第75回 イベントレポート 掃海艦つしま(の除籍前最終公開)
写真・文:nona
東京の晴海埠頭で公開された掃海艦「つしま」を見学して参りました。同艦は基準排水量1000tを誇る大型木造船ですが、木造船の宿命から逃れることはできず、艦齢23年目にして退役を迎えることになりました。
今回見学した艦艇は掃海艦「つしま」。「やえやま型掃海艦」の2番艦として、1993年に就役した木造の掃海艦です。全長は67m、基準排水量は1000t。海上自衛隊では2010年までに木造掃海艦艇を110隻も就役させていますが[1]、1000t超えは「やえやま型」の3隻のみ。かなり特異な艦艇です。
なぜ「やえやま型」の排水量が1000tを超えたかについて「つしま」のパンフレットでは外洋に敷設される深深度機雷に対抗するため、としています。
実際に「やえやま型」の設計がされた1980年代には、上昇機雷、誘導機雷、魚雷格納機雷など沖合いの広く深い範囲に敷設しても効果を発揮できる、高性能機雷が普及していた、という背景があります。そのためアメリカ海軍でも1000t超のアヴェンジャー級掃海艦が建造されていたのです。
ちなみに「つしま」の属する「やえやま型」の艦名は、日本の「比較的大きな島名」に由来します。一番艦から「やえやま(八重山列島)」「つしま(対馬列島)」「はちじょう(八丈島)」と日本各地の島名が採用されました。ただし、「やえやま型」は全艦が横須賀基地の第51掃海隊に集中配備されています。日本の最重要海路である東京湾口の掃海が第一の任務ということかもしれません。
ただ掃海艦艇としては比較的大きい方ですから、写真のような硫黄島などの離島や、外国海軍との共同訓練のため、比較的頻繁に遠方へ出張するようです。
「つしま」の舷側。海上自衛隊の掃海艦艇は2000年代まで木材で建造されています。これは機雷の磁気センサーを反応させないための対策です。
「つしま」の甲板。木造船なので、木と木のつなぎ目が浮き上がっています。他艇の乗員のお話では、隙間からしみ出す海水や雨漏りなど、船体の維持は鋼艦よりもはるかに大変で艦の寿命は20年+程度しかありません。[1]
解説ボードによると、掃海艦の材料はアメリカから輸入された松材を使用しているそうです。樹齢2~300年の木々を、寿命20年強の掃海艦で使い潰すとは、少々もったいない気もしますね。
こちらは艦尾の89式(S-8)、85式(S-6)曳航掃海具。
89式掃海具はワイヤーで繋がった切断器を一定深度に固定し、係維機雷の索を切って海中の機雷を浮揚させる掃海具です。
これはS-7・2型処分具。顔に見えるところが不気味。
S-7・2型処分具は遠隔操作で機雷に接近し、カッターで係維機雷の索を切って浮上させる、あるいは処分用爆雷で沈底機雷を誘爆させることができます。いわゆる「機雷掃討」の装備です。
「グランド・ターゲット(通称グラタン)」。火薬の装填されていない訓練用機雷です。美味しそうな名前ですが食べられません。
艦首の20mm機関砲JM61-M。自衛火器ですが、索を切られて浮き上がった機雷を破壊処分する装備でもあります。
防盾の厚さは約2cm。
「初速1830m/s」...! さすがに早過ぎるので誤植かもしれませんね。弾薬設計元のジェネラル・ダイナミクスの資料ではM50シリーズ弾で約900m/秒、Mk149APDS弾で1100m/秒くらいが実際値のようです。[2]
また「発射速度460発/分」の値は、弾薬節約のためあえて連射速度を抑えているようですが、連射性能が売りのバルカンの個性を殺すというのも不思議な感じが。
艦橋。
艦橋内から。木材と真鍮の組み合わせがなんとなくレトロ。
操縦用コンソール。艦橋には他の護衛艦と同様に、戦闘用の装備や、掃海具の装置はほとんど置かれてはいません。
艦内応急監視表示板。火災報知機の警報を知らせます。木造船なので火の手が回るのはあっという間でしょうけど。
パンフレットにも艦内見取り図とは若干異なるようです。
つしまのイラスト。
艦橋外にはぼろぼろの室外機が設置されていました。海自艦でも艦橋にクーラーがある艦、ない艦といろいろあるようです。
脱出口。パンフレットを照会すると、壁の向こうは戦闘指揮所か通信室のようです。護衛艦ではあまり見られませんね。(見えないところに設けられているのかもしれませんが)
見学を終えて振り返ると、信号旗が「SAYONARA」に変わっていました。
この「つしま」と同型艦の「やえやま」は艦齢23年にして除籍が決定され、一般公開もおそらく今回が最後とのこと。後継としては「あわじ型掃海艦」が予定されています。[3]
出港準備中の「つしま」
離岸
最後は「帽ふれ」でお別れです。
