第24回 連載「フォークランド紛争小咄」パート7
フォークランド紛争の参加兵力、アルゼンチン編

文:nona

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http://www.fireandfury.com/orbats/falklands_argentina.pdf

 今回と次回にかけて、アルゼンチン軍とイギリス軍の投入戦力を紹介いたします。なお、実際の参戦機数は資料によって異なります。絶対数ではなく、あくまで目安とお考えください。

フォークランド紛争 山崎雅弘 戦史ノート
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■アルゼンチン軍の陸上兵力■

 アルゼンチン軍はフォークランド大部分を占める泥炭地が車両の運用に大きな影響を与えることを考慮して、さほど車両を持ち込んでいません。上陸作戦で使用したLVTP7(AAV-7)も引き揚げさせています。また燃料の不足もあってヘリコプターの運用数にも限りがありました。このため広大なフォークランド諸島を機動防御することは諦め、島都スタンレーに籠る固定防御に徹したようです。

・総員13000名(陸軍3個旅団、陸軍工兵隊2個中隊、海兵隊1個海兵大隊、海兵隊1個中隊、他)

[歩兵部隊の主な装備]
・FN-FAL 7.62mm自動小銃
・PAM短機関銃(M3短機関銃の9mm弾仕様)
・FN MAG7.62mm機関銃
・FNブローニングM2 27門以上
・81/120mm口径の迫撃砲
・75mm/90mm/105mm無反動砲
・SS11/SS12/マトーゴ対戦車ミサイル(全てリモコン誘導の第一世代の対戦車ミサイル)
RASIT対人レーダーや暗視装置など

・パナール AML-90装甲車 20両
・軽車両 複数
・オートメララ105mm榴弾砲42門(陸軍と海兵隊の保有砲の合計)
・CITER L33 155mm 榴弾砲4門
・地上発射用エクゾセ 2発
・ローランド地対空ミサイル発射器 1基
・タイガーキャット地対空ミサイル発射器 6基
・ブローパイプ携帯式地対空ミサイル
・SA-7携帯式地対空ミサイル(ウルグアイからの供与)
・エリコン連装35mm対空砲12門
・30mm機関砲12門
・ラインメタル20mm対空砲3門
・AN/TPS-43 1基(広域警戒および管制用の3次元レーダー)
・AN/TPS-44 1基(対空火器のための戦術警戒レーダー)
・CH-47C大型輸送ヘリコプター  2機
・SA330L輸送ヘリコプター 7機
・UH-1H輸送ヘリコプター  9機
・A-109A輸送ヘリコプター  3機


■アルゼンチン軍の海上兵力■

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http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/southamerica/falklandislands/9883042/UK-considered-allowing-Argentina-Falklands-naval-base-two-weeks-before-war.html

 アルゼンチン艦隊が大きく動いたのは4月初頭のフォークランド上陸作戦と、4月30日から5月2日にかけてのイギリス艦隊迎撃作戦の2回のみ。以降は巡洋艦ヘネラル・ベルグラーノの撃沈、空母ベンチシンコ・デ・マヨの機関不調もあってフォークランド海域に現れることはありませんでした。

 潜水艦もわずかに2隻が活動したのみで、5月中旬には活動を停止しています。しかし事情を知らないイギリス海軍は停戦まで対潜哨戒を継続。存在しない潜水艦に振り回されたようです。

・航空母艦ベンチシンコ・デ・マヨ 19,896トン
 大戦中に就役した英コロッサス級空母を改修したアルゼンチンの主力艦。固定翼機18機、回転翼機7機が搭載できるものの、当時は速力が20ノット以下に低下していたとされ、固定翼機の発着に必要な合成風力が確保できるかは運次第でした。

・巡洋艦ヘネラル・ベルグラーノ 13,645トン
 1939年に就役した米ブルックリン級軽巡洋艦をアルゼンチンが再就役させたもの。6インチ砲15門、シーキャット艦対空ミサイル、ヘリコプター2機を備え、38~203mmの装甲もなされていました。

・42型駆逐 4,100 トン 2隻
・ギアリング級駆逐艦 3,500トン 1隻
・アレン・M・サムナー級駆逐艦 3,320 t 3隻     
・A69級フリゲート 1,170トン 3隻
・ガピー級潜水艦 2隻(実働1隻)
・209型潜水艦 2隻保有(実働1隻)
この他輸送艦や哨戒艇など。


■アルゼンチン軍の航空戦力■

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https://www.pinterest.com/pin/548876273311319838/

 アルゼンチン軍は数百の航空機を保有していたものの、航続距離の制約と空中給油機の少なさから同時に投入できる航空機の数が限られていたようです。またフォークランドではジェット機用の長い滑走路と十分燃料がありません。このため同地には短距離離陸が可能で燃費の良い小型機が配備されたのみでした。

