究極の装輪戦闘車?軽量戦闘車両システム
文・写真提供:nona
防衛省技術研究本部では、次々世代を担う装輪戦闘車の研究に取り組んでいます。それがこの軽量戦闘車両システムです。公表されたコンセプトは、「非対称戦闘、 島しょ部侵攻対処などの新たな脅威や多様な事態に対応し、 軽量コンパクトでありながら火力、 防御力、 機動力を有する 多機能な軽量戦闘車両システムの成立性に関する研究」
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[2つのモデルに共通する仕様]
現在火砲型と対爆型2つの異なるモデルが計画されており(初期資料では機関砲搭載型も登場します)外観イメージが異なりますが、重量軽減とインホイールモータ駆動であることが共通しています。
軽量戦闘車両システムは車重を約15tとしています。これはC-130輸送機で1両、C-2輸送機で2両を輸送を可能にするための仕様です。
しかし、軽量化の代償として、火力も防御力も低下することを避けられません。そこで車体に火砲型と対爆型と仕様の異なる2タイプを想定しています。共通の車体で矛と盾に分けるのは、ヴァイエイトとメリクリウスの関係に近いかもしれません。
もうひとつの共通点はインホイールモータの採用です。元々、装輪戦闘車両は、一つの車輪が損傷しても、残りの車輪で走行できるという、装軌車両にはない利点が有りました。しかし、運悪くドライブシャフトや車軸など駆動装置がダメージを受けてしまうと、タイヤが健在なまま行動不能となる可能性もあります。そこで従来の駆動装置を排し、代わりに車輪に内蔵されたモーターで冗長な駆動系にしようという、アイディアです。
並行して装軌車両の電動化研究が行われており、この研究を流用しているものと思われます。バッテリーを装備することが計画されているため、無音走行やエンジン被弾時の走行も可能になるかもしれません。ただし従来の駆動機械が電装系に切り替わるため、いままでと異なる原因による不具合が発生する可能性もあります。
ちなみに、モーターの銘板に書いてあるまま「コマツ製ですねと」と解説員に聞くと、「モーター自体は日立製」と答えてくれます。コマツ製作所が関わっているのは車体のほうらしく、この問答を会場で2回聞いた。
[火砲型]
機動戦闘車と共通の105mm砲弾を使用しつつ、直射と曲射の両方が可能で、さらに大幅に軽量化を狙ったのがこの火砲型です。
105mm砲の反動を抑えるため「デュアルリコイルシステム」を搭載しています。発砲時の反動を1つ目の駐退機砲身を後退させ、2つ目の駐退機によって(仰角をとったまま)砲架ごと後退させるという特殊な反動を抑える構造を持ちます。これによって仰角をとったまま射撃した際の反動を車体へ集中しないよう2つの方向へそらし車体への駐退機、時間差でゆっくりと吸収させることで、15tの車重で105mm砲の搭載を可能にしています。
試験砲は機動戦闘車の通常の砲身を流用し、次期シミュレーションではイラストにあるように短砲身砲を採用するとのこと。短砲身の場合、弾速、射程、徹甲弾の貫通力が低下しますが、自走砲としての運用ではそれほどど問題とならないそうで、むしろ車両の小回りがきく短砲身砲がいいのかもしれません。
試験弾も短砲身砲の遅い弾速を再現するために先端に抵抗板を取り付けていました。空気抵抗で減速させるシンプルなものです。
なお、複雑な機構を持つ理由は低反動砲の開発のために、あえて軽量戦闘車の車体を使用しているそうです。事実、軽量戦闘車への105mm砲搭載は、想定運用ではミスフィットと言わざるをえません。砲口初速が不要であれば量産車は減装弾を用意したほうがよいと思われます。
[対爆型]
幾分ぶっとんだ設計の火力型と比べ、真面目に作っているのがこの対爆型です。2000年台以降のアフガン・イラクで問題となったIED(即席爆弾)。これに対抗した諸外国の装甲車の構造を踏襲しています。さらに前述のインホイールモータの採用によってさらに車両自体の生存性を高めています。
対爆型は車体をV字型にすることで、爆風を車体左右へ逸らす設計がなされています。加えて、内部への衝撃を研究するためのシミュレーションも実施されました。
さらに、対爆型は車高可変機能を持っています。爆風は距離の3乗で減退するため、数十センチの車高上昇でも効果が得られます。安全な地域では適宜車高を下げ、走行安定性を高めています。
しかし爆発に対して強化されている一方で、機関砲の徹甲弾、成形炸薬弾、自己鍛造弾のような「一点を突く」攻撃への防御は従来の装甲車と変わりません。ゲリラコマンドが強力な対戦車火器を持ち込んだり、反政府ゲリラが戦闘車両を鹵獲運用するケースもあります。このような正規軍に準じる装備を持つ相手には、重防御された車両が必要になるでしょう。
また、防衛シンポジウムの屋外展示ではIED対処システムの試作車両が公開されています。搭載するレーダーによって地中の危険物を捜索を可能としています。現時点ではトラックに載せた状態ですが、軽量戦闘車風の車両に取り付けて運用することも想定されているようです。
[展望]
パネルを見る限りでは低反動砲の試験及び、対爆車箱の試験はシミュレーションは本年度中に完了の予定です。
今後コンピュータ上のシミュレーションモデルの細密化を実施し、バーチャル空間での試験を経てから実際の試作車両の仕様を決定するそうです。「軽量戦闘車」というものがこのままの形で登場するわけではないそうですが、これらの技術が早期に活かされることに期待したいと思います。
出典:防衛省技術研究本部ホームページ 2015年6月14日利用「軽量戦闘車両システム」
http://www.mod.go.jp/trdi/research/dts2012/P-4p.pdf
「軽量戦闘車両システムの研究」
http://www.mod.go.jp/trdi/research/kenkyu_riku.html
「低反動試験砲による射撃試験」
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コメント
餅は餅屋、米は米屋
技術実証車輌だってさ。
アメリカでもMCSとか言う名前で構想されてたけどボツったし
主砲も無駄に複雑にして105mm砲使う必要あるんだろうか?
