第6回「破片効果」にまつわる薀蓄いろいろ
文:nona
投稿者撮影。自衛隊のM26手榴弾はあらかじめ破片ができやすいように調整されている。
有効距離は5~15mとする資料が多い。
榴弾(High Explosive)といえば爆発で敵を殺傷する兵器ですが、爆風よりも弾殻の破片が恐ろしいものであることは、諸兄にとってはおなじみかと思います。火薬兵器が登場したのは約1000年前のことですが、破片効果が爆発そのものよりも危害範囲に優れることに気付いた先人達は「てつはう」や「焙烙玉」など手榴弾の先駆けとなる武器を発明しました。そして現代までに榴弾がどう進化したか、各種資料を交えて紹介いたします。
■破片の危害範囲■
http://www.globalsecurity.org/military/library/policy/army/fm/7-90/Appb.htm
上の図はアメリカ軍の120~60mm口径の迫撃砲弾の危害範囲です。一番目の図はlethal(致死)二番目の図はsuppress(制圧)と表現しており、想定するダメージの度合いが異なるものの、120mm迫撃砲を例とすれば半径30mの範囲の人員をほぼ殺害することが可能で、負傷に至るような破片も200mほど飛翔するようです。小型ながも制圧範囲の広い迫撃砲ですが、これは弾は弾着の角度が大きく関係しています。
http://www.winterwar.com/Weapons/artyinfo.htm
砲弾はその形状の都合、炸裂時に破片の多くは前方ではなく側方へ飛散していきます。このため弾着時の砲弾姿勢が地面から垂直であることが望ましく、逆に水平に弾着する制圧範囲が狭くなってしまいます。このため曲射弾道の迫撃砲の制圧範囲は、直射弾道の榴弾砲(かつてのカノン砲)よりも優れています。グレネードランチャーでも同様で、06式小銃てき弾のようなライフルグレネードは曲射弾道効果によって制圧範囲を広げています。■破片の威力と調整破片■
制圧範囲では迫撃砲に比べ効率に劣る榴弾砲ですが、破片の速度では勝るため近距離であれば装甲車両も貫通します。大砲と装甲の研究によると、旧日本陸軍の15cm榴弾の破片エネルギーは最も大きい破片で250kJあり、同時期のドイツ軍の3.7cm対戦車砲Pak35を上回るものと評価しています。この榴弾砲の破片の数と初速の情報を元に下記の運動エネルギー図表を制作しました。運動エネルギーのみの比較なので、銃砲弾と同じ貫通力や飛距離とならないことに留意してください。
参考:http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1550/shell_var/he.htm
参考値はWikipediaの初速、弾丸重量数値から計算。
なお同サイトでは規模の旧軍の15cm榴弾や、自衛隊のM107_155mm榴弾の制圧範囲は半径36~40m(対歩兵)と紹介しています。制圧範囲を高めることに貢献している破片ですが、炸薬の強さによって破片の大きさが偏る欠点があります。特に大型の榴弾砲や航空爆弾は破片が小さくなりすぎてしまうため、対人対装甲戦闘が重視する場合にはクラスター弾が使用されます。
■調整破片■
比較的小型の榴弾では適切な大きさの破片が形成されやすい、もしくは予め散弾を内蔵した調整破片が採用されています。自衛隊が使用しているM26手榴弾も人員の殺傷効率を高めるため弾殻内側に破片が用意されています。クレイモア地雷や指向性散弾など予め多数の鉄球が内蔵されている場合もあります。
http://warfiles.ru/show-79447-ruchnaya-granata-m26-m26a1-m26a2-m57-m61.html
また戦車砲では直射砲ゆえの効果範囲の限界(曲射弾道効果を得られない)を補うため、エアバースト機能と前方攻撃用散弾を内蔵した榴弾も開発されています。ラインメタル謹製の120mm滑腔砲用のDM11榴弾は、レーザー測距機からの情報を元にした時限信管によるエアバースト機能を備え、さらに前方の目標へダメージを与えるために砲弾前部にタングステン球を内包しています。ラインメタルの試験では50×85mの範囲内でくさび形に並べた標的(均質圧延鋼10mm)を貫徹しています。
http://www.dtic.mil/ndia/2012armaments/Tuesday14105ewert.pdf
このように空中炸裂で散弾をうち出す砲弾として、かつては榴散弾が存在しました。この榴散弾は信管調定の難しさ、塹壕に隠れる敵への弱さから第一次世界大戦を境に廃れた弾種でもあります。現在のDM11榴弾ではこの弱点が払拭されており、さらにはフレシェット弾やキャニスター弾よりも射程で優れています。正式採用は2011年で、すでにアメリカとドイツで採用されています。
