第25回 連載「フォークランド紛争小咄」パート8
フォークランド紛争の参加兵力、イギリス編
文:nona
http://www.defensemedianetwork.com/stories/falklands-war-l-photos/
フォークランドを行軍する英軍兵士の有名な写真。ユニオンジャックに括りつけているのは無線機のアンテナロッド。
今回はイギリス側が投入した兵力の内訳です。
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■陸上戦力■
防衛省防衛研究所 フォークランド戦争 第2部 第7章 統合作戦の観点から見たフォークランド戦争P105 (PDF版P5)より
イギリス地上軍はアルゼンチン軍よりも特殊部隊の動員数が多く、新型の高性能な装備も持ち込んだものの、その主力が歩兵であることは同様です。フォークランドの泥炭地では、車両が役に立たないと判断されたためです。
代わりに持ち込んだのが100機以上の輸送ヘリコプター。地形に影響を受けることなく起動できるため、車両のように海岸を確保して陸揚げする手間もありません。とはいってもへリコプターだけで1万人近い兵士の全てを同時に輸送することは不可能でしたから、基本的に行軍は徒歩でした。
・陸軍および海兵隊員 8000名
・SAS、SBSなど特殊部隊 1000名
・L118 105mm榴弾砲 30門
・レイピア地対空ミサイル発射機 12基
・FV101スコーピオンおよびFV107シミター軽戦車8両
・Bv206装軌トレーラー
・ミラン対戦車ミサイル、
・ブローパイプ地対空ミサイル(スティンガーミサイルも限定的に使用?)
・81mm軽迫撃砲
・ブローニングM2機関銃
小火器など
■海上戦力■
http://grandlogistics.blogspot.jp/2011/01/sea-harriers-and-harriers-in-falklands.html
1982年4月6日にポーツマスから出港する空母インヴィンシブル。
英国海軍の艦艇は、開戦直前の4月1日に原子力潜水艦が極秘に出港を皮切りに、4月7日までに約半数の艦艇が出港。最終的に当時の保有艦の2/3が動員されました。
・航空母艦ハーミーズ 28,700トン
大戦中に起工され、1959年に就役した旧式の空母です。フォークランド紛争ではハリアー空母として運用されました。現在もインド海軍が使用中です。
・航空母艦インヴィンシブル22,000トン
ハリアー空母として建造された当時最新式の軽空母です。
・フィアレス級揚陸艦 12,120トン 2隻
・82型駆逐艦ブリストル 7,700トン
・カウンティ級駆逐艦 6,200トン 2隻
・22型フリゲート(ブロードソード級) 4,400トン 2隻
・42型駆逐艦(シェフィールド級)4,350トン 5隻
・21型フリゲート(アマゾン級)3,360トン 7隻
・12I型フリゲート(リアンダー級)2,860 ~3,000 tトン 4隻
・12M型フリゲート(ロスシー級)2,800 トン 2隻
・ヴァリアント級原子力潜水艦4,900トン 1隻
・チャーチル級級原子力潜水艦4,900トン 2隻
・スィフチュア級級原子力潜水艦4,900トン 2隻
・オベロン級通常動力潜水艦2,410 トン 1隻
■補助艦艇■
https://en.wikipedia.org/wiki/File:RFA_Sir_Tristram_%26_MV_Dan_Lifter_late_1982.JPG
紛争後に重量物運搬船で運ばれるラウンドテーブル型支援揚陸艦のサー・トリストラム。
補助艦艇のうち、給油艦と輸送艦は所属がイギリス海軍補助艦隊に所属しています。商船構造を採用しており、乗組員は軍民混在でした。平時に低コストで保有するための策ではありますが、フォークランドでは危険な作戦に投入され、ラウンドテーブル型の場合で2隻が損傷、1隻大破、1隻撃沈しています。
・オル型給油艦 33,240トン 2隻
・タイド型給油艦 25,930トン 2隻
・リーフ型給油艦18000~40000トン(艦ごとに仕様が異なる)2隻
・物資支援艦ストロムネス16,680トン
・リソース級給兵艦 22,890トン 2隻
