第13回 「将来ネットワーク型多目的誘導弾システム」

文:nona

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http://www.mod.go.jp/trdi/research/gaibuhyouka/pdf/F-MPMS_24.pdf p4
将来ネットワーク型多目的誘導弾システムの研究試作品。資料ファイルによると略称はF-MPMS。


■研究目的■

 将来ネットワーク型多目的誘導弾システムとは現在研究中の96式多目的誘導弾の後継装備です。技術研究本部によると研究目的は「目標情報の継続的な取得が困難な状況下において発射し、多数の目標を同時・自動的に捜索・識別し、自律的に目標を撃破するとともに、目標地域の戦況及び戦果を確認するために使用する将来ネットワーク型多目的誘導弾システムに関する研究を行い、技術資料を得る。」とのこと。[1]2008年に研究がスタートし、2011年からは試射などの試験も実施されています。

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http://www.mod.go.jp/trdi/research/gaibuhyouka/pdf/F-MPMS_24.pdf p3

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http://www.mod.go.jp/trdi/research/gaibuhyouka/pdf/F-MPMS_24.pdf p5

■システムの改良点■

 将来ネットワーク型多目的誘導弾(以下F-MPMS)は96式多目的誘導弾(以下、96MPMS)の後継として開発中の新装備です。その最大の特徴はネットワークによって、96MPMS以上に使いやすいシステムを目指すことにあります。また96MPMSの欠点のである「価格」「システムの大きさ」が改善されるかもしれません。

ここで改良点をまとめてみると、

・96MPMSの大がかりな誘導装置をなくすことで大幅な省力化(とコスト削減)を図る。
・装置の小型化でヘリコプターによる空輸や、戦術輸送機からの空中投下に対応する。
・無線(有線かもしれない)ネットワークで遠方の観測員や無人機との連携を可能にする。
・ミサイルの自立化で自動捜索能力と同時多目標攻撃能力を得る(ただしミサイルが高価になるかもしれない)
・より鮮明な多波長式赤外線式センサーを採用する。
・地形から車両を識別できるレーザー式センサーを備える。(赤外線ステルスや囮に対抗する機能?)

 なお無線化によっておきる問題については言及されていません。特に電波妨害への対抗方法や映像の伝送方法が気になるところです。またF-MPMSは射程が不明ですが、諸外国の類似ミサイルでは25~70kmと幅広く設定されています。長いことに越したことはないのですが、UAVなど広域を索敵できる手段が必要になりますから、これらの確保に苦労するかもしれません。


■他国の類似システム■

 F-MPMSや96MPMSのようなシステムを海外では現在NLOSと呼んでいるようです。Non Line of Sightの略語で[8] 「見通し外」や「非直接照準」を意味します。代表的なNLOSがイスラエルのSpike-NLOSです。第二次レバノン紛争では20km離れた家屋の窓へ命中しています。イギリスではSpike-NLOSを2007年に対迫撃砲ミサイルとしてリースし [6] 韓国では2013年から対砲兵ミサイルとして導入しています。
[7]

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http://www.rafael.co.il/marketing/SIP_STORAGE/FILES/6/1026.pdf  p2
車搭載用Spike-NLOS発射機


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http://www.miltechmag.com/2014/09/mspo-2014-photographic-recap-of-first.html
ヘリコプター搭載用のSpike-NLOSランチャー。円筒形ランチャーはSpike-ER(旧NT-D)用

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http://defence.pk/threads/israel-shipyards-introduces-the-saar-72-corvette-design.253003/
艦艇用NLOSランチャーシステム。タイフーンリモートウエポンシステムのバリエーションでもある。

 なおジェーンディフェンスの報道[4] によると、なんと96MPMSの登場前にもNLOSが存在したようです。それが1981年に実用化されたイスラエルの「Tamuz」です。Tamuzは第4次中東戦争の経験で誕生した、無線式の非直接照準ミサイルです。96-MPMSと同じく、映像でミサイルを誘導することが可能でした。(自動化の度合いは異なるでしょうが)なおTamuzはマガフ戦車(M48パットン)を改造したPerehミサイル車などで運用されたようです。

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http://www.janes.com/article/53506/analysis-idf-breaks-33-year-silence-on-m48-tamuz-missile-launcher
Perehミサイル車。Tamuzを隠すため発射機は砲塔へ格納し、ダミーの砲身まで搭載している。

 ジェーンディフェンスや英wikipedia [5] によるとTamuzとそれをベースにしたSpike-NLOSはイギリスが試験導入していたものの、公式には2011年まで秘密の存在でした。Perehミサイル車にいたっては公開が2014年です。この時のPerehミサイル車は(Tamuz5またはSpike-NLOSに対応するためか)砲塔形状が変わっています。秘匿しづらい形状のため、あえて公開となったのかもしれません。


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ずいぶん…鍛え直したな…イスラエル軍戦車
(軍事系まとめブログ様の2014年07月22日の記事より)


 またイスラエル以外でも中国やセルビアでNLOSが実用化されています。たとえば中国では、人民解放軍向けに射程70km 超のCM-501Gや短射程で有線誘導のAFT-10が開発されています。AFT-10は96MPMSに近しいですが、発射機にはZBD-08歩兵戦闘車の車体を用いるため防御力や路外機動力が優れているようです。この点は非常にうらやましく思います。


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http://toutiao.com/a4487310577/
ATF-10と思しき有線誘導ミサイル。

 またアメリカのXM501NLOS-LSやイスラエルのJUMPER などVLS方式のNLOSも開発されています。VLS方式は狭い空間から発射でき、旋回装置が不要になるメリットもあります。XM501は空中投下も考慮されているため機動力もアップするかもしれません。しかしXM501は2009年に開発中止になっています。[9] JUMPERも現在の開発が続いているか分かりませんでした。技術研究本部のF-MPMSもVLS方式や空中投下に対応させる構想があるのですが、構想図の初出は2011年以前とのことで、現在も本気で実用化を考えているかは不明です。

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http://defense-update.com/20091014_nlos.html#.Vec4Kpf4Td4
空中投下試験中のNLOS-LSのコンテナ。

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http://www.iai.co.il/2013/22033-41113-EN/homepage.aspx
 JUMPER-NLOSのコンテナ。


出典 最終閲覧日2015年9月4日

[1] 防衛省技術研究本部 外部評価報告書.「将来ネットワーク型多目的誘導弾システムの研究」 p1
[2] 同p3
[3] 同 p4
[4] IHS Jane's Defence
Weekly IDF breaks 33-year silence on M48 Tamuz missile launcher Yaakov Lappin, 06 August, 2015
[5] Wikipedia[en]
Spike (missile)
[6] IHS Jane's Defence  Special Report: Exactor, the 'missile that never was', comes in from the cold  24 Sep, 2013 p3
[7] The diplomat
South Korea to Purchase Israeli Spike Missiles Zachary Keck, 07 January, 2014
[8] defense update 
Non Line Of Sight (NLOS) Missile System
[9] armytimes.com Army asks to cancel NLOS-LS  Kate Brannen Apr. 23, 2010