斜め底面って使ってみると爆弾では死なないけどでかくなって対戦車兵器で死ぬし意外に使いにくいのがわかって微妙なんじゃないんだっけ
どう考えてもできなさそうだけどTRDIならやりかねんと思ってしまう。
IED防護型は海外邦人の救出作戦とかに使えそう。
それよかファミリー化をもっと徹底した方がコスト面で有利だろうに
いくら実証車輛とは言えあれもこれもと欲張り過ぎな気がしないでもない
実際にやってみなきゃわからん事もあるし、でも"試しにやってみる"だけの予算が認められたのはこれまでには考えられない事だな。
合衆国みたいに"計画中止"を量産されても困るが前向きに"技術研究・兵器開発"の自由度が広がりつつあるのは良いことだと思う。
各種の先進技術を分かりやすく説明するための"想像図"だろうし
「10年後とかにこんなの出来たら良いな~」的な絵だろうから。
これから更に研究データを集めて使えそうな物と使えなさそうな物を取捨選択していく段階でしょ?。
「これ全部出来るかもよ?予算貰えばね☆(チラッ」的な意味もあるだろうし。
でー?陸と空のATDXはこんな感じだが海はねーのか海は
流石に15榴はデカ過ぎかなあ・・・・
一応wikiだけど105mmライフル砲でも初期の120mm滑腔砲並の貫通力がある砲弾もあるみたいだし
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/機動戦闘車
現代では技術の進歩によって105mm砲用APFSDSの性能は飛躍的に向上しており、ベルギーで2002年に開発されたM1060A3は侵徹力が460mmに達している。これは90式戦車で使用されているJM33の原型であるDM33に匹敵する。
敵戦車に随伴する装甲戦闘車を排除して敵戦車を丸裸にするとか敵軟目標を障害物ごと撃ち抜くとかそんな運用なら一応充分では?
海?海もちょくちょくあるでよ?
http://www.mod.go.jp/trdi/
低反動試験砲の記事もあるな
http://www.mod.go.jp/trdi/news/1412_1.html
そこで気になったのがこの記述なんだけど
今回取得したデータは、発射反動が小さい火砲の設計の基礎データとして、将来の火砲に反映される見込みです。本研究の成果により、軽量な車両等にも大型の火砲を搭載できるようになると期待されます。
って書いてあるんだけど
"砲システムを更に発展させる"ではなくあくまでデータ重視それも将来の為の"基礎データ"って位置付けてるって事はやはりただの新技術の実証試験で配備型はまた別に開発するつもりみたいだね
>でー?陸と空のATDXはこんな感じだが海はねーのか海は
DEXがそれに当たるんじゃない?
予算的に単なる実験艦を造る余裕は無いだろうし。
※11
>155mmにして99式と玉の互換性高めた方が戦力UPしそうだと考えるのは素人考えかな(^^;
流石に反動を吸収しきれないんじゃないですかね?
99式自走りゅう弾砲でも曲射で横方向に射撃したら反動があるわけだしさすがに155ミリの直射は装輪ではきついんじゃない?
仮に155mmに耐えられる装輪自走砲が出来ても大きくなりすぎるんだろうね
火力型は機動戦闘車を更に軽量化したタイプと考えればいいのだろうか?
経済性を取るのか信頼性を取るのか、難しい選択だね。
聞いた頃は試験砲の話もなかったけど…
あすか「せやな」
シーシャドウ「あなたはなんでも屋の"試験艦"じゃないですか。」
コレじゃダメ?
重量14.5トンで油気圧式サスで120mmって大丈夫か?
96式120mm自走迫が23.5トン
あるいは120mmRTと軽MAT付きLAVで良いんでね?
整備性もユニットごと交換が効くから良好じゃないかな
アメリカみたいに金があるわけじゃあるまいし
しかし、そうなると直接支援が機動戦、後方支援がこれだとするとFH70の後続火力支援車がでてくるのかw
自衛隊18番数が揃わないが出るのかな(^^;
ただでさえタイヤには大きな力が作用するのに、これじゃ渡河するときにモーター部に水が入ってえらいことになるだろ。
まぁハイブリット車両には欲しい技術ではあるけどさぁ・・・
だって水冷だし
可能性としては、エンジンからの軸駆動より電動による各輪駆動の方がシンプルで、厳しい外部環境にも強くでき、メンテの面でも有利になるかもしれない訳で
軍用装備の研究でインホイール方式に取り組むのは真っ当だと思うし、日本が潜在的な先端にいる分野でしょう。
火砲についても独創的な機構でありながら、このサイズの装甲車に105mm砲の威力を持ち込めるなら強力なもので、有効性は高いでしょうし、
米国のLAVなどは各種バリエーションを揃える一方で煩雑でコストがかかるのは事実で、それなら105mm一本で直接・間接射撃をこなしてしまおうというのは、簡潔だし、かなり野心的ではないのかな
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