空自の日本防空史37
新時代の早期警戒機


文:nona

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http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2001/photo/frame/ap133012.htm
警戒監視活動中のE-2C早期警戒機

海自との連携不備が露呈

 冷戦の終結後、日本をとりまく安全保障環境は大きく変わり、空自とE-2Cに求められる任務も変化しています。

 1999年3月23日に発生した北朝鮮の不審船による領海侵犯事件では、海自と共に不審船および周辺空海域の監視を実施しました。

 しかしながら、このときE-2Cと護衛艦の間で秘匿通信ができなかったことが判明しています。(この問題は2002年までに対策がなされています)

 陸海空3自衛隊間の連携体制の不備は1976年のMiG-25事件でも指摘されており、対策が進められていたのですが、これは総監部や司令部のレベルに留まるもので、現場部隊間の横の連携は十分ではなかったのです。


ホークアイ2000へアップデート

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http://www.mod.go.jp/j/yosan/2000/y2000.pdf#page=13&zoom=90,573,-187
平成12年度防衛力整備と予算の概要

 
2004年以降、空自のE-2Cはホークアイ2000と呼ばれるアビオニクスのアップデートが実施されています。

 防衛庁はアップデートの目的を「航空軍事技術の進展に伴い、現有の早期警戒機(E-2C)のレーダー探知距離が相対的に縮小してきていることに加え、平成11年度に発生した不審船事案等の経験からレーダー反射物の多い海域や島嶼部上空での監視能力を向上させるため、現有機のレーダー機能の向上を図る。」としています。

 また、通信機能の強化に伴いリンク16に対応し、同じくリンク16対応改修を施したF-15JやF-2の自動迎撃管制も可能になったと思われますが、JADGEやE-767を差し置いて、E-2Cが管制任務に投入されるかは不明です。

 なお、ホークアイ2000改修時にはNP2000プロペラへの換装は見送られたのですが、2017年頃より、プロペラ換装が実施されているようです。

 NP2000は複合材の8翅のブレードを有するプロペラで推進効率が高く、燃費改善や騒音低減の効果が期待できるようです。


E-2C部隊を沖縄へ

 20世紀中は全てのE-2Cが青森県の三沢基地に配備されましたが、2000年代以降、東シナ海における中国の活動が活発化したことで、2012年ごろからE-2Cの一部が沖縄の那覇基地に移動し、西南諸島空域の監視体制を補強しています。

 2012年12月13日には、尖閣諸島魚釣島南部を中国海洋局所属のY-12機が低空から領空侵犯し、これを発見した巡視船の通報をうけ、E-2Cが1機、F-15Jが8機、緊急発進する事案も発生しました。

 その後は長らく中国「有人機」による領空侵犯は公表されていないものの、領空の近くまでは頻繁に飛来しているとされ、しばしば示威行為をとっています。

 2014年4月に那覇の分遣隊は603飛行隊へ発展し、4機のE-2Cと130名の隊員で任務を継続しています。


E-2Dの配備で戦力を増強

 603飛行隊が新設された2014年の11月、防衛省は4機のE-2D導入を決定し、2019年の配備にむけ準備が進められています。

 E-2Dは2007年に初飛行したE-2シリーズの最新型で、外観は50年前のE-2Aと大差ないものの(ある意味驚くべきことですが)、レーダーは電子捜査式のAN/APY-9を搭載し、味方の艦艇や航空機から発射されたミサイルを誘導するリモート交戦機能が付与されています。

 導入検討時に同じく候補とされたボーイング737AEW&Cと比較した場合、E-2Dは滞空時間や機材人員の搭載能力で劣るものの、レーダー性能は737AEW&Cを上回る面があり、初期費用・維持費用ともに安価で長期にわたるサポート体制が見込める点などが評価されたようです。

 空自向けE-2Dの価格は1機あたり144億円ですが、予備部品代金を含めた場合の価格は約260億円で、1979年に1機86億円(部品代込み)で購入したE-2Cと比べると、(理由はあるのでしょうが)その価格には驚かされます。

 なお、E-2Dの導入後も当面はE-2Cの13機体制も維持される見通しで、E-2Cの置き換えは2020年代以降に、後述の国産早期警戒機によってなされると想定されています。


47年ぶりに国産早期警戒機を検討

 防衛省は2014年に国産早期警戒機の開発にむけた研究を、2015年度から2018年度の期間で実施する方針を発表しています。

 以前に防衛省(庁)が国産機の検討を開始したのは1967年のことなので、実に47年ぶりのことです。

 一般報道ではP-1哨戒機を母機とし、背部にロードドーム型のアンテナを搭載した姿のイメージ図が公開されていますが、実際にどのような形状となるかは、実のところ不明です。

 それどころか本当に国産早期警戒機が開発されるかについても、現時点ではよくわかっていないのですが、来年2019年には新しい防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画が開始されますので、近いうちに続報があるかもしれません。今後に注目です。

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https://news.northropgrumman.com/news/releases/northrop-grumman-completes-first-flight-of-japans-e-2d-advanced-hawkeye
ノースロップ・グラマンが公開した空自向けE-2D

 ここまでF-1、F-14、E-2と70~80年代の航空機装備を中心に解説してきたので、次回以降はレーダーサイトや基地防空隊、基地抗堪化施策など、地上の防空部隊とその装備、施設を中心に解説する予定です。


参考

航空自衛隊「装備」のすべて「槍の穂先」として日本の空を守り抜く
(赤塚聡 ISBN978-4-7973-8327-0 2017年5月25日)

E-2D Advanced Hawkeye: The Sixth Sense of the XXIst Century US Navy Fleet
(2014年8月29月 navyrecognition.com )

Northrop Grumman  E-2C Hawkeye 2000 Brochure
 (ノースロップ・グラマン )

Northrop Grumman Expands Industry Support for Japan E-2C Hawkeye Program
(ノースロップ・グラマン  2013年12月23日)

Developmental Flight Test of a Powered Approach Stability Augmentation System on the U.S. Navy's E- 2C Hawkeye 2000 Aircraft
(Robert K. Williams, University of Tennessee 2002年12月)

Detect and Direct - The Navy’s newest Hawkeye gets closer to the fight.
(Preston Lerner, Smithonian Air & Space Magazine  2008年7月)

ー自衛隊の現状と課題ー
(2002年7月13日 防衛庁)

平成12年度防衛力整備と予算の概要
(2000年 防衛庁)

行政事業レビューシート 早期警戒機(E-2C)の改善
(2013年 防衛省)

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