2018年陸上装備研究所一般公開見学レポート

文・写真:海猫



 2018年陸上装備研究所において一般公開行われ、またトークショーやその他新しい催しにより昨年以上により多くの来場者数があったようです。
 今回はそのもようをお伝えします。

防衛装備庁と装備政策の解説
田村 重信 外園 博一 吉田 正一 吉田 孝弘
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 相模原市中央区淵野辺に所在する陸上装備研究所はかつて70年ほど前に陸軍兵器学校や相模陸軍造兵廠があった矢部の隣淵野辺駅の北徒歩11分の位置に所在します。
 1952年保安庁技術研究所設置以降1957年に防衛庁技術研究所相模原試験場が新設され、時を経て2006年に目黒の第1試験場と相模原の第4試験場を統合して陸上装備研究所を新編、

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2015年の省改革により現在の防衛装備庁陸上装備研究所となり、陸上装備に関する研究試験評価を行っています。

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「防衛装備庁パンフレット」より引用

 
今回は晴天に恵まれ、やや暑い日差しではありましたが風も強く、比較的涼しいなかでの一日であったと思います。
 事前に用意していた質問の半分くらいしか質問できませんでしたが技術者さんに直接話を聞かせていただけた中で想像以上により多くの知見が得られ、非常に収穫の多い一日でした。
 以降各要素ごとにまとめ、その結果を紹介していきます。

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まずパンフレット及びパネル展示から紹介していきます。

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「防衛装備庁 先進技術推進センター」パンフレットから以下引用


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 パワーアシストスーツは現在50kgの装備を着けて走る事が可能で徒歩ではなく走行が可能なパワーアシストスーツは本システムが世界初だそうです。
パワーソースはバッテリー駆動でこれから富士に行ってより実践的な試験評価を行うそうです。

 またヒューマン・ロボット連携技術。これはまた後ほど紹介ますがレーザーセンサーによるモーションキャプチャー技術により身振り手振り、具体的には手を挙げた人について行く、”停まれ”のジェスチャーをするとその場で静止する等の研究を行っているそうです。

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「防衛装備庁パンフレット」より以下引用

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シーバスター研究

 これは通常の炸薬・弾頭の前にHEATを配置する事で甲板あるいは外板を貫通し内部での弾頭の破壊効果を狙ったものです。
展示品ではHAET直径はA4用紙の横幅程度でちょうど中華鍋のような構造でした。

 その後方に位置する弾頭部は弾頭直径はA4用紙の縦幅程度で形状は46cm砲の九一式徹甲弾によく似た形状でした。
弾頭部自体にもある程度の貫徹能力があり、HAETが穿つ穴より更に進入する能力を期待されているようです。

 モックアップが展示されており、撮影禁止でしたが次に記憶を元に簡単な模式図を貼ります。

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 シーバスター研究はあくまでも対艦誘導弾の弾頭研究で云わばHEATを応用して対艦攻撃において内部の破壊をより効率的かつ大きく出来ないかというものなのでそれだけでどうこうというのは考慮されてないようです。

 例えば空母の甲板が水平防御されていた場合に穴を穿ち、ハンガー区画やその下まで穴を開けて弾頭の爆発により内部から大きく破壊する。
あるいは駆逐艦の外板等に穴を開けてより深く侵入し、CIC含む内部から破壊するという目的です。

 一見タンデムHEATと似てはいますがタンデムHEATがメタルジェットによる侵徹×2なのに対して本要素はあくまでもHEATを応用して艦最深部に徹甲榴弾頭を侵入させるもので。
”とどめを刺す”のであればこれとは別に長魚雷等が必要なのは変わらないそうです。
対地方面の応用ではバンカーや地下壕への攻撃も視野に入れているそうです。

 併せて展示されていた対地弾の研究を紹介します。

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対地弾研究

 直径A4用紙の縦幅ほどの大きさの円筒形モジュールの表面に多数のHEAT状の穴が穿たれた弾体が展示されていました。

 こちらは合衆国空軍の自己鍛造弾クラスターと同じ効果を狙ったものですが運用は小弾頭ディスペンサーに近いもので目標上空を航過しながら各自己鍛造弾システムを一斉起爆することで円形のキルゾーンを形成します。

 各自己鍛造弾は微妙に角度が異なって配置されており、全体が円形を構成するように配置されていました。

 弾道特性から巡航タイプのミサイルが主な目的ですが発射体次第ではMLRSからの運用も不可能では無いらしいです。

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ハイブリッド動力システムの研究

 エンジンとモーターを積んでいますがエンジンは発電専用、云わば”統合電気推進”のようなもので汽動推進は不可能です。
ただし電気推進はレイアウトの自由度が特長で水陸両用については設計次第。
装輪化や小型化も目指しているようです。
速力も非常に速く停止は回生ブレーキを併用して急停止が可能。
燃費は73式装甲車に対して44%以上。

