チリ海軍練習帆船「エスメラルダ」とシンガポール海軍ステルス艦「ステッドファースト」の訪日 (2016年8月)
文:nona
残暑の厳しい2016年の8月下旬、チリ海軍の練習帆船エスメラルダと、シンガポール海軍のステッドファーストが相次いで日本を訪れていました。今回はその模様をレポートいたします。
まずは晴海埠頭に入港したチリ海軍の練習帆船エスメラルダから。
新潮社
売り上げランキング: 166,825
エスメラルダは1954年にチリ海軍に就役した、バーケンチン型の練習帆船です。艦名はエメラルドに由来し、チリ海軍で代々受け継がれているものですが、本艦には“Dama Blanca” (ホワイトレディ)という愛称がついています。
今回エスメラルダは61回目の遠洋航海として、9年ぶりに日本を訪れました。今回の推定航行距離は28,417海里、予定期間も211日に及びます。
船体の大きさは/全長113m/全幅13.11m/マスト高48.5m/排水量3673トン。帆走時には総面積2870平方メートルの帆が使用され、凪や港にいるときはディーゼルエンジンが用いられます。
乗員は士官22名、船員142名、海兵隊員37名、チリ海軍兵学校と船員学校の生徒97名の計298名。うち女性は25名で、ウルグアイ海軍からも5名が派遣されています。
http://translate.googleusercontent.com/translate_c?depth=1&hl=ja&rurl=translate.google.com&sl=auto&tl=ja&u=http://www.esmeralda.cl/esmeralda/buque-escuela-esmeralda/el-buque/2014-06-04/110731.html&usg=ALkJrhhqSElqllmKaiDyoyCtcbH_SWkO8A
エスメラルダの帆船としての型はバーケンチンに分類されています。バーケンチンとは前檣(フォアマスト)が横帆、それ以外は縦帆を張る帆船のこと。横帆は追風を得やすい構造で、縦帆は逆風での詰開き前進に向き、加えて少ない船員で操帆できるメリットがあります。
ちなみに二代目日本丸や海王丸は、エスメラルダとは逆に前3本のマストが横帆、最後尾が縦帆用のマスト。型はバークに分類されます。
エスメラルダの船首像。フィギュアヘッドとも呼ばれます。コンドルをかたどったものですが、公式サイトでは「港に足を踏み入れたことがない唯一の乗組員」としています。かわいそうに。
舷側。エスメラルダは1946年からスペインで建造されたということで、古典的なリベット接合が印象的です。
上甲板。索具だらけですね。
艦尾。甲板の中央にある白い屋根は収納箱でしたが、立派な天窓がついています。以前は船内の採光に使用されていたのかもしれません。
舵輪は艦尾に設置されています。
エスメラルダの後ろに停泊しているのは、ホストシップの護衛艦「まきなみ」でした。
膨張式の救命筏。
ファアマスト。トップボードで作業をされている方がいます。命綱をつけていたようですが、あそこまで登る時には体力と、それ以上に度胸が必要ですね。
艦首の礼砲。4門据え付けられていました。防盾もついています。
エスメラルダ厨房。たまたまドアが開放されいていたので、撮影の許可を頂きました。クラシックな外見と異なり現代的で清潔です。
流し台と大鍋。包丁は磁石で固定。
上甲板の天窓からも厨房を垣間見ることも。
見学コースを終えると物販コーナーがあります。お酒もありますが、税関は通したのかな?
売り子をしていたのは士官候補生の方々ですが、暇なときはスマートフォンをいじっていました。世界中どこにいても国の家族や友人と連絡を取り合ったりできるのは、便利な時代になったと思います。
エスメラルダの艦尾。最大高48.5mとのことで、よくレインボーブリッジの下をくぐってこれたものだと感心させられます。
今回のー般公開後の8月29日には高円宮妃殿下、薗浦外務副大臣、パトリシオ・トーレス駐日チリ共和国大使夫妻とともに、エスメラルダ艦上で昼食会も催されています。
その場でエスメラルダのカルロス・シュナイト艦長は「日本とチリは遠く離れてはいるが、太平洋を挟んで多くのものを共有しており、その友好関係は、特に海軍間の関係に顕著に表れている」の旨を述べられています。
日本とチリは太平洋で遠く隔てられてはいるものの、エルニーニョ現象や津波など、自然環境では互いに影響を及ぼし合っています。近頃はチリからの食料品輸入も盛んで、チリワインも広く知られるようになりました。
ただ、人間同士の交流はまだまだといったところ。今回エスメラルダが日本を親善訪問してくれたように、私たちからも積極的にチリとの絆を深めたいものです。
https://www.facebook.com/JMSDF.PAO.fp/posts/1180217972039919
次の艦は、横須賀基地に入港中のシンガポール共和国海軍のステッドファースト。
今回はRIMPAC2016(環太平洋合同演習)後、太平洋各国を親善訪問中の8月19日に日本を訪れました。一般非公開につき艦内見学がなされなかったため、ヴェルニー公園と背後の山の上からの撮影です。
ステッドファーストはフランスのラファイエット級フリゲートを元に設計された、シンガポール海軍フォーミダブル級フリゲートの3番艦。就役は2008年。意味は英語で「不変、不動」を形容したもので、いかにも軍艦らしい強い意志を持つ艦名です。
シンガポール国防省によると同艦の大きさは全長114m/全幅16m/排水量3200t(日本語版wikipesiaでは満載排水量を3800トンとしています)
