第7回ロシア海軍水上艦艇の現状について(訂正)

文:nona

 新型艦の情報が出た!と期待していても、いつになっても就役せずに放置され、小型艦艇を10年以上かけて就役させるなど謎多きロシアの水上戦闘艦。今回は最新艦艇や時期主力艦のコンセプトと、それらがいつになっても就役できない現状をまとめました。今回はロシアの対外ニュースや高町紫亜氏の記事を参考に制作しています。もっとも情報源(ロシア語)の精査が行えませんので、不正確な情報が含まれると考えてください。


21630型/21631型 小型砲艦

(全長62~74m・満載排水量500-949トン・速力25~28ノット・配備数予定10隻以上・2006年就役開始)

image001
https://twitter.com/Missilito/status/459790737371299840/photo/1

 ロシアでの艦艇の分類で砲艦に分類されるステルス艦艇です。21630型ではBM-21連装ロケット砲の艦載版グラドMを、拡大版の21631型ではクラブ対地巡航ミサイル用の3R14UKSK垂直発射機を8基搭載するなど高い対地攻撃能力を持っています。今のところは黒海やカスピ海のみでの運用で、対潜兵装も装備されていないようです。


1/700 ウォーターライン No.703 ロシア海軍空母 ミンスク
青島文化教材社
売り上げランキング: 191,015

20380/20381/20385/型ステレグシチイ級コルベット
image002
http://www.janes.com/article/49470/russia-lays-down-two-more-project-20380-corvettes

20386型(コンセプト)
image003
http://eagle-rost.livejournal.com/498070.html

(全長104m・満載排水量2200トン・速力27ノット・配備数予定10隻以上・2007年就役開始)

 日本のあぶくま型と同程度の船体に、哨戒ヘリコプターを搭載した重武装の哨戒艦。2007年ごろから就役を開始し10隻程度調達される予定です。元々は低コスト艦でしたが3K96対空ミサイル用VLSや上記の3R14UKSKが搭載され重武装化(と高コスト化)が進んでいます。現在提案中の20386型ではより進んだステルス設計でミッションモジュール方式を一部採用しています。米国LCSに似たコンセプトですが、ヘリコプターもエレベーターによる船体収納とするなど先進性(?)もあります。


18280型偵察艦ユーリ・イワノフ

(全長95m/満載排水量2500t?/速力20ノット/配備数2隻予定/ 2015年就役開始)
image004
http://jp.sputniknews.com/politics/20150703/532019.html#ixzz3hkcv2gTj

 このユーリ・イワノフは11年かけようやく就役に漕ぎ着けた偵察艦です。主な任務は通信やレーダーの波など電波情報収集や通信の中継統制ですが、スプートニク(旧ロシアの声)によるとアメリカ主導のMD構想に対向する用意もあるようです。ロシアでは通信用電波やレーダー波、水中音波を探るための偵察艦が20隻ほど運用されています。


11356M型アドミラル・グリゴロヴィチ級フリゲート

(全長125m/満載排水量4000t/速力32ノット/配備数3隻予定/ 2015年就役開始)
image005
http://sputniknews.com/russia/20150313/1019449504.html

 インドに輸出されたタルワー級フリゲートを元に設計されたロシア本国用のフリゲートです。インドの向けに6隻が建造されており、建造が遅れている22350型の数を補うために発注されました。しかし2014年以降ウクライナとの共同開発のガスタービンエンジンが調達できなくなり、3番艦で建造終了というオチがついています(本来7隻予定されていた)。ジェーン年鑑で有名なHISジェーン360によると、ロシアのチルコフ提督が代替として新たに22800型コルベットを建造するとコメントしたようですが…。

8月19日改稿

8月11日のイタル・タス通信の発表によると、建造休止中の3隻について建造が継続される見通しとなりました。2017~18年のロシア製エンジン調達に向け邁進中とのことです。

http://tass.ru/armiya-i-opk/2179018
高町紫亜様、ご指摘ありがとうございます。


20350型アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート

(全長約130m/満載排水量4500トン/速力30ノット/配備数3隻予定/ 2015年就役開始)
image006
http://www.liveleak.com/view?i=d13_1416824385

 20350型フリゲートはS-400長距離防空ミサイルやP-800オ-ニクス超音速対艦ミサイルを搭載するソブレメンヌイ級に代わる主力艦艇です。2006年に起工し2010年には進水に至るものの、新型艦載砲など艤装の開発遅延で就役は2015年(予定)となってしまいました。上記の11356M型フリゲートと同様にエンジン供給が途絶しているため、代替エンジンが導入されるまで、4番艦以降の就役次期は不明となっています。


