イギリス海軍ドック型輸送揚陸艦アルビオン


文・写真:nona


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 今回は2018年8月4日に東京の晴海埠頭で一般公開されたアルビオンを見学してまいりました。

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 アルビオンはイギリス海軍が保有するドック型輸送揚陸艦で、前任のフィアレス級揚陸艦の後継として2003年に就役しました。同型艦にブルワークがあります。

 アルビオンの航海は今年4月11日に始まり、これまで極東地域での北朝鮮による海上密輸の監視と、各国との共同訓練を行ってきました。

 アルビオンの全長は178m、全幅28.9m。排水量は状況により大きく変動しますが、最大時では2万トン前後のようです。

 アルビオン艦尾に舟艇用ドッグを有し、最大で4隻のMk.10型LCUを搭載しますが、ヘリコプター格納庫はありません。

 ヘリコプター揚陸はこれまで揚陸艦オーシャンが担当していますが、イギリス国防省は予算不足につき、同艦をブラジル海軍へ売却する契約を結んでおり、今後はエリザベス級空母がヘリコプター揚陸を担うようです。

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 艦首のファランクスCIWS。就役当初はゴールキーパーCIWSを搭載していたのですが、直近の改修でファランクスCIWSに換装されました。

 ゴールキーパーを撤去した理由は不明ですが、何かしらの不都合があったのかもしれません。

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 写真中央のアンテナは2011年の改修で搭載された997型三次元対空レーダーと統合型電子戦装置です。テニスボール大の目標を探知し、マッハ3までの目標の追跡能力があるとのこと。

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 アルビオンに多数搭載されているBvS10ヴァイキング。Armoured All Terrain Vehicle(装甲全地形対応ビークル)と呼ばれるように、水上、雪上、山岳地、水害地域など、あらゆる環境での運用実績がありますが、特に軟弱地での高い走行能力に長けています。

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 BvS10のベースとなったのはスウェーデンのBv202/206で、同国の雪上や泥炭地、湖沼に対応する車両として開発されました。

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 イギリス海兵隊は冷戦期にノルウェー支援のためにこの車両を保有していましたが、これに近い環境であるフォークランドで大いに活躍しています。

 2000年代にはBAEが新たにエンジンを強化したBvS10として再設計し、近年ではアフガニスタンの山岳地帯へ派遣されています。

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 日本においてもBv202/206とその発展型を保有する自治体があり、航空自衛隊は佐渡島分屯基地に雪上車として配備しています。

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 海上走行を第一とした設計ではないため、スピードが求められる敵前からの上陸作戦には不向きですが、フォークランド戦争の例のように、敵の主力から遠く離れた地点から上陸、通常の車両では通行できない軟弱地を走破、敵の背後から攻撃を仕掛ける、といった作戦には有効なようです。

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 こちらはMk5型LCVP。1個小隊相当の人員と装備を輸送できる小型の上陸舟艇です。アルビオンはこれを最大4隻を搭載します。

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 艦内の車両区画。ここも大量のBvS10が格納されていました。

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 アルビオン艦尾の舟艇用ドッグ。

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 左舷側に2隻のMk.10型LCU(汎用揚陸艇)が格納されています。LCUはチャレンジャー戦車など車両又は1個中隊相当の人員の輸送が可能です。

 LCUは数日間の単独航海が可能な航続距離が付与されており、母艦を対艦ミサイルの危険にさらすことなく地上部隊を揚陸できるのですが、

 フォークランド戦争においては、8時間ほどの夜間航行の間に隊員を波しぶきや雨風にさらし続けてしまい、部隊を疲弊させてしまう一面もありました。

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 右舷側は車両と複合艇が格納されています。

 なお、ドッグの甲板と舷側に緩衝材として木材が使用されていました。耐火性が気になるところですが、水を張って湿らせておけば...実は安全なのかもしれません。

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 軟弱地にひいて車両のスタックを回避する機材だそうです。

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 隊員のみなさん。海軍・海兵隊の所属を問わず、入れ墨をされた方が多いです。

 入れ墨については自衛隊はもちろんのこと、近年ではアメリカ海兵隊も禁止にしているのですが、イギリスにおいては(今のところは)伝統として認められているようです。

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 チャーチル首相を彫り込む風変わりな隊員もいるようです。

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 ヘリ甲板で展示されていたジャッカル装甲偵察車。

 2010年ごろから導入されている車両で、12.7mmと7.62mmの銃座を有し、車両側面は防弾鋼、車底は対爆構造となっています。

 しかし屋根は存在せず乗員はむき出しという、割り切った設計の車両です。

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 ジャッカル搭載の12.7mm重機関銃。

 今回の公開では展示品の実銃はおさわりOK。2012年ごろまでは自衛隊の基地祭でもそうした機会があったのですが、現在は自粛されています。

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 グロック17型拳銃(第4世代)とポリマーホルスター。

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 警備隊員が構えるL85A2小銃。(それよりもチープカシオのほうが気になります)

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 L129A1狙撃銃。2009年に採用されたAR-10をベースの7.62mm弾の狙撃銃です。

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 L7機関銃のバリエーションであるL8機関銃。どちらもFN-MAGがベースになっています。

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 ジャベリン対戦車ミサイルの発射器。

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 NLAW(次世代軽量対戦車火器)対戦車ミサイル。スウェーデンが開発した携帯式の対戦車ミサイルで、MBT LAW、Rb57とも呼ばれます。

 誘導方式は予測照準戦一致 (PLOS) /と慣性航法の複合で、射手が3秒照準を継続すると弾道コンピュータがコースを計算し、発射後は自動でコースを補正しつつ目標へ飛翔します。

 トップアタックモードを選択した場合、磁気光学信管で斜め下方を向いた成形炸薬を起爆させ、目標の上部装甲を貫徹します。

 射手は射角や見越し角を計算する必要がなく、構えてから約5秒で発射できる即応性がウリのようですが、有効射程は固定目標で600m、移動目標で400m以内と(ミサイルとしては)短く、重量12.5kgとかなり重いです。

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 L134A1グレネードランチャー。元はH&KのGMWグレネードランチャーです。左右からの給弾に対応したり、工具なしでの銃身交換を可能としています。

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 アルビオン用の防御火器として舷側に設置されたミニガン。そばの水路を船が行きかうもので、ついつい照準したくなりますが、やめておいたほうがいいかもしれません。

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 ミニガンの電源らしき箱。

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 同じく防御火器として設置されるM2重機関銃。アルビオンで展示された銃火器の中では珍しく、光学照準器が装着されていませんでした。

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 ミニガン、M2共に銃座下部は分厚い防弾板で覆われています。海自艦ではここまで厚い防弾板は見たことがありません。

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 大盤振る舞いのレーションの試食会。

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 イギリス軍のレーションは24 Hour Rationと呼ばれ、1日分の糧食とティッシュペーパー、缶切りなどが1セットの小箱にまとめられています。

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 紅茶はどこだ?

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 海兵隊の行軍時の携行品一式。これに武器と弾薬が加わるため、上記の24 Hour Rationは通常1箱しか携帯できません。フォークランド戦争では毎日ヘリで前線に届けられていましたが、天候悪化により補給が途絶したケースもありました。

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 なお今回のアルビオン公開は炎天下の中であったため、熱中症らしき症状で搬送された方もいらしたようです。この夏お出かけの際は熱中症に留意してください。



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