・フォート型級給糧艦22,749トン 2隻
・ヘリコプター支援艦エンガディーン9,000トン
・ラウンドテーブル型支援揚陸艦5,674トン 6隻
・氷海警備船エンデュアランス 3,600トン
・掃海艇(艦級不明)1,238~1,615トン 5隻
・測量船(実際には病院船として使用)3隻
・沖合哨戒艇 1,450トン)2隻
・曳船 1隻
・係留船 1隻
■徴用船(STUFT)■
http://hulltrawler.net/History/falklands/facts.html
5隻のトロール漁船が掃海艇として徴用され、アルゼンチン軍の降伏後にスタンレー湾で掃海活動に従事した。軍人が乗り組み、掃海具も装備されていたものの、船体が消磁されていたかは不明。
民間船の徴用は1982年4月4日の緊急勅令により実施されました。この令によってイギリス船籍の船であれば、実際の所在地や所有者の国籍にかかわらず徴用が可能でした。ただし、突然徴用される訳ではなく、平時から民間船の調査が実施されており、さらに軍事転用できるよう設計された民間船もありました。
経費や損失時の補償はイギリス政府が負担したものの、安全が保証されていた訳ではなく、最前線まで赴き戦没した船もあります。また徴用された5隻の掃海艇は単なる民間のトロール漁船でした。1980年代にもなって漁船を掃海に投入するなど、日本では考えられないことですが、実際にスタンレー湾で掃海任務にあたり、生還しています。
・病院船1隻
・掃海艇支援船1隻
・係留船1隻
・飲料水タンカー1隻
・工作船2隻、
・海難救助曳船3隻
・支援給油船12隻
・基地貯蔵タンカー2隻
・貨物船5隻
・航空機輸送船4隻
・通報艦2隻
・人員車両輸送船9隻
・機雷掃海艇5隻
■イギリス軍の航空兵力(固定翼機)■
https://dougiebrimson.wordpress.com/2012/04/02/falklands/
アセンション島に集結した英空軍機。
・シーハリアーFRS.1戦闘機28機
フォークランド紛争では海軍の戦闘機型FRS.1と、空軍の攻撃機型のGR.3の両方が使用されました。シーハリアーはFRS.1は空軍型のハリアーよりも高機能で、最新のAIM-9L対空ミサイルの運用も可能でした。それでもアルゼンチン軍のミラージュⅢなど、超音速で中距離対空ミサイルを装備する戦闘機を相手に、どこまで戦えるか未知数でした。
・ハリアーGR.3攻撃機10機
空軍のハリアーGR.3は紛争当初は艦上から、後には地上臨時滑走路から運用されました。艦上では慣性航法装置がセットできず(慣性航法装置は内部のジャイロを安定回転させるまで、数分以上静止する必要がある)、対策として外部から位置データを供給する装置を開発したものの、結局動作しませんでした。対空兵装も1世代前のAIM-9G。ただしレーザー誘導爆弾の運用能力が与えられています。
・バルカン爆撃機 4機(1機は実戦に参加せず)
フォークランド紛争時には新型の慣性航法装置とECM装置が付加され、さらに2機に対レーダーミサイルの運用能力が与えられました。
・ヴィクターK.2空中給油機 22機
バルカン爆撃機やハーキュリーズの長距離飛行に使用された空中給油機です。2機のバルカン爆撃機をフォークランドへ飛ばすために、14機ものヴィクターが動員されました。
・ニムロッドMR.1哨戒機/MR.2電子信号偵察機 12機
一部の機体にはAGM-9Gが装備され、アルゼンチンのボーイング707による偵察飛行に対抗しました。
・VC-10 C.1輸送機 13機
・ハーキュリーズC.1/C.3輸送機 54機保有(参戦機数不明)
6機に受給油プローブが追加され、貨物室に燃料タンクが増設された機体もありました。なおヴィクターとハーキュリーズでは飛行速度の差が大きいため、水平飛行では給油ができなかったようです。対策として両機は毎分500フィートで降下、増速しながら給油措置がとられました。
■イギリス軍の航空戦力(回転翼機)■
http://georgy-konstantinovich-zhukov.tumblr.com/post/44260197917/a-gazelle-helicopter-being-used-for-casualty
