空自の日本防空史42
移動レーダーと移動警戒隊の発展 その2


文:nona


 
地上レーダーシリーズの最終回は1980年代以降の移動レーダーを解説いたします。

電子戦の技術 拡充編
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システムが小型化したJ/TPS-101


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航空自衛隊五十年史P283より
J/TPS-101


 1981年から配備されたJ/TPS-101は、J/TPS-100の反省から管制機能は縮小、通信機能も対空通信用のUHFと対地通信用のHFの二種として、OH(見通外通信)の機能を別部隊へ分離、必要に応じ一体運用とすることで、部隊のコンパクト化を図っています。

 製造企業はJ/TPS-100の日本電気から三菱電機に代わり、アンテナはプレーナアレイから、8角形のパラボラアンテナへ変更されています。
(J/TPS-100の「M-3D」という通称に対し、J/TPS-101では「M-3D改」と呼称されることがあります)

 見た目は少々古臭くなっていますが、J/TPS-100よりも新しい技術が採用され、性能は同等と考えられます。

 またパラボラ部はメッシュアンテナとなっていますから、風の影響をいくらか減じる効果があるかもしれません。

 J/TPS-101は81年から1989年までに10個の部隊へ配備され、空自の移動警戒隊は12個へ増加しました。

 さらに術科学校と硫黄島に2台が固定式として配備されましたが、こちらは運用方法の関係で管制用コンソールが増加しています。


世にも珍しい円筒フェイズドアレイレーダーJ/TPS-102


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http://www.mod.go.jp/asdf/nacw/1m/index.html
第一移動警戒隊が公開したJ/TPS-102

 1992年には現行型であるJ/TPS-102の配備が始まっています。製造企業は再び日本電気となりました。

 J/TPS-102のアンテナはシリンドリカル・アクティブ・フェーズド・アレイ方式が採用され、円筒部の内面には多数のアンテナ素子が並でおり、円筒部を回転させることなく、全方位を走査できるそうです。

 これにより走査間隔を大幅に向上させ、機械故障のリスクを減じ、耐風性も高めています。

 一見いいことずくめではありますが、J/TPS-102以外でシリンドリカル・アクティブ・フェーズド・アレイを採用した例はほとんど聞きません。

 現在陸自が導入中の対空レーダーJTPS-P25では四面にフェイズドアレイを配置する方式が採用されています。

 なお、J/TPS-102は以前の機種で見送られていたBADGE(後にJADGE)とのデジタルデータリンクを実現しており、防空組織との連携も強化されています。

 通信システムは必要に応じてJ/TRQ-504、または最新のJ/TRQ-506OH通信装置と連接され、後者は最大速度26Mbpsの大容量のデジタル多重通信装置を備え、システム内のLANを介し各種データファイルや動画などメディアファイルの送受信が可能です。


減勢しても仕事は減らない移動警戒隊

 J/TPS-102の配備開始時点で空自には12個の移動警戒隊がありましたが、悪化する財政の中、高価なE-767早期警戒管制機と導入予算を食い合うことになり、7個部隊への導入にとどまっています。

 装備更新を受けなかった5個のJ/TPS-101部隊は2005年までに解散し、その後J/TPS-102運用部隊同士も統合。2018年現在は千歳・入間・春日・那覇の4個の移動警戒隊に集約された模様です。

 移動警戒隊に求められるレーダーサイトの補完という任務は、E-2CやE-767などの航空機と重なる面も多く、また陸地から遠く離れた海上や低高度域の監視は航空機のほうが適任です。

 しかし、地上に設置される移動レーダーは航空機のように頻繁な交代を必要とせず、長期間その場に留まり任務を継続できるため、レーダーサイトの運用中断対処において欠かせない装備です。

 さらに、情勢の変化もあり2016年に与那国島へ移動警戒レーダーの配備用地が確保され、2019年度開始予定の次期防衛力整備計画では小笠原諸島でも同様に用地確保がなされる見込みです。

 こうした地域には恒久的なレーダーサイトを建設すべきなのでしょうが、迅速に対処する必要から当面は移動レーダーが防空の目となるようです。


激務の移動警戒隊

 仕事がなくなりそうにない移動警戒隊ですが、所属隊員は本来の特技職に加え、トラックの運転整備、展開作業時の土木作業など、一人で複数の役をこなす必要があるうえ、1カ月以上の移動が年に何度もあるなどの激務で知られています。

 こうした勤務態様に鑑み、空自では早い時期から手当の支給が検討されたものの、なかなか実現できず、1990年に30日以上の運用中断対処任務で日額560円を支給の「移動警戒作業手当」が認められたそうです。

 さらに隊員の長期展開の負担を軽減するため、移動警戒隊では自活車(ベッド6台と簡易キッチン、シャワー、トイレを装備するトラック)、荷台を広げられ休息スペースとなる拡大車両、トラックの荷台に調理室を設けた炊事車など、陸上自衛隊の野外装備よりも長期任務を考慮した導入されています。
(展開先がレーダーサイトなら外来宿舎を借りられそうですが、どうなんでしょう。)

 ちなみに「航空自衛隊五十年史」という資料は空自の正史であるため、個々の隊員の苦労話は割愛されていますが、警戒隊や移動警戒隊勤務者の待遇は比較的詳しく記載されており、切実な問題だったことが伺えます。

 次回は1980年代に拡充された空自・基地防空隊の装備について解説いたします。


参考
日本の防衛戦力③航空自衛隊(読売新聞社編 ISBN4-643-87032-X 1987年5月14日)
航空自衛隊五十年史(航空自衛隊50年史編さん委員会編 防衛庁航空幕僚監部発行 2006年3月)
航空自衛隊「装備」のすべて「槍の穂先」として日本の空を守り抜く(赤塚聡 ISBN978-4-7973-8327-0 2017年5月25日)
航空自衛隊入間基地 SPECIAL FEATURE 023


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