第54回 連載「フォークランド紛争小咄」パート21
大隊長、誤算続きの地峡戦 中編
文:nona
ついに第二空挺大隊が前進を開始。フリゲート艦のアローから照明弾、地上からは105mm榴弾砲による支援をうけ、兵士達の準備も万全。大隊長は作戦通りに上手くいくと思えたものの…
https://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Goose_Green
作戦開始時の各中隊の位置。
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砲撃支援のもと慎重に前進したA中隊。ところがアルゼンチン軍は砲撃の初期に撤退済みで、結果的に時間を無駄にしただけでした。[1-1]
A中隊の反対の西岸・バーントサイドヒルではB中隊が向かっていました。ところが途中でアローの艦砲が故障、同艦からの照明弾が途切れてしまいます。途中で復旧したものの、すぐにまた故障が再発。地上の105mm榴弾砲も、輸送力不足のために照明弾を装備していませんでした。[1-1] [2-1]
http://www.clydesite.co.uk/clydebuilt/viewship.asp?id=1612
21型フリゲート・アロー。空襲の危険から夜間のみ艦砲射撃が実施できた。
辺りは真っ暗のままでしたが、B 中隊の前線観測将校のアッシュ大尉は、座標参照点に基づき弾着の音と閃光で弾着点の修正を指示。着弾点を2~400m伸長させて、B中隊員も4人一組になって暗闇のバーントサイドヒルへ前進します。[1-1]
バーントサイドヒルには2個小隊ほどのアルゼンチン軍が塹壕に篭っていたものの、戦意を持ち合わせておらず、反撃もほとんどありませんでした。各員はM72ロケットランチャー、M79グレネードランチャー、あるいは手榴弾を手に、その射程(最短で15メートル)まで近づいて、塹壕をひとつづつ掃討し、同地を制圧しました。中には寝袋にくるまったまま殺された兵士もありました。[1-1][3-1]
http://www.taringa.net/posts/info/14633622/Algunas-armas-utilizadas-en-la-guerra-de-Malvinas-por-ambos.html
M79 40mmグレネードランチャー。写真は海兵隊のもの。
続けて三番手のD中隊はA・B中隊の間を通り、コロネーション尾根までの前進を開始。ところがD中隊は自己の位置を一時的に喪失。大隊長はアルゼンチン軍が残した踏み跡をたどり、その先に銃撃せよ、という無茶な指示を出しています。[1-1]
この後D中隊は位置を把握し、前進を再開。コロネーション尾根のアルゼンチン軍も小銃、機関銃、迫撃砲による本格的な反撃を開始。中隊は一つの陣地に気付かずに前進し、ここからの攻撃で2名が死亡し、2名が負傷。第二空挺大隊の初めての死者でした。[1-1][2-1]
そこでD中隊は小銃に着剣し、匍匐前進で敵陣に接近、手榴弾を投げ込んで制圧しています。生き残ったアルゼンチン軍は後退したものの、D中隊側も散り散りになっており、集合に時間を費やすことになります。同時にアルゼンチン側へ再編成の時間を与えてしまいました。[1-1] [2-1]
このとき第二空挺大隊のA中隊は計画通に従い、予備部隊として待機中でした。作戦が次のフェイズへ進まず足止めされていたのです。この後にA中隊は80分遅れで予定地のコロネーション岬まで前進したものの、同地にはアルゼンチン軍がおらず、時間を無駄に消費したうえ、再び待機を強いられます。[1-1]
中隊長のホックレー少佐はジョーンズ大隊長に前進の許可を求めたものの、大隊長は、A中隊の所在を自分の目で確かめたいので待機せよ、と返答。大隊長は、A中隊があっさりコロネーション崎を制圧したので、周囲にアルゼンチン軍が逃げたふりをして周囲に潜んでいるのでは、と考えていたようです。実際にはコロネーション崎には最初から兵士は置かれていませんでした。[1-1]
大隊長はA中隊の元に向かいますが、自身の心配は杞憂であったと認め、改めて前進を命じています。[1-1]
A中隊は要所であるダーウィンヒルの手前まで前進。ここからは2つの小隊が先行して前進し、後方に援護の1個小隊とジョーンズ大隊長らの第1戦術司令部(大隊本部)が付きました。[1-1] [2-1]
前衛の小隊はくさび隊形を組み、その両翼には機関銃手を配置しました。彼らは敵のいないダーウィンヒルに登り、そのまま丘伝いにダーウィンの岬の集落を目指しました。同地には16以上の塹壕といくつかのテントが存在するという偵察情報もありましたが、危険を見込んだ上で前進が行われています。[1-1] [2-1]
するとハリエニシダの生い茂る小渓谷の手間で、3名の人影に遭遇。無害な民間人とも思えました。[1-1]
http://silvertree.blog.com/?paged=3
ハリエニシダ。
しかし先遣隊が英語で誰何すると、相手はスペイン語で返答。彼らは前衛部隊が後退して来たと、勘違いしていたアルゼンチン兵だったのです。[1-1]
両軍は同時に誤解に気付き、6時45分に銃撃戦が開始。幸運なことにA中隊に負傷者はほとんどなく小峡谷に逃げ込んでいます。しかしダーウィンのアルゼンチン軍が抵抗を始めたため、A中隊と、ジョーンズ大隊長の第1戦術司令部は分断されました。[1-1]