 ただしこれは現状の比較でこのままではバッテリーや駆動系に大きくスペースを取られているのでこれらの小型化が課題らしいです。
ちなみに動画では走行時完全に覆帯の音しかしませんでした。

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 本要素は予定通りの結果を得られた為成功裏に終了し、現在は自衛隊さんサイドの採用待ちの段階だそうです。

 採用するのかしないのかという点で疑問が浮かんだ点もあるとは思いますがその事に関しては最後のほうで解説します。

 またトークショーでは動画と共に以下の要素研究のお話を聞かせていただきました。
爆発物探知ロボットの研究拭き取り式 吸い込み式遠隔操縦式で車体寸法は約1m以内四方で重量は30kgアームは5段階の間接を用いて最大1.5mまで展張可能。
アームで物を持ち上げるのは難しいですが工作くらいは可能らしいです。

次は地上展示を紹介します。

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IED走行間探知技術

 2016年のトラックの展示に対して今年は高機動車での展示でしたがこれはシステムの小型化及び耐久性能の向上を実現したものらしいです。

 ただしシステムの特性上雨や霧等で探知範囲に影響が出るのは免れないそうです。
一方意義があるかは断言できないが無人車両や装甲車両への搭載運用も技術上は可能らしいです。

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センサ部の構成は下の板状のアレイがマイクロ波。
中央部の光学センサ部が赤外線。
最上部の板状のアレイがミリ波に対応しています。

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 AAV7の実物大モックアップも展示されていました。

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 これは搭載装備品のマッチングを検証するもので現在も各種装備品の試験に使われています。

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ヒューマンロボット連携技術の研究

 このレーザーセンサーで人を検出するシステムですが基本的に人のように四肢を有する物ならマネキンでも反応するらしいです。

 操作方法は先にも説明しましたがジェスチャーによる操作には理由がありまして従来型の端末を介する操作では端末を破壊された、あるいは要員が負傷した場合そこから使えなくなる欠点があります。

 そこで航空機を誘導する要員あるいは犬に指示するように両手を使った大きなジェスチャーで例えば手を挙げた人について行く、両手で呼ぶ動作で呼び寄せる、待てのジェスチャーでその場で静止させるといった操作を研究しているらしいです。


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 レーザーセンサーシステム自体は大きい飲料缶ほどの大きさまで小型化して完結されており、人の頭上に置くなどしての情報収集も可能。
モーションキャプチャーとしての応用も可能らしいです。

 またある特定の個人を捕捉した場合目の前を別人が横切っても互いにすれ違っても捕捉し続ける能力があり実際に展示されていました。(厳密にはブースに居て人が行き交う中ずっと捕捉され続けました。これは各軸線が交わるしゃがみ姿勢でも捕捉し続け、また銃を構える姿勢もモニター上に反映されていました。)

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16式機動戦闘車

 ちなみに既存の装備品については爾後一般に知られていない情報に絞って質問した内容を紹介します。

 モジュール装甲部に対戦車砲能力を持たせる事は技術的には可能らしいですが重量に悪影響が出るので現状試みてはいないそうです。
手動装填ですが自動装填では対応が難しいような弾体長の砲弾もある程度は対応可能らしいです。

 塗装について実はIRステルスを目的とした塗料の研究も行われており、PSO素子といったものの応用、例えば電流を流す事で周囲の温度変化に合わせる研究もしているらしいです。

 懸下装置については普通に民間でも使用される独立懸下装置ですが設計の工夫により105mm砲の運用を実現したそうです。

 弾薬スペースに人を乗せられるかについては5段階目の試験で検討されたものの量産では採用されなかったそうです。
これは当時配備先が決まっていなかった事によるものかと。
煙幕は砲塔のセンサーと連携していて敵脅威を探知し次第自動発射・手動発射を車内から選択可能らしいです。

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 センサーシステムはまずレーザー検知器で照射元範囲を特定後車載のサーマル等で照射元を特定する対処でこれは16MCVも10MBTも同様だそうです。

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10式戦車

 48t時の外観については多少の変化はあるかもしれないが大きく変わる事は無いそうです。
覆帯カバーや設計等によるIRステルス機能は車載センサーで試験したもので01軽MATや各種個人携行装備でも大きな差は無いだろうとの事です。

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軽量戦闘車両システムの研究

 現在本要素は整地での走行試験が終了し、不整地の試験についてはこれから行う予定らしいです。
インホイールモーターシステムがあらゆる点でどれほどの抗堪性をもたせられるかは今後検証していくそうです。

 走行デモも行われましたが超信地旋回を行い、また走行中は非常に静かというか民間のハイブリッド車並。
戦闘車両にしてはほぼ無音というレベルでした。

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 外見から装甲車としての採用案の提案は珍しくないのですが(フクスに似ていますし)
実はこの軽量戦闘車両システム中というよりキャビンから直接アクセスできる空間は狭いです。
左ハンドルで右が助手席になるのですが右後方の空間が奥行きが天井のベンチレーターが入るくらい。幅は中心線よりやや運転席側に寄る位の空間です。

