【読者投稿】ソビエト連邦軍 西側諸国から見た赤い熊の姿
ソ連地上軍(1)ドクトリン

文:ミラー

 はじめまして。
 この度はじめて投稿する事となるミラーです。

 
本来は日本の軍事・兵器開発史が好きで調べていますが、個人的な事情でそちらの関係を書くにはまだ早いという状況です。

 その為、今回は1980年代の書籍から読み解くソ連軍の装備体系と
装備品などを説明していきます。

 初回である今回はソ連地上軍のドクトリンに関して紹介します。

 あくまで西側諸国からの視点で見ているので、実際に当時ソ連軍が企図していて内容とずれもあるでしょう。そこは、「印象と実態の差」として読んで頂ければ幸いです。

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ソ連地上軍ドクトリンとは

 
ソ連軍が用いる軍事ドクトリンの根源は、一言で述べるなら「合理性」という言葉がもっとも適切でしょう。

 1945年から1953年のスターリン主義の時代、彼らはWW2型の通常兵器による戦闘を重視していました。しかし、1953年から1958年の間に核兵器を用いた戦略部隊が主流となりはじめて、米軍のパンデミック師団と同様に戦術核を主力とした編成を行うようになります。

 1967年になると中東戦争やベトナム戦争などの教訓を取り込んでか通常戦力の改善を行うと共に、核戦力と組み合わせたミックス戦略を取る様になります。

 これが冷戦の期間中ソ連地上軍の主要軍事ドクトリンとなりました。ドクトリンを実現するための要素は戦闘実施基準を遵守し、戦闘効率をあげることが不可欠とされています。

 簡単に言うと目的を達成する為に作られた任務を達成するために、軍隊はそれに応じた質と量を持つ兵器を管理して、効果的に運用する必要があるという事です。

 これを彼らの言葉で表現すると「現代戦の特性と軍隊の運用に関して、科学的視点から築き上げた軍事の体系に従えば、戦闘実施基準と戦闘効率の実現が容易になりドクトリンを実現できる」という事になります。

 
この考え方は、軍事ドクトリンという目標を達成する事を最優先とし、それを達成すれば他の目標も達成出来るという考え方の基礎となっています。

 ただ、ドクトリンは戦術や軍事科学にも適用される訳ではないというところで西側とやや違うアプローチがあります。

 ドクトリンは軍事思想のあらゆる面でベースとなる考えですが、例えば軍事科学には「武力闘争の特性、本質および内容に関する知識を体系化」したものという定義があり、実戦や演習などから得られたデータ、戦史研究から得た経験に基づいて考えられています。

 1980年代にソ連地上軍元帥だったグレチコ氏は当時、「軍事史研究の価値は、過去の経験と教訓を通して創造性を助長できるほか、戦争の各種遂行手段を開発するための一般原則を把握で
きる点にある。また戦史研究によって、将軍をはじめ一般将校の軍事に関する世界観と軍事的視野を広めることが出来る」と述べ、軍事研究における経験に基づく研究の大切さを重視しています。

 現在で言うバトルプルーフ(戦闘経験)の重視です。

 
軍事科学には一般理論、組織論、兵要地誌(地形学)、軍事史学、軍事訓練理論、軍事訓練という分野があると共に兵術と呼ばれる戦術に関する考え方も含まれます。

 科学の重視が当時のソ連で特徴的な要目です。

 兵術は「軍事行動の理論と実践」ということになり、最上級部隊の戦略的な分野から、中級部隊の作戦術、最下級部隊に於ける戦術まで多様に分けられています。

 但し、戦略に関しては陸海空軍が共通の戦略に基づいており、三軍の統一を行うという点で米軍などとは違う意味で統合運用を実現しています。

 逆に言うと個別で軍を動かす気はないという事にもなります。
戦略級の判断はソ連邦最高統帥部により行われ、世界規模の作戦規定と軍編成が行われます。

 作戦術では共通のドクトリン・戦略・軍事科学に基盤を置きつつ、各軍がそれぞれの目標を達成するための計画を行います。

 ソ連地上軍であれば、各地域を受け持つ方面軍が該当し、現在の米軍では地域軍・自衛隊なら方面隊に当たります。

 具体的には西ヨーロッパへの無停止攻撃作戦の編成と実施要領などです。

 戦術レベルは、師団や連隊からなる戦術部隊と大隊以下からなる構成部隊がどの様に戦う事で勝利を得るかという項目になります。

 ここで問題となるのは、ソ連軍が余りに各部隊・各兵器がシステムの一部として固定化されすぎ、「科学的」に最適とされる行動を研究して教育しておくことで数値的な指標を出しており
、指揮官の裁量で決められる戦術的判断にまで固定的概念を持ち込んでしまったことです。

 現在のロシア軍では西側的な柔軟性が取り入れられていますが、これは戦術的柔軟性が科学的数値による固定化された戦術より、移り変わる戦局に対応できるという事を証明したのではないでしょうか?

 アフガニスタン侵攻やチェチェン紛争で比較的柔軟な行動判断が出来るスペツナズ(特殊部隊)が活躍しているのも証拠でしょう。

 しかし、経験に基づく画一的教育方法は兵術を理解させて多くの将校を育てるのには、効率的に機能したと考えられます。

 
次回は作戦の原則などを解説します。


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