A中隊は状況を打開するため、砲撃支援を要請。しかし、夜明け前にフリゲート艦は撤収済み、105mm榴弾砲も順番待ちの必要がありました。ようやく順番が回ったときには突風のために、砲弾が全く当たらなかったそうです。[1-1]
さらに航空支援を要請したものの、ハーミーズ周辺の濃霧のためにハリアーの出撃はキャンセル。A中隊の前進は行き詰まりましたが、アルゼンチン側からの逆襲もないために、食事や負傷者の手当に時間を割いています。[1-1] [2-1]
なおA中隊と同じく、西側のB中隊も前進がストップ。ボカハウス周辺のアルゼンチン軍は小銃、機関銃、榴弾砲、迫撃砲、狙撃銃で抵抗し、夜明けになってその精度を増していました。特にM2重機関銃の危険から、B中隊は夜明けから4~5 時間も動けずにいました。[1-1]
http://www.taringa.net/posts/info/14633622/Algunas-armas-utilizadas-en-la-guerra-de-Malvinas-por-ambos.html
アルゼンチン軍のM2重機関銃
待機部隊のD中隊はアルゼンチン軍の側面を突くべきと、ジョーンズ大隊長に前進を訴えたものの、「そこで停止していろ」と返されています。[1-1]
やむなく待機を続けたD中隊でしたが、アルゼンチン軍の砲兵観測陣地から隠れるために、やむなく前方の丘の影に避難。それが命令を破って前進しているように見えたのか、「再度戦闘には加わるな」と大隊長に釘を刺されています。[1-1]
D中隊長は事情を釈明するものの「無線を混信させるな。おれは今まさに戦いをやっているところだ」「おれに向かって口出しするな。」と激怒。[1-1]
別の予備部隊であるC中隊、ミラン対戦車ミサイル分遣隊も「おれがこの戦闘を片づけるまで、誰一人前進することはまかりならん」と大隊長による制止をうけていました。[1-1]
ジョーンズ大隊長は作戦が計画通りにならない苛立ちから、柔軟な対応ができなくなっていました。[1-1]
https://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Goose_Green
夜明けごろの各中隊の位置。
出典
[1-1]フォークランド戦争史 P270~P276
[2-1]The Falkland Islands Campaignより 27/28 May 1982 Goose Green - The first major land victory
[3-1]フォークランド戦争 P199~202
参考
狂ったシナリオ―フォークランド紛争の内幕 (朝日新聞外報部ISBN 9784022550200 1982年8月20日)
空戦フォークランド ハリアー英国を救う (Aプライス&Jエセル ISBN 4-562-01462-8 1984年5月10日)
SASセキュリティ・ハンドブック (アンドルー・ケイン&ネイル・ハンソン ISBN 4562036664 2003年7月10日)
サッチャー回顧録 ダウニング街の人々上巻 (マーガレット・サッチャー ISBN4-532-16116-9 1993年12月6日)
兵器ハンドブック湾岸戦争・フォークランドマルビナス紛争 (三野正洋、深川孝之、二川正貴 ISBN 4-257-01060-6 1998年6月20日)
世界の特殊部隊作戦史1970‐2011(ナイジェル カウソーンISBN978-4-562-04877-9 2012年12月16日)
フォークランド戦争 鉄の女の誤算 (サンデー・タイムズ特報部 ISBN-562-01374-5 1983年10月20日)フォークランド戦争史 (防衛省防衛研究所 2015年9月8日取得)
The Falkland Islands Campaign (イギリス空軍公式サイト内 2015年12月10日取得)
フォークランド紛争(日本語版wikipedia 2015年12月20日取得)
thinkdefence.co.ukよりタグfalkland
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コメント
戦国武将が戦の勉強になるからと将棋を奨励したけども、実戦では敵の運動も陣形も偵察しなければわからないし、予備隊の戦力も位置もわからない。「持駒は?」なんて相手に確かめるわけにもいかない。
将棋が戦の勉強になるわけがないね。
アサッテのコメントで失礼しました。
こういう人間臭い話を知るとやはり戦争ってのは人間同士の戦いだなぁと思うわ。
ってか英語で話しかけられてスペイン語で返答っておまwwww
何言ってるのか分からず聞き返したとかか?w
気象条件は真冬の東北日本海沿岸部よりもさらに悪い、こんなところでヘリを飛ばしたり爆撃したりしてたのか・・・
105mm榴弾砲3門に弾薬960発だから1門あたり320発。
6発/分で連射すれば1時間もせずに撃ち尽くしちゃうから、無駄弾を持って行くのははばかれる・・・
ちょっと攻撃作戦を行うにはイギリスさん重火力が不足してるんじゃありませんかね?
勘違いしちゃったアルゼンチン兵や大隊長さんは・・・
まぁ、夜戦なんて混乱がつき物だから、同士討ちしなかっただけうまくやっている方だと思うよ(汗
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