空自の日本防空史62
F-4EJ改と第四世代機のウェポンシステム


文:nona


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2015年の百里基地航空祭で地上展示されたF-4EJ改

 今回はF-4EJ改に搭載された新型レーダーFCSと兵装について解説いたします。

AN/APG-66J

 F-4EJ改では、これまで搭載されていたAN/APQ-120パルスレーダーに代わり、AN/APG-66Jパルスドップラーレーダーが採用されました。

 当時の防衛装備局長である和田裕氏によると、当初、高性能なF-15戦闘機のAN/APG-63の搭載を検討したものの、大きすぎて収容できず、次に高性能なF/A-18戦闘機のAN/APG-65も、収容はできるものの構成品を分解再配置する必要がある、という理由でF-16戦闘機が搭載する小型のAPG-66が採用された、と解説しています。

 和田氏いわく、APG-66の価格については、他の2機種と比べ「圧倒的に安い」とのこと。


AN/APG-66Jの改修点

 ただし、初期型のAPG-66は、AIM-7の運用能力を欠いており、日本で独自の改造に施したAN/APG-66Jへ改造されています。これに伴い機材が大型化し重量は約200kgへ増加しました。

 改造の手間や重量増を考えると、ドイツ空軍のF-4F ICEのように、APG-65を無理やり押し込めてもよかったのかもしれませんが、それでもAPQ-120(重量290kg)からは減量できたようです。

 F-4EJの改修事業に携わった尾崎健一氏いわく、APG-66の取り付けにあたり、特に配線で苦労されたそうですが、データバス・ケーブルの採用で配線の総数は減っており、機内スペースの確保や重量軽減に効果があったそうです。


APG-66の性能

 APG-66Jは信号処理の自動化が進み、APQ-120のように搭乗員が表示感度を細かく調整することなく、迅速かつ確実に目標を発見できるようになりました。

 最大探知距離は80海里(148.2km)とされますが、これは、あくまでレーダースクリーンに表示できる最大距離。

 戦闘機大の目標が正面から接近している場合の探知距離は40海里(74km)とされ、ルックダウン下では30海里(56km)に低下します。

 海上目標を捜索する場合は、その時々の波高に合わせSEA1(対洋上1)→対地マッピング→SEA2(対洋上2)と切り替えが行われます。

 最も波が高いときに使用されるSEA2の表示範囲は20海里とされ、それだけ探知距離も低下するようですが、F-1戦闘機のJ/AWG-12パルスレーダーと比較すれば捜索能力は格段に向上しているようです。

 なお、APG-66Jは基本的にはパイロット1人でも操作が可能ですが、細かなレーダー操作は後席搭乗員が担当したほうが性能を引き出せる、ということで、これまで通り乗員2名による役割分担が維持されました。

 とはいえ、一人で扱える利点が生かされるケースもあるようで、「後席が人事不省に陥っても、前席だけでファイトできる、これはとてもうれしかったですね」と、元パイロットの織田邦男氏は語っています。


F-4EJ改が装備できる空対空装備

 F-4EJ改が装備する空対空誘導弾について、赤外線誘導弾はAIM-4DおよびAIM-9PからAIM-9L/AAM-3へ、レーダー誘導弾はAIM-7EからAIM-7F/Mに更新されました。

 AIM-9Lといえば、特にオールアスペクト射撃能力(目標がどの方向を向いていてもロックオンできる機能)がよく知られますが、レーダーアンテナとミサイルシーカーが連動して首を振る「スレーブモード」にも対応しています。

 スレーブモードは、AIM-9XやAAM-5が有するオフボアサイト照準能力と比べれば地味な改良点ですが、常に目標を真正面にとらえるボアサイト照準の必要がなくなったことで「シュートチャンスが格段に増えた」と元パイロットの倉本淳氏は評価しています。

 AIM-7についても、シュートダウン能力を有するAIM-7Fに換装され、最大射程は2倍ほどに延伸されました。

 AIM-7の射程延伸に関連し、APG-66Jのアンテナ表面には3本のIFFアンテナが装着されており、目視外戦闘をこれまでよりも現実的なものとしています。


対地および対艦装備

 F-4EJ改は対艦装備として、ASM-1又はASM-2対艦誘導弾2発の搭載を可能としていますが、かつてはGCS-1 (91式爆弾用誘導装置付き500ポンド爆弾)も搭載していました。
(GCS-1 は世界的にも珍しい装備ですから、機会があれば別個の記事で扱う予定です)

 そのほかの対地および対艦装備としては、Mk.82 500ポンド爆弾、JM117 750ポンド爆弾、CBU-87/Bクラスター爆弾、127mmおよび70mmロケットがあり、誘導爆弾XGCS-2の投下試験もF-4EJ改で実施されるなど、かつては多彩な装備を運用できたようです。

 ただし、いずれの装備もいずれもF-4EJ改よりも先に退役している、という話ですから、現在も運用できるのは Mk.82爆弾くらいでしょうか。


政治問題としても注目された爆撃計算機能

 F-4EJ改では爆撃計算機能がJ/AYK-1セントラルコンピュータに内蔵されており、CCIP(命中点連続計算)とCCRP(投下点連続計算)モードが使用可能です。

 CCIPは爆弾の命中点を、CCRPは爆弾の自動投下点までの飛行進路をそれぞれHUDに表示します。
 CCIPの機能はアメリカ空軍のF-4Eで、CCRPはF-104Cで実用化されていましたが、政府ならびに防衛庁の判断で空自機への装備は避けられていました。

 この機能が復活した頃には、少々時代遅れとなっていますが、それでも計算精度においてはF-4EJ改のほうが勝るようです。


F-4EJ改のビーストモード

 F-4EJ改では、新たにMk.82 爆弾用の3連TERラック、および6連MERラックが導入されており、最大で24発(約5.5トン)の爆弾携行能力を可能としています。

 これはF-15Jの18発、F-2の12発を上回る搭載量であり、いわばF-4版「ビーストモード」ともいえます。
 ただし、この状態での戦闘行動半径はわずか90海里に減少し、運動性も極端に悪化するため、実用性は皆無に等しいです。

 ただ見栄えはだけは良さそうですから、この状態で怪獣を爆撃する特撮映画などは見たいものです。

次回はF-4EJの搭載アビオニクスや、外装式のポッド装備などを解説いたします。


参考

航空自衛隊F-4(イカロス出版 ISBN978-4-86320-202-3 2009年11月5日)

F-4 ファントムⅡの科学(青木謙知 ISBN978-4-7973-8242-6 2016年)

永遠の翼 F-4ファントム(ISBN 978-4-89063-378-4 小峰隆生 2018年12月20日)

国会議事録
第96改国会 衆議院予算委員会 第16号 1982年2月23日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/096/0380/09602230380016a.html


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