第4回 「はたかぜ」「しまかぜ」は不遇だったのか?
島嶼防衛シナリオに見る「はたかぜ型護衛艦」

文:nona

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https://www.youtube.com/watch?v=lDHCJu2dog0

自衛隊公式チャンネルで公開されている演習中のはたかぜ型護衛艦

 一番艦の「はたかぜ」が就役したのは今から28 年前、1986年のこと。あきづき型に代替され近く退役されると目されていましたが、現在計画中の8200トン級護衛艦による代替となり、もう暫くの間現役に留まることになりました。しかし装備の強化は就役時からなされなかったため、生きた化石のような装備の護衛艦でもあります。仮に有事となった場合どのように運用されるのでしょうか。

■「はたかぜ型」はなぜ改修されなかったのか■

 1986年に「はたかぜ」、1987年に「しまかぜ」が就役したものの、7年後の1993年にはイージス艦である「こんごう型」が就役することになります。しかし、この時点ではまだ挽回するチャンスがありました。旧式化したスタンダードミサイル搭載艦向けの近代化改修プラン、NTU(New Threat Upgrade)が可能であったためです。仮に「はたかぜ型」にNTUが適用されていた場合、射程70km級のSM-2MRミサイルを40発搭載し、6目標との同時交戦能力が可能になる防空艦へ生まれ変わるはずでした。

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投稿者撮影
NTUを適用したトルコのG級フリゲートGediz 。SM-2用の単装発射機とESSM用のVLSを搭載する。

 ところが1998年の北朝鮮による弾道ミサイル発射実験のあおりを受け、海上自衛隊にとってイージス艦によるMD能力の付与が優先事項となります。そのため元より弾道ミサイルに対応しない「はたかぜ型」はNTUを早期に受けることができなくなってしまいました。その後2004年から同時交戦能力を持つESSM(発展型シースパロー)が汎用護衛艦に搭載が開始されますが、すでに艦齢20年の「はたかぜ型」は蚊帳の外。

 防空艦として旧式化した「はたかぜ型」ですが、防空以外の用途を見いだすことも難しい艦でした。ヘリコプター格納庫を持たないため、海賊対処や災害救援など平時の運用には不向きであっためです。ソマリア沖の海賊対処では、同世代のあさぎり型汎用護衛艦は定期的に参加していますが、はたかぜ型は一度も参加していません。

 また、1世代前の防空艦の「たちかぜ型」のようなに護衛艦隊旗艦となることも今となっては叶わないでしょう。通信技術の発達で艦隊の指揮を地上から執ることが可能になり、2010年をもって護衛艦隊旗艦システムが廃止されしまったためです。ちなみに「たちかぜ」は後部主砲を撤去して旗艦として運用され、3番艦の「さわかぜ」も2010年まで旗艦として運用されていました。

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http://www.mod.go.jp/j/yosan/2015/yosan.pdf(8ページ)
後継とされる8200t型護衛艦

 現在計画中の8200トン級護衛艦による代替となり、艦齢延長工事が実施されています。しかし改修予算は1隻9億円と小規模なもの(リンク先pdfの38ページ参照)またしても装備の強化は行うことができませんでした。

■「はたかぜ型」と艦砲射撃■

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https://www.youtube.com/watch?v=lDHCJu2dog0
射撃訓練を実施する「はたかぜ」

 不遇な「はたかぜ型」ではありますが、2015年1月の第1空挺団降下初め内の離島防衛シナリオでは「護衛艦はたかぜによる艦砲射撃が実施されます」とのアナウンスで登場します。海上自衛隊がシナリオに登場することも増えており、「降下初め」では2013年から展示に参加していました。

 特に「はたかぜ型」は旧式ながら2門の速射砲を装備しているため、対地攻撃力はかなりのものです。搭載砲である73式54口径5インチ単装速射砲は31.75kgのHE弾の使用によって、2門で最大2222.5kg/分の投射能力を発揮します。加えて2門分の弾倉が用意されているので砲弾の搭載量の増加も予測されます。


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表製作時のデータ参考サイト
Mk 45 Mod 4 Naval Gun System(BAEシステムズ)
Italy127 mm/54 (5") Compact127 mm/54 (5") LW(navweaps.com)
United States of America5"/54 (12.7 cm) Mark 42(navweaps.com)
99式自走155mmりゅう弾砲(wikipedia)

 前述のように「はたかぜ型」にはヘリコプターの搭載能力がありませんので、有効な弾着観測手段を持ちません。弾着観測に関しては僚艦から発進する航空機の支援を受けることになります。現在、海上自衛隊では小型のRQ-21無人偵察機の導入を検討しているようですので、ヘリコプターの搭載数に余裕のない汎用護衛艦からでも観測支援も受けられるかもしれません。

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https://www.youtube.com/watch?v=b3y_UL7HQC8
RQ-21は収容にクレーンが必要となるが、汎用護衛艦であれば運用可能かもしれない。

 また最大射程23kmでは他の艦艇より沿岸へ接近する必要があり、意図せず被害担当艦となる可能性があります。「はたかぜ型」は2門の速射砲や対艦射撃可能な40発のスタンダードミサイルを備え、量は十分なものの質は30年前のレベルに留まります。最新の兵器に対処できるかは厳しいところ。

 そこで新型の護衛艦とペアを組めば、観測機やESSMの援護が受けられるようになります。特に対地射撃能力や対空ミサイルの弾数が少ない「むらさめ型」が僚艦であれば、互いの弱点を補完しあうことが可能となるでしょう。


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投稿者撮影
「はたかぜ」の手前に停泊する「いかづち」。ヘリコプター格納庫とESSMの運用能力を持つが、対地射撃能力は劣る。 

■「はたかぜ型」の展望■

 もし「はたかぜ型」の退役前に戦争に至った場合、もはや防空艦として活躍することは不可能でしょう。むしろ沈んでも惜しくない旧式艦という扱いを受けているのかもしれません。しかし乗員の命まで一緒に犠牲になってもよい訳ではないはずです。後輩の新型艦と協力し不足する能力を補いながら、北方領土や北海道では横須賀の「はたかぜ」が、西南諸島では佐世保の二番艦「しまかぜ」が、対地射撃を披露することになるでしょう。

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https://www.youtube.com/watch?v=lDHCJu2dog0
自衛隊公式チャンネルで公開された「はたかぜ」

1/700 海上自衛隊護衛艦 DDG-171 はたかぜ
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