・チヌークHC.1大型輸送ヘリコプター 1機(3機が輸送中に破壊)
・シーキングHAS.2/HAS.2A中型対潜ヘリコプター 15機、
・シーキングHAS.5中型対潜ヘリコプター 20機、
・シーキングHC.4中型輸送ヘリコプター 14機、
・型式不明の空軍型シーキングヘリコプター 1機
・ウェセックスHU.5輸送ヘリコプター 45機
・ウェセックスHAS.3対潜ヘリコプター 2機(2機が輸送中に破壊)
・リンクスHAS.2中型哨戒ヘリコプター 34機
・ワスプーHAS.1小型対潜ヘリコプター 8機
・スカウトAH.1小型武装ヘリコプター 12機
・ガゼルAH.1小型武装ヘリコプター 15機
次回は1982年4月中の南大西洋を進むのイギリス任務部隊と、その動向を探るアルゼンチン軍、さらにソビエトの影を解説いたします。途中イベントレポートも挟む予定のため、本連載の完結は当面先になりそうです。
出典
防衛省防衛研究所 フォークランド戦争 第2部 第6章 イギリス軍およびアルゼンチン軍P83~100(PDF版P16~33)
Aプライス&Jエセル著、江畑謙介訳 空戦フォークランド ハリアー英国を救う ISBN 4-562-01462-8 1984年5月10日 P271~278
堀元美 著 海戦フォークランド―現代の海洋戦 ISBN 978-4562014262 1983年12月1日
*実際の参戦機数は資料によって異なります。あくまで目安とお考えください。
参考
日本語版wikipedia フォークランド紛争
防衛省防衛研究所 フォークランド戦争史 (2015年9月8日ダウンロード済み)
アメリカ海軍 Lessons of the Falklands Accession Number : ADA133333
RAF(イギリス空軍) The Falkland Islands Campaign
朝日新聞外報部著 狂ったシナリオ―フォークランド紛争の内幕 ISBN 9784022550200 1982年8月20日
Aプライス&Jエセル著、江畑謙介訳 空戦フォークランド ハリアー英国を救う ISBN 4-562-01462-8 1984年5月10日
堀元美 著 海戦フォークランド―現代の海洋戦 ISBN 978-4562014262 1983年12月1日
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コメント
イギリス軍は航空戦力も補助艦艇の数も多いですねえ
しかしアルゼンチン潜水艦をイギリス軍が予想以上に脅威と見ていたことを考えると潜水艦って本当に有用なんですね
海自が対潜に力を入れるのは大戦の戦訓だけでなくフォークランドのことも見ているからなんでしょうね
いや他所様の軍備にはあまり詳しくないもんで・・・だからこそこういう話が有り難いんですよね。
次回はいつでしょうか?楽しみにしています。
結果シェフィールドは沈没。他にも爆弾を落とされた
紛争後にインビンシブル級の防空能力を強化したり、シーキングAEW2を配備しました
1様
実際に居ようが居まいが、必死で対潜活動しなければならないのが辛い所ですね。
名無しのミリヲタ(39年もの)様、
おお、ファントムを忘れておりました!
ファントムFGR.2は3機がアセンション島に配備され、
紛争終結後はアルゼンチンの再逆襲を警戒してフォークランドのスタンレー、
後にマウントプレザント配備となっています。
実戦参加がなかったのは残念ですね。
もっと勉強してまいります。
3様
実は英防衛省が1976年に防衛計画を制作していました。
ただ「アルゼンチンの侵攻に際し、奪回作戦を実行するしか手立てがない」と結論づけており、
1982年の外交の行き詰まりと情報収集の不測もあって、事実その通りになってしましました。
4様
フォークランド紛争後から両軍では比較的正確な情報公開が進んだこともあり、
各国参考にしやすい面があったと思います。
5様
現在は4記事がすでに製作済みです。
来月も時間を見つけてがんばって執筆致します!
6様
対空戦では常人では予想できない事態の連続でした。
ハンドルネームを忘れていました。
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