・ミラージュIIIEA/ IIIDA戦闘機 17機保有
 中距離地対空ミサイルの運用が可能なマッハ2級の戦闘機。ハリアー戦闘機にとっては大きな脅威でした。しかし空中給油装置は装備されず、スタンレー上空に留まることができるのはたった15分。英軍はこの隙を突くことができました。

・ダガー戦闘攻撃機 39機保有
 ミラージュIIIからレーダー、ECM、ESM、INSを取り除き、信頼性の向上と攻撃兵器の搭載にふりむけた機体。元はミラージュⅤと呼ばれていたが、イスラエルがコピーした際に「ダガー」という名前になりました。

・A-4B/C攻撃機 約60機保有、40機参戦
 空軍が保有するA-4攻撃機。C型はハードポイントの増設と航法装置を強化された改良型ですが、紛争前の部品禁輸のため機能に制約がありました。不慣れな対艦攻撃に使用されたため、参戦機の半数に近い19機を失っています。

・A-4Q艦上攻撃機 16機保有
 海軍が保有するA-4攻撃機。相互に空中給油を行うバディ・システムもあったものの、実際に運用されたかは不明。海軍の搭乗員は対艦攻撃に熟知していたようで、損失も3機のみでした。

・シュペルエタンダール 5機保有
 エグゾセを唯一装備できる新型の攻撃機で、紛争では大きな戦果を挙げています。本来であれば14機の機体と、15発のエグゾセ対艦が一緒に調達される予定でした。

・IA-58プカラ攻撃機 26機
 アルゼンチンが開発した軽攻撃機。スタンレー飛行場、グースグリーンやペブル島の臨時滑走路にも分散配置されています。歩兵にとっては厄介な存在のため、ほとんどが離陸前に撃破されました。

・MB-339A練習軽攻撃機 6機
 当時まだ試験飛行中だった新型の中等練習機。全てスタンレー飛行場に配備されたものの、地上で多数が破壊されました。

・T-34Cメンター練習軽攻撃機 4機
 武装を施した初等練習機。フォークランドのグースグリーンやペブル島の臨時滑走路に配備されました。ほとんどが地上で撃破されています。

・キャンベラ爆撃機 10機
 何度か攻撃任務についたものの、容易に迎撃を受けハリアーやシーダートミサイルで撃墜されています。

・SP-2Hネプチューン哨戒機 2機保有
 比較的長距離の哨戒が可能でしたが、老朽化のため紛争中の5月15日に退役しています。

・S-2Eトラッカー 6機
 SP-2Hと同様に旧式の艦上哨戒機。この機もイギリスの原潜対抗は困難でした。

・ボーイング707 3機保有
 南大西洋に近づくイギリス機動部隊の捜索や、本土内の輸送任務に使用。イスラエル製の電子信号情報偵察(SIGINT)装置が装備されました。

・C-130E/H 7機保有
 本土とフォークランドの輸送任務や偵察に使用。単機でサウスジョージア島まで飛行が可能でした。一部の機体は爆装が検討されたものの、洋上偵察中にハリアーに撃墜されて以降、輸送任務に専念したようです。

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https://www.flickr.com/photos/25062883@N05/3383607148
アルゼンチンの爆装C-130

・KC-130 H 2機保有
C-130の空中給油機バージョン。低空飛行で燃料が不足する低空侵攻の攻撃機を支援しています。

・リアジェット35A 4機保有
航空写真撮影と地図作成のため、カメラ装備を施したビジネスジェット。紛争では写真偵察機や攻撃目標までの誘導を務めました。

・フォッカーF-28輸送機(海空軍合わせて)8機保有

・ロッキード・エレクトラ輸送機 3機保有

・ショート スカイバン輸送機
 ターボプロップ2発の汎用輸送機。フォークランド草原の臨時滑走路で使用されました。


出典

防衛省防衛研究所 フォークランド戦争 第2部 第6章 イギリス軍およびアルゼンチン軍P68~83(PDF版P1~16)

Aプライス&Jエセル著、江畑謙介訳 空戦フォークランド ハリアー英国を救う ISBN 4-562-01462-8 1984年5月10日 P271~278


*実際の参戦機数は資料によって異なります。絶対数ではなく、あくまで目安とお考えください。

 

参考

日本語版wikipedia  フォークランド紛争

防衛省防衛研究所 フォークランド戦争史 (2015年9月8日ダウンロード済み)

アメリカ海軍 Lessons of the Falklands Accession Number : ADA133333

RAF(イギリス空軍)  The Falkland Islands Campaign

朝日新聞外報部著 狂ったシナリオ―フォークランド紛争の内幕 ISBN 9784022550200 1982年8月20日

Aプライス&Jエセル著、江畑謙介訳 空戦フォークランド ハリアー英国を救う ISBN 4-562-01462-8 1984年5月10日

堀元美 著 海戦フォークランド―現代の海洋戦 ISBN 978-4562014262 1983年12月1日

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