパネル。

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 例の軍艦丹陽の解説。1947年に取得した当初は武装が撤去されていたため、左營にて旧日本軍の兵器で再武装されました。ただし、元来の三年式12.7cm連装砲は搭載されず、一番砲塔に八九式12.7センチ高角砲、2,3番砲塔に九八式10センチ高角砲という奇妙な構成になりました。

 
その後、程なくして後武装をアメリカ式に変更。シールドなしの5インチ砲、3インチ砲、40mm機関砲と爆雷へ変更されています。

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 アメリカ式の装備に改装された頃の丹陽。

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 一方で丹陽の機関は万全とはいかなかった模様。展示されていたジェーン海軍年鑑は、丹陽の最大速力を25-7ノットとしています。これはオーバーホール直後の1953年に実施された海上公試に基づく数値です。

 
ただ故事館のタッチパネルでは丹陽の速力を32ノットと表記。本当の速力はよくわかりませんでした。

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 現代の台湾海軍の主力艦艇と水陸両用戦闘車両の模型。

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 2016年に就役したばかりの沱江級ミサイル艇。

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 武装は76mm速射砲、雄風二型対艦ミサイル8発、雄風三型対艦ミサイル8発、短魚雷、ファランクスCIWS。ファランクスは海剣羚艦隊空ミサイルに換装される予定です。

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 現在計画中の新型潜水艦の模型。

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 同じく計画中のドック型輸送揚陸艦の模型。

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 展示室の最後には将来の台湾海軍の予想GC図が。

 
台湾海軍は2016年に4,700億台湾ドル(約1兆5000億円)を投じ、12種の艦艇の国産化に踏み切ることを公表しており、上記の「新型潜水艦」や「新型ドック型輸送揚陸艦」に加え国産イージス戦闘艦の建造も計画しています。

 
景気のいい話ですが、潜水艦の建造ノウハウをどう得るか、またイージスシステムや兵装をどう輸入するか。計画には不明な点も多く残されています。台湾の頑張りに期待したいところ。

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http://taiwantoday.tw/ct.asp?xItem=245704&ctNode=2316

台湾海軍が計画中のイージス艦のCGモデル。

次回は高雄港内の艦艇について解説いたします。


参考

Tiwan today 国産軍艦に予算4,700億台湾元=海軍
http://taiwantoday.tw/ct.asp?xItem=245704&ctNode=2316
産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/160701/wor1607010013-n1.html
台湾 四百年の歴史と展望(伊藤潔 ISBN978-4-12-101144-2 1993年8月15日)
台湾を知るための60章(赤松美和子 ISBN978-4-7503-4384-6 2016年8月25日)