「やえやま」と「つしま」そして近年退役予定の「はちじょう」の代替艦は、FRP(強化繊維プラスチック)船体の「あわじ型」掃海艦となる予定です。FRP船体は木造船体と同様に磁気をほとんど帯びず、さらに軽量で長寿命という、魔法のような素材。幾つかの欠点もありますが、それらも次第にクリアしつつあります。
しかしながら、長年受け継がれてきた木造船の建造技術は途絶えることになり、それを惜しむ声も少なくありません。[1]
一方で研究者の方々では以下のような予測を立てているようです。「木造技術は船体FRP化の後も心材や型の製作技術として生かされている。また、船大工とも呼ばれる伝統技術は、木工だけでなく、道工具の扱い方から製品の品質評価のセンスに至るまで、モノ造りの精神としての根幹をなすものであり、今後も引き継がれていくであろう。」[4]
木造船を作ることがなくなっても、技術、伝統、精神は次世代に生かされていくわけです。今後に期待ですね。
http://www.mod.go.jp/msdf/yokosuka/news/27/img/29/08.jpg
進水直後の掃海艦あわじ。FRP船体を採用したことにより、排水量は300tも軽量化され、設計寿命も30年に延長された。
おまけ
艦橋のホワイトボードに描かれた「つしま」のイラストの下に<航洋艦「晴風」助けに行きたい。>と書かれていました。
どういうことかというと、テレビアニメ「ハイスクール・フリート」の5月15日の放送回が「機雷でピンチ!」という題目だったのです。[5]本職の方も観ていたんですね。
http://www.hai-furi.com/assets/img/story/06_story/img_scene05.jpg
ハイスクール・フリート第6話より
出典
[1]防衛省2010年度防衛白書 第III部 わが国の防衛に関する諸施策 (Q&A)最後の木造掃海艇の就役
[2]General Dynamics 20MMMK149 APDS弾に関するPDF資料
[3]海上自衛隊横須賀地方隊 25MSO命名・進水式(H27.10.27)
[4]防衛基盤整備協会 米田尚弘 大倉雄一 松尾和彦 FRP大型船舶:FRPサンドイッチ製掃海艇の建造技術の確立
[5]テレビアニメ「ハイスクール・フリート」ストーリー#6
参考
海上自衛隊:ギャラリー:掃海艦(艦艇):やえやま型 (MSO"YAEYAMA"Class)
テレビアニメ「ハイスクール・フリート」海上自衛隊、掃海訓練レポート!
掃海艦つしまパンフレット
コメント
木造船に使う木ってやはり条件が色々あるんですねぇ。
あと取ってつけたような室外機はワロタwせめて塗装くらい合わせてあげてww
そういや昔一度だけ近所で機雷処理があった。
戦後うん十年経っても未だに港湾付近にあったのかと思うと驚くけど、逆に言えば良く見つけてくれたなと。
近所は一時期コンテナ船が世界で一番行き交う場所だったもんで、もしその時何らかの形でコンテナ船が触雷してたらと思うとゾッとする。
海洋国家にとって掃海は今も昔も大事な要素だわホント。
>第75回 連載「フォークランド紛争小咄」パート29(最終回)
>イベントレポート 掃海艦つしま(の除籍前最終公開)
になっていますよ
ご指摘ありがとうございました。
修正いたしました。
6月には第1輸送隊が編入されるしこれから掃海隊群はかなり改編が進むだろうね
木造船舶からFRP船体への移行は技術の進歩というよりも主に技術者の高齢化の問題だとかって悲しい話をどこかで聞いた気がする。
まぁ今の時代大型木造船なんて滅多に作らんわな、紀元前から培ってきた技術が廃れていくってのは、考えてみれば悲しい話だ
技術の継承の問題もあるけど、やはり材質が材質で艇が長持ちしないので、結局そこがネックになってしまった模様(逆に言えば艇が長持ちしないからこそ、ここまで技術の継承が可能だったとも)
最後まで木造掃海艇を作ってたのは日本だけど、海外ではだいぶ前からアルミやFRPになってたり
あとよくわからないのが消磁化した鋼材で作ってあるやつで、これってやっぱり磁化しないように、定期的に陸に揚げて消磁機にかける必要があるんだろうな
DEXの掃海機能は補助的なもんやから敵前上陸の際の掃海とか危険度高い任務向けで本格的なのは掃海母艦の仕事になるっぽいね
後DEXが掃海隊所属になるのは掃海隊独自で動かせる戦闘艦が欲しいから……という話もあるらしい
スペース有るのに自衛用の主砲さえ配備されない現状見るとそう言う声が出るのも当然なのかも?
「やえやま」型三番艦の「はちじょう(94年就役)」が
6月1~2日に開催される「横浜開港祭2016」で公開されるようです。
http://www.kaikosai.com/attraction/yaeyama.html
平日公開なのがネックですが
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