イワン・グレン級揚陸艦

(全長120m/満載排水量5000トン/速力18ノット/配備数2隻予定/2010年台就役予定)
image007
http://militaryrussia.ru/blog/topic-613.html

 ロシア海軍の保有している多数の戦車揚陸艦を代替することが期待されていたものの、起工から11年たっても就役できず高価格化と性能の陳腐化に苦しんでいるようです。建造が中断していた2番艦は建造が再開されたそうですが、高町紫亜氏によると3番艦以降のキャンセルと、ドック型揚陸艦のプリボイ級による新たな更新が予定されているそうです。


23560E型駆逐艦リーデル級(又はシクヴァル計画艦)

(全長約200m/満載排水量18000トン/速力32ノット/配備数不明/ 2020年代就役予定)
image008
http://ria.ru/defense_safety/20150616/1072268080.html

 弾道ミサイル迎撃に対応するS-500超長距離対空ミサイルや60発以上の対艦ミサイルの装備が計画されている超大型駆逐艦です。かつての戦艦扶桑ですら可愛く見えるリーデル級の艦橋ですが、複合材の使用が計画されているため、ステルス性や重心低下は考慮しているようです。ガスタービンエンジンの調達問題があるため、設計段階で原子力推進が予定されています。(完成すれば)恐らくは史上最強の軍艦となるでしょう。


多目的空挺用ヘリ空母「ラヴィーナ」プロジェクト


(全長約230m/満水排水量24000トン/速力22ノット/配備数2隻?/2020年代就役予定)
image009
http://bastion-karpenko.ru/lavina-udk-armia-2015/

 ウクライナ問題の影響で取得不可能になったミストラル級を代替する揚陸艦です。ラヴィーナとは「雪崩」を意味します。ミストラル級の共同建造で得た経験を元に、よりロシアのドクトリンに合致する艦になる予定で排水量も増加しています。スプートニクによるとミストラル級について「ロシアの要望に合致したものではなく、今のロシアなら最適な艦を自力建造できるので、最早必要ない」と“狐と葡萄”の理論で講じています。


23000E型航空母艦「シトルム」?

(全長330m?/満水排水量85000~10000 50000~85000(10000)トン?/速力30ノット?/配備数不明/2030年台就役予定)

image010
http://www.janes.com/article/51452/russia-developing-shtorm-supercarrier

 上記の駆逐艦の原子力機関や揚陸艦のブロック工法技術を応用し、その集大成として計画される正規空母です。模型ではスホーイT-50ステルス機の艦載版や固定翼早期警戒機が並ぶほか、2つに分けられた艦橋が特徴的です。現在はまだ仕様も決定されていませんが、高町紫亜氏によると排水量は85000~50000t未満の間で計画されているようで、この模型よりは小型な空母となることが予想されます。


 ロシアの水上艦の建造があまり順調でない理由の一つはウクライナ問題ですが、むしろ根源は民間の造船能力の低迷にあります。AREA REPORTSによるとロシアでは(2004~14年)に168隻の外航船(海上用貨物船など)と171隻の内航船(河川用船舶)を導入したのですが、その90%以上は国外で建造されたものでした。ロシアの造船所はソビエト崩壊で政府からの投資が停止したため、設備は老朽化し生産体制も非効率になっています。そのため納期の遅延が常態化し、ますますシェアが奪われるという悪循環が起きています。

 この状況を打開するため、2012年からロシア政府から主要造船所に対して3379億ルーブルの投資が実施されています。また2015年には輸入代替計画も立ち上げられ、2020年までにあらゆる船舶関連製品の輸入依存を減らすことを目的としています。大型船の輸入割合を100%→20%へ、エンジンや発電機の輸入割合を90%→40%へ引き下げるとしているようですが、当のロシア政府も財政難に見舞われているのが現実です。

 一方で造船業にとっては追い風となる要素もあります。ウクライナ問題によって通貨安や対露輸出規制で輸入船のメリットが薄れていること、地球温暖化で北極海航路の確立や資源採掘関連の民間船の需要増などが挙げられます。造船業が発展すれば海軍向けの大型艦艇も遅延することなくスムーズに建造されるでしょう。ただし、これらの艦艇が各国情勢に影響を及ぼすことになり、あまり喜ばしくない事態とも言えます。やはりロシア海軍は現状のままが好都合なのかもしれません。



参考

ロシア国際放送 スプートニク日本版(旧ロシアの声)
http://jp.sputniknews.com/

ロシア海軍報道・情報管理部機動六課・ACS
http://rybachii.blog84.fc2.com/

AREA REPORTS 世界のビジネス潮流を読む ロシア 造船産業の構造改革に着手
http://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/20150052.pdf

イタル・タス通信 英語版
http://tass.ru/en/search?query=Admiral+Gorshkov+class