■対空ミサイル用の特殊な破片■
http://www.okieboat.com/Warhead%20history.html
対空ミサイルの弾頭ではより特異な構造をしている場合があります。1960~70年台に開発された対空ミサイルにはコンティニュアスロッドと呼ばれる特殊な弾頭が採用されていました。コンティニュアスロッドとは、ひとつなぎの金属棒が炸薬で「南京玉すだれ」のように輪形に広がる弾頭で、初期の対空ミサイルの命中精度を補うために搭載されました。この輪が命中すると航空機の外板を「切断」することができ、通常の破片と比べて有効距離で優れていました。威力の向上を狙ってタングステンや劣化ウラン(ソビエトのR-60空対空ミサイル)など物騒な素材も使用されています。
http://www.brasscheck.com/OKBOMB/conrod.html
ところがこのコンティニュアスロッド、ごく至近距離を除いて輪の伸びる範囲でしかダメージを与えられない、という弱点があります。このため巡航ミサイルや戦闘機など回避軌道を取る小目標に対して命中率が低下してしまいます。後にミサイルの命中率が向上したこともあって、80年台には従来型弾頭が復活することになります。例としてAIM-7スパローはA/B型では爆風破砕弾頭を採用し、C/E/F型からコンティニュアスロッド弾に換装されるものの、M/P型では再び爆風破砕弾頭に戻っています。
しかし現代のミサイルでは破片もしくは金属ロッドを任意の方位を発射できる形状に進化しています。これは全方向に対して感応する近接信管の反応に応じ、炸薬の分離、起爆散弾の展開を瞬時に行うものです。現用世代のAIM-120空対空ミサイルのWDU-33/B弾頭やWDU-41/B弾頭、99式空対空誘導弾の弾頭には、下の図のような指向性破片弾頭で採用されている、と考えられます。
https://www.google.nl/patents/US7621222?dq=Rod+warhead&hl=ja&sa=X&ved=0CDwQ6AEwA2oVChMIs8ul_4qAxwIVA-WmCh0GtA8p
しかし現代のミサイルは指向性破片弾頭と呼ばれる破片や金属ロッドを任意の方位を発射できる特殊弾頭へ進化しています。これは近接信管の反応する方向に応じて外側炸薬を分離し、瞬時に残りの炸薬を起爆させることで敵の反応のある方向へのみ攻撃を集中させることができます。原理が同じものかは不明ですが、実際にAIM-120空対空ミサイルのWDU-33/B弾頭やWDU-41/B弾頭、99式空対空誘導弾に指向性破片弾頭が採用されています。
■おまけ■
フィンランド軍によるM46 130mmカノン砲の射撃訓練
砲弾の炸裂音と、弾殻片(もしくは岩石)が銃弾のように弾ける音がなんともいえない臨場感があります。フィンランド軍の広報動画はどの映像も音響が素晴らしく、音に強いプライドを持っている様子。
参考
大砲と装甲の研究 砲弾の種類
http://www.geocities.co.jp/Technopolis-Mars/1550/shell_var/shell_var.htm
BRITISH ARTILLERY IN WORLD WAR 2 EFFECTS & WEIGHT OF FIRE
http://nigelef.tripod.com/wt_of_fire.htm#The%20Effects%20of%20Terrain
General information of artillery pieces and artillery shells
http://www.winterwar.com/Weapons/artyinfo.htm
Kinetic energy rod warhead with lower deployment angles US 7621222 B2(google 特許検索)
https://www.google.nl/patents/US7621222?dq=Rod+warhead&hl=ja&sa=X&ved=0CDwQ6AEwA2oVChMIs8ul_4qAxwIVA-WmCh0GtA8p
コメント
って見てどういう構造なのかと思ってたけど
こういう感じなのねー
勉強になりました
AAMの弾頭は知りませんでした、勉強になります。
榴弾と火砲の運用をざっくり分かりやすく描いた本なら
"武器と弾薬"(小林源文)おすすめ。
落達角度と破片の分布で撃たれた迫撃砲の種類と射点の方位と距離が分かるとか色々。
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