空自の日本防空史61
F-4EJ(改)


文:nona


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2018年の百里基地航空祭で展示されたF-4EJ改

F-4EJ の寿命延長計画

 1980年の5月、防衛庁と航空自衛隊はアメリカに調査団を派遣。その目的は、当時アメリカ空軍が進めていたASIP(航空機構造保全プログラム)の調査にありました。

 ASIPは、在来機に適用することで耐用命数の延長ができるとされ、空自機に適用した場合、F-4EJの耐用命数が5000時間、F-1戦闘機の寿命を4050時間に延長できることが確認されています。

 特にF-4EJは寿命の延びが大きかったのですが、それゆえ時代の変化に対応した能力向上も必要、ということで、防衛庁および空自は1981年に、13億円の予算で改修内容の検討を実施。

 1982年度以降からは実機へ試作改修を施すため、85億円の予算が要求されています。
 しかし、国会上で野党議員から「導入時に撤去されたはずの爆撃計算機能が含まれている」などの理由で批判をうけ、1982年の2月10日からF-4EJ関連予算の審議は一時凍結を余儀なくされています。

 とはいえ、そのまま計画を中止する訳にもいかないため、政府ならびに防衛庁は、「その機能は最近における軍事技術の進歩等を考慮すれば、他国に侵略的、攻撃的脅威を与えるという誤解を生ずるおそれは、全くないものである。」という統一見解のもと、年度末のぎりぎりで予算を承認しています。


F-4EJ改の配備

 F-4EJ改の試作改修機は1984年7月17日に初飛行し、さらなる試験を経て、1987年度予算で8機ぶんの改修予算(1機あたり18億円)が計上されています。

 F-4EJ改の部隊配備は1989年の11月、小松の第306飛行隊から開始され、1995年に沖縄の第302飛行隊への配備をもって完了しました。

 1987年当時、空自は127機のF-4EJを保有しており、うち100機に対する改修が検討されていますが、実際に改修をうけたのは90機。

 残るF-4EJのうち15機は後述のRF-4EJに改修され、それ以外の機体は2001年までに第一線部隊から退き、モスボールないし訓練支援などで用いられています。


第四世代機に近づいたF-4EJ改

 F-4EJ改の改修箇所はレーダーFCS、セントラルコンピュータ、電子戦装置、航法装置、敵味方識別装置、無線機、コクピットへのHUDおよびHOTAS概念の導入など、多岐にわたります。

 F-4EJの改修事業に携わった元三菱重工社員の尾関健一郎氏は、同機について

「第四世代機に近いと思います。能力はF-15と同等だと、私は思っています。」

と語ります。

 もっとも、F-4EJ改の配備当初は、さまざまな不具合が見つかったそうで、尾関氏は、現場の飛行隊長から「非常に厳しい要望、指導」があったとしています。

 しかしながら、この時の経験が、後のF-15Jに対する近代化改修事業で役立っている、とのこと。


RF-4EJ偵察機

 1990年からはF-4EJからRF-4EJ偵察機への改造も行われています。
 当時、空自では14機のRF-4E偵察機を保有していたものの、導入時に必要数を確保できず、穴埋めとなる機体が求められたのです。

 RF-4EJは機首にセンサーを内蔵したRF-4Eと異なり、任務に応じた各種の偵察ポッド(LOROP,TAC,TACERの3種類)に対応しており、機関砲もそのまま搭載されています。

 ただし、15機のRF-4EJのうち、7機はLOROPポッドのみ運用が可能な限定改修機であり、早期に退役しています。

 残りの量産改修機はアビオニクス類をF-4EJ改と同等品に換装していますが、レーダーFCSは旧式のAPQ-120、光学照準装置もAN/ASG-23をそのまま搭載するなど、戦闘能力は限定的です。

 また、RF-4Eが搭載するAN/APQ-172対地航法レーダー(当初はAN/APQ-99)、AN/APD-10SLAR側方偵察レーダー、KC-1B地図作成カメラなどの機能を代替するポッドはなく、こうした機材が必要な任務ではRF-4Eが投入されます。


新世代のインターフェイスを持て余す

 F-4EJ改では、能力向上の一環で操縦や戦闘の自動化も進んでおり、尾関氏は


「すべてセントラルコンピュータが計算して、ヘッドアップディスプレイが、こちらに行け、今ミサイルを発射しろ、と表示します」

「パイロットの感覚、経験、技量に頼っていたのが、すべてコンピュータでやるようになりました。」

と同機を評価しています。

 一方、ベテランのファントムライダーは、これを手放しでは喜べなかった様子。元パイロットである吉川潔氏は、機械に指示されることに関し、「これで苦労した」と語っています。

 特に、コクピットに導入されたHUD(カイザーKM808)のデジタル表示には慣れず、無意識に視線を下ろし、計器を見てしまったそうです。(逆に、アナログ計器がそのまま残った点は好評でした)

 また、吉川氏はHUDが着陸時に「邪魔でしょうがない」と、表示を切っていたことも告白しています。
 若手のパイロットはHUDの扱いにすぐ慣れたようですが、第301飛行隊長の織田邦男氏は、若手がHUDによる簡単な着陸になれきってしまうことを危惧し、HUDなしで着陸する訓練をさせていた、とのことです。


HOTASの扱いで下剋上

 HUDと同様に、HOTAS(ハンズオン・スロットル&スティック)の扱いもベテランパイロットを困らせる存在でした。

 HOTASとは操縦桿とスロットルレバーに主要機器の操作スイッチをまとめることで、戦闘中の手放し操縦をふせぐ、というアイディアのもと導入された概念ですが、指先の操作は複雑化しており、特にベテランパイロットでレスポンスの低下を招いたようです。

 あるとき、織田氏の飛行隊で、状況に応じた武装の使い分けを訓練するため、1対1の空中戦大会を実施したところ、一番若く経験の浅いパイロットが優勝してしまったそうです。ベテランが後れをとった一因は、HOTASによるところが大きい、とされます。

 ベテラン、と呼ばれる人になると、新技術による便利な機能をおせっかいに感じたり、緊急時にそれらが故障することを案じ、昔のやり方を重視する、というのはよく聞く話ですが、F-4EJ改においても、でもそうした例はあったようです。

 ちなみに、吉川氏は最新世代機の操縦について「若い世代はテレビゲーム世代で、その次のスマホ世代は新しい戦闘機をさらに使いこなせるよ」と語っています。

 F-4EJの後継であるF-35戦闘機はタッチパネル操作に対応するものですから、それを意識してのことでしょうか。

 ただし、吉川氏は電気系統を喪失した時のことを考えずにはいられないようで、この点においては、F-35に不安を感じているようです。

次回はE-4EJ改の改修内容について詳しく解説いたします。


参考

永遠の翼 F-4ファントム(ISBN 978-4-89063-378-4 小峰隆生 2018年12月20日)

航空自衛隊F-4(イカロス出版 ISBN978-4-86320-202-3 2009年11月5日)

F-4 ファントムⅡの科学(青木謙知 ISBN978-4-7973-8242-6 2016年)

F-4EJ/RF-4Eファントム写真集

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