航行性能はMTU 20V 8000 M90fディーゼル 8200kW(11148.9馬力)4基によって最大速力25ノット、巡航時の航続距離3500海里を発揮します。(なお英語版wikipediaでは最大速力27ノット、日本語版wikipediaは31ノット、巡航時の航続距離はともに4200海里としています)
乗員は71名と15名の分遣航空要員で、シコルスキーS70B(SH-60)哨戒ヘリコプターを1機搭載します。
武装はオットーメララ76mm砲1門 /アスター艦対空ミサイル4×8セル/ハープーン艦隊艦ミサイル/A224S魚雷発射2基/タイフーンRWS2門。
ステッドファーストのステルス設計は艦のいたるところで徹底され、艦首には錨を隠す蓋までついています。(右舷側なので盲蓋かもしれませんが)
アンテナマストも(背後のたかなみ型と比べると)独特です。
写真右下にあるピラミッド型のものはタレス製のヘラクレス多機能レーダー。対空探知領域250km、水上探知領域80km、追跡可能数400目標の性能を誇ります。
ただし海上自衛隊のFCS-3と異なりレーダーアレイが1面にしかないため、動作時にピラミッドが毎分60回転することで全周をカバーします。
参考動画では、レドームが吹っ飛んでいきそうなスピードで回っていました。<https://www.youtube.com/watch?v=bUrCzD4SNjg>
なお、ここまでステルス性に気を使っても、艦が転舵や波浪による傾斜で一時的にシールドが垂直になり、レーダーに写る場合があるとのこと。噂話に聞いたので事実かはわかりませんが。
夜の横須賀基地とステッドファースト。
電灯艦飾はありませんでしたが、それも武骨でかっこしいですね。
参考資料
Buque Escuela Esmeralda(エスメラルダの公式サイト)
http://www.esmeralda.cl/esmeralda/site/edic/base/port/inicio.html
日本国外務省
薗浦外務副大臣のチリ海軍練習艦「エスメラルダ」号艦上昼食会出席
http://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/cl/page22_002686.html
シンガポール国防省
Our ships よりFormidable-Class Frigates
https://www.mindef.gov.sg/imindef/mindef_websites/atozlistings/navy/assets/vessels.html
タレス ヘラクレス多機能レーダー資料
https://www.thalesgroup.com/sites/default/files/asset/document/Datasheet%20HERAKLES_DS167_10_12_HR.pdf
wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/フォーミダブル級フリゲート
https://en.wikipedia.org/wiki/Formidable-class_frigate
海上幕僚監部
チリ共和国海軍艦艇の訪日に伴うホストシップの派出等について
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/info/news/201608/20160823-01.pdf
シンガポール共和国海軍艦艇の訪日に伴うホストシップの派出等について
http://www.mod.go.jp/msdf/formal/info/news/201608/20160816-02.pdf
最新世界の帆船
(中村庸夫著 ISBN4-582-27404-8 1992年8月21日)
船の歴史文化図鑑
(ブライアン・レイヴァリ著、増田義郎、武井摩利訳 ISBN978-4-903487-02-1 2007年9月15日)
コメント
てっきり多面レーダーアレイだと思ってたよ。
満艦電飾で気が付いて近くまで見に行きました。
防衛省や自衛隊HPには、他国からの訪日情報はイベント欄には載って無いんですよね・・・
他所で、防護巡洋艦「和泉(いずみ)」は元チリ海軍のエスメラルダ、
今回日本に来たのも何かの縁でしょう、という記述が有りました。
海外艦艇の入港情報や、海外での共同訓練の実施は
「ニュース・活動内容」のページで公開されています。
<http://www.mod.go.jp/msdf/formal/info/index.html>
最新の発表では、明日から韓国艦2隻が晴海に入港する模様です。
まだ発表はありませんが、一般公開がなされるかもしれませんね。
また来て欲しい。
いつも 楽しく見させて貰っています、海自情報案内ありがとうございます。
常々思うのですが、防衛省や自衛隊は情報の発信が下手過ぎますね、
探して、こまめにチェックしなければ成らない上に、肝心の情報も不足。
「公開してやるから、来たい奴は来い」というスタンスにしか見えません。
>公開してやるから、来たい奴は来い」というスタンスにしか見えません。
そりゃそうでしょ
自衛隊は装備の一般公開が仕事じゃないんですから
むしろ公開して貰えるだけありがたいと思うぐらいじゃないと
最近はTwitterやら地本HPやらのお陰で大分一般公開の情報が入りやすくなったと思うけどね
「当事者なら嫌だろうな」と自分でも思います(笑)
防衛省の組織全体が「公開してやるから、来たい奴は来い」
のスタンスなら納得と諦めもあるのですが、
広報側は「国民に自衛隊の事をもっと知って貰いたい」とか思っているようで、
ぼやいたのは齟齬の部分です。
HPやパンフレット等も別の艦艇なら未だ分かりますが、
同じ基地内の隣の部隊で全くフォームが違い
「イチから作成している時間の無駄」や発信の仕方が下手の部分も含んでいます。
コメントする