 またインホイールモーター含めてまだ試験評価中でしてこの車両自体もインホイールモーター研究の為だけに作られた車両でありますが

 一方でフクスに代わる需要があれば。あるいは消防で耐熱・特殊災害対応の不整地仕様の需要があるか警察の特型警備車の不整地仕様の需要があればこの外観デザインの流用はいけるのではないかな思います。

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 また走行展示では超信地旋回を行い、また高度な静粛性を披露しました。

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 資料室側では軽装甲機動車が展示されていました。

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 以降は今回の展示ではお話のみ聞けた120mm迫撃砲の誘導弾研究のお話と展示には無かった既存の装備品について聞かせていただいた質問等を紹介します。

120mm迫撃砲誘導弾システムの研究

 現在研究開発されている120mm迫撃砲の誘導弾システムではレーザー誘導及びGPS/INS誘導の両方を研究中です。
現在はレーザー誘導システムのほうは航空機から吊下しての地上目標の捕捉に成功。
GPS/INS誘導システムについてはプログラムシミュレーターにより理論上の技術実証に成功しているようです。

 誘導システムの構造としてはスリップリングと動翼によりライフリングで発生する回転運動を抑止、中間段階最高高度から地上目標の捕捉を開始して弾着を補正する仕組みです。
ただしシーカーの限界から目標照準は半径1km以内で低速で移動する車両や舟艇なら捕捉可能ですが
高速で移動する車両は極めて難しいそうです。

 また本要素はミサイル部門との技術協力で進められており、別に155mm榴弾砲や127mmないし5インチ砲への応用は理論上不可能では無いもののそれらのカノン砲形態の場合迫撃砲に対して約60~70%増の衝撃が加わるらしく現状で対衝撃性の確保が難しいらしいです。

 また61mm及び81mm迫撃砲も大きさ上小型化が難しく特に炸薬が減る特徴があり120mm迫撃砲だと通常の無誘導弾に対して3分の1になるらしくまた1発あたりの値段も約100倍近くになるらしいです。(ただ81mmは検討中との事)

また本システム自体は弾頭と一体型ですが将来的に誘導部だけ独立し、通常弾頭の信管部に後付けする事で誘導可能にするキット化の研究もされるらしいです。
レーザー誘導の実証試験においても夏場は問題無かったのですが冬に試験したところ雪による光波の乱反射で誤作動を起こしたらしく、それはプログラムの補正で対処できたようですが他にも霧等の天候の影響を受けるのは避けられないそうです。

ちなみに画像誘導ですが過去にライフリングによる回転運動に合わせて画像補正して処理する技術研究をされていたようですが画像処理が非常に難しいそうです。
レーザー誘導システムの小型化については20mmの研究もされたようですが小型化が極めて難しかったそうです。

装輪装甲車(改)

 試験段階から一部で(これ96APCでも良くね?)という意見も無くはなかったそうで。
現場でも三菱のMAVが早期から完成度が高い状態で公表していた事もありそちらを有望視している意見もあるようです。
小松に決まったのは入札で安く提示された以上そちらを選ばなければいけなかった&事業の住み分け等の政治的意向があったかもしれないらしく。
ただ小松さんサイドも装輪装甲車(改)でケチがついた形にはなりますが軽装甲機動車や96APCの完成度もそこそこ高く運用面ではそれほど不満は無し。オーストラリア軍から高評価を受けたというのも事実だそうです。

92式浮橋

 あくまでも河川の運用が目的で本システムは湾内での活動は波の影響等により不可能だそうですが現在車載ポンツーンのような研究を別で行っているそうです。

 最後にこれら研究試験評価中の装備品及び各要素が実際に採用されるかという話をさせていただきます。
これは40mmテレスコープ弾やRWSも含まれるものです。
ちなみに自分も直接見学に行くまでは全く知らず、あらゆる要素研究や運用、応用を技術者さんから直接聞いて分かった事なのですが防衛装備庁の最先端の要素研究というのはあくまでも
”こういうことが理論上可能かもしれない”
”良し、じゃあ実証してみてその知見を得つつ実用化の可能性を調べて見るか”
であって”現実に可能か否か”のデータを取れればそこでいったん終わり。

 そこから先、”実用性があるかどうか”分かりやすく言うと自衛隊さんサイドがそれを装備化したいと思うかどうかについてはそこから先の話で具体的な装備化と云うのはまた別の話だそうです。

というのも装備研究で行われる各研究試験評価は
いざ「その機能が欲しい。」という時から研究開発を始めても時間とお金がかかり、実用化する頃には戦争は終わっている。そうならない為に可能なうちに出来るだけ早く、平時から研究及び実証し、必要が出てきた時に備えて短期間で装備化できるようにその技術を持っておくというのが各要素研究の主な目的だそうです。

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「防衛装備庁パンフレット」より引用

 
長くなりましたが以上をもちまして2018年陸上装備研究所一般公開見学レポートを終わりとさせていただきます。
 最後までご覧いただきありがとうございました。


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