究極の装輪戦闘車?軽量戦闘車両システム

文・写真提供:nona
 
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防衛省技術研究本部では、次々世代を担う装輪戦闘車の研究に取り組んでいます。それがこの軽量戦闘車両システムです。公表されたコンセプトは、

「非対称戦闘、 島しょ部侵攻対処などの新たな脅威や多様な事態に対応し、  軽量コンパクトでありながら火力、 防御力、 機動力を有する 多機能な軽量戦闘車両システムの成立性に関する研究」


1/72 ミリタリーモデルキットNo.09陸上自衛隊 機動戦闘車(プロトタイプ)
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[2つのモデルに共通する仕様]

 現在火砲型と対爆型2つの異なるモデルが計画されており(初期資料では機関砲搭載型も登場します)外観イメージが異なりますが、重量軽減とインホイールモータ駆動であることが共通しています。
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 軽量戦闘車両システムは車重を約15tとしています。これはC-130輸送機で1両、C-2輸送機で2両を輸送を可能にするための仕様です。
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 しかし、軽量化の代償として、火力も防御力も低下することを避けられません。そこで車体に火砲型と対爆型と仕様の異なる2タイプを想定しています。共通の車体で矛と盾に分けるのは、ヴァイエイトとメリクリウスの関係に近いかもしれません。
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 もうひとつの共通点はインホイールモータの採用です。元々、装輪戦闘車両は、一つの車輪が損傷しても、残りの車輪で走行できるという、装軌車両にはない利点が有りました。しかし、運悪くドライブシャフトや車軸など駆動装置がダメージを受けてしまうと、タイヤが健在なまま行動不能となる可能性もあります。そこで従来の駆動装置を排し、代わりに車輪に内蔵されたモーターで冗長な駆動系にしようという、アイディアです。
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並行して装軌車両の電動化研究が行われており、この研究を流用しているものと思われます。バッテリーを装備することが計画されているため、無音走行やエンジン被弾時の走行も可能になるかもしれません。ただし従来の駆動機械が電装系に切り替わるため、いままでと異なる原因による不具合が発生する可能性もあります。
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 ちなみに、モーターの銘板に書いてあるまま「コマツ製ですねと」と解説員に聞くと、「モーター自体は日立製」と答えてくれます。コマツ製作所が関わっているのは車体のほうらしく、この問答を会場で2回聞いた。 image00

 [火砲型]
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 機動戦闘車と共通の105mm砲弾を使用しつつ、直射と曲射の両方が可能で、さらに大幅に軽量化を狙ったのがこの火砲型です。

 105mm砲の反動を抑えるため「デュアルリコイルシステム」を搭載しています。発砲時の反動を1つ目の駐退機砲身を後退させ、2つ目の駐退機によって(仰角をとったまま)砲架ごと後退させるという特殊な反動を抑える構造を持ちます。これによって仰角をとったまま射撃した際の反動を車体へ集中しないよう2つの方向へそらし車体への駐退機、時間差でゆっくりと吸収させることで、15tの車重で105mm砲の搭載を可能にしています。
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 試験砲は機動戦闘車の通常の砲身を流用し、次期シミュレーションではイラストにあるように短砲身砲を採用するとのこと。短砲身の場合、弾速、射程、徹甲弾の貫通力が低下しますが、自走砲としての運用ではそれほどど問題とならないそうで、むしろ車両の小回りがきく短砲身砲がいいのかもしれません。
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試験弾も短砲身砲の遅い弾速を再現するために先端に抵抗板を取り付けていました。空気抵抗で減速させるシンプルなものです。
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 なお、複雑な機構を持つ理由は低反動砲の開発のために、あえて軽量戦闘車の車体を使用しているそうです。事実、軽量戦闘車への105mm砲搭載は、想定運用ではミスフィットと言わざるをえません。砲口初速が不要であれば量産車は減装弾を用意したほうがよいと思われます。

[対爆型]
 幾分ぶっとんだ設計の火力型と比べ、真面目に作っているのがこの対爆型です。2000年台以降のアフガン・イラクで問題となったIED(即席爆弾)。これに対抗した諸外国の装甲車の構造を踏襲しています。さらに前述のインホイールモータの採用によってさらに車両自体の生存性を高めています。
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 対爆型は車体をV字型にすることで、爆風を車体左右へ逸らす設計がなされています。加えて、内部への衝撃を研究するためのシミュレーションも実施されました。
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 さらに、対爆型は車高可変機能を持っています。爆風は距離の3乗で減退するため、数十センチの車高上昇でも効果が得られます。安全な地域では適宜車高を下げ、走行安定性を高めています。
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 しかし爆発に対して強化されている一方で、機関砲の徹甲弾、成形炸薬弾、自己鍛造弾のような「一点を突く」攻撃への防御は従来の装甲車と変わりません。ゲリラコマンドが強力な対戦車火器を持ち込んだり、反政府ゲリラが戦闘車両を鹵獲運用するケースもあります。このような正規軍に準じる装備を持つ相手には、重防御された車両が必要になるでしょう。
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また、防衛シンポジウムの屋外展示ではIED対処システムの試作車両が公開されています。搭載するレーダーによって地中の危険物を捜索を可能としています。現時点ではトラックに載せた状態ですが、軽量戦闘車風の車両に取り付けて運用することも想定されているようです。
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[展望]
 パネルを見る限りでは低反動砲の試験及び、対爆車箱の試験はシミュレーションは本年度中に完了の予定です。
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 今後コンピュータ上のシミュレーションモデルの細密化を実施し、バーチャル空間での試験を経てから実際の試作車両の仕様を決定するそうです。「軽量戦闘車」というものがこのままの形で登場するわけではないそうですが、これらの技術が早期に活かされることに期待したいと思います。


出典:防衛省技術研究本部ホームページ 2015年6月14日利用

「軽量戦闘車両システム」

http://www.mod.go.jp/trdi/research/dts2012/P-4p.pdf 

「軽量戦闘車両システムの研究」

http://www.mod.go.jp/trdi/research/kenkyu_riku.html 

「低反動試験砲による射撃試験」

http://www.mod.go.jp/trdi/news/1412_1.html