『F-16 エースパイロット・戦いの実録』
柏書房

Dan Hampton (原著)、上野 元美 (翻訳)

F‐16―エース・パイロット 戦いの実録

文:誤字 様

 地対空ミサイル(SAM)は登場以来各種航空機の脅威であり(1)、軍用機はこれをなるべく避けて戦うべきなのですが、当然軍用機が攻撃したい重要拠点にはレーダーや防壁を組み合わせた強固なSAM陣地が多数構築されているので、SAMを避けてばかりいては航空機が活躍する機会は大きく減じてしまいます。

 そこで現代空軍では敵のSAM陣地を無力化、あるいは破壊する敵防空網制圧 (Suppression of Enemy Air Defence: SEAD)や敵防空網破壊(Destruction of Enemy Air Defence:DEAD)という任務の重要性が増しているのですが、この新しい任務は日本では馴染みが薄い事もあってその実相があまり知られていません。

 今回紹介する本はそんなSEAD/DEAD任務を中心的に行う米空軍部隊、通称ワイルド・ウィーゼル(2)の一員として湾岸戦争やイラク戦争に従軍し、数々の危険な任務を遂行したF-16パイロット、ダン・ハンプトン空軍退役中佐の『戦いの実録』です。

F-16 完全マニュアル (Owners' Workshop Manual)
スティーブ デイビス
イカロス出版 (2015-07-18)
売り上げランキング: 239,254

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ワイルド・ウィーゼル(直訳すると野生のイタチ)の特別講座履修証、爆弾と雷を持った凶暴なイタチが危険地帯に今まさに飛び込もうとしているエンブレムは、彼らの任務を端的に表すものである。(出典:米空軍公式:http://www.nationalmuseum.af.mil/Upcoming/Photos/igphoto/2000558666/

 さてSAMを狩る専門家、ワイルド・ウィーゼルは具体的にどんな方法でSAMと戦うのでしょうか?

 ワイルド・ウィーゼルの始まりはベトナム戦争です。ベトナムのジャングルに巧妙に隠されたSA-2ガイドラインによる米軍航空部隊の被害は大きく、この対策としてF−100Fスーパーセイバーにレーダー警報装置と優秀なパイロット、それにB-52の電子戦士官を乗せて初めてのワイルド・ウィーゼルが編成されました。

 任務は簡単です、まずF−100Fが敵SAMがいそうな地域を飛んで敵に目標捕捉レーダーを起動してもらいます。

 機上の電子戦士官がレーダー電波の発生源を見つけるか敵が地対空ミサイルを発射すると敵SAM陣地の場所が分かります。特にSA-2は発射した際に煙を多く吹き出すので発見は容易でした。

 後は発見したSAM陣地に同行しているF-105Dサンダーチーフが爆弾を落とし、機銃掃射をしてSAM陣地を破壊すれば任務完了という流れです。

 これはまさに虎穴に入らずんば、虎子を得ずの故事を実践するような話で、実行には大変な危険を伴います。

 まずワイルド・ウィーゼルが対空ミサイルを発射される前に敵のSAM陣地を叩ければ理想的ですが、ジャングルの中に隠されたSAM陣地を見つけるのにミサイルを発射してもらう以上に確実な方法はありません、そして一度ミサイルが発射せれれば戦闘機の機動性と速度をもってしても回避するのは至難の技です。さらにSAM陣地は大抵高射砲でも守られているので、相手をうまく発見出来ても攻撃の際にはSAMからも高射砲からも猛烈に撃たれる事になります。

 この任務内容を初めて聞いた元B-52搭乗のEWOジャック・ドノバン大尉は次の言葉を残しています。

 「自分は無敵だと思い込んでいる、頭のいかれた戦闘機パイロットのうしろに座って、ちっぽけなジェット機で北ベトナムのSAM陣地に向かって飛び、そいつに撃たれるまえにそれを撃てというのか? 冗談きついぜ!」

 
時代が変わり電子機器が発達して空対地高速対レーダーミサイルHARMやワイルド・ウィーゼル専業のF-4GやF-16CJが使われるようになっても基本的な戦術は変わらず、ドノバン大尉の「冗談きついぜ!」(原語ではYou Gotta Be Shittin' Me:YGBSM)という台詞はワイルド・ウィーゼル任務を端的に物語る台詞として今も使われ続けています。

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イラク戦争におけるワイルド・ウィーゼル部隊の一例、一番手前のF-16のみHARMを装備している事に注意、イラク戦争のワイルド・ウィーゼルではHARM、クラスター爆弾、マーベリックなどの空対地兵器を二基装備した複数のF-16が連携してSAM狩りを行った。二基の空対地兵器以外には四基の空対空ミサイルと増槽にジャミングポット、HTS(HARM目標指示システム)を装備するのが一般的だったようだ(出典:米空軍公式:http://www.af.mil/News/Photos/igphoto/2000031778/

 
本書はF-16に乗って湾岸戦争とイラク戦争に従軍してこの危険なワイルド・ウィーゼル任務をこなし、151の戦闘任務に参加して21のSAMハードキルの戦果を上げたダン・ハンプトン空軍退役中佐が自分の軍歴を通じてワイルド・ウィーゼルの任務とその戦いを書いたものです。

 その戦いは正に”最前線”と言うに相応しいもので、湾岸戦争でもイラク戦争でも開戦日にはイラク軍SAM陣地上空を飛んでミサイルを撃たれ、撃ってきたSAM陣地にお返しの対レーダーミサイルを撃ち返しています。

 特にイラク戦争の開始は彼のワイルド・ウィーゼル任務から始まったと言ってもよいほどで、開戦日である2003年3月19日の午前5時30分に”槍の穂先”としてバクダッドの防空網外縁のSAM陣地上空を飛び、イラクの独裁者サダム・フセインを狙うステルス攻撃機F-117や巡航ミサイルのための道を切り開いています。

 その後も3月24日にはナシリア近郊での危機に陥った米海兵隊を援護するために大砂嵐の中で高度50フィート(15メートル!)の機銃掃射を敢行し、3月26日には武装偵察中に米軍先発部隊を撃退するためにバクダッドから出てきた師団規模の共和国防衛隊にかち合って猛烈に撃たれ、4月7日にはヘリによるサダム・フセインのバクダッド逃亡を阻止するために「バグダッドの全高射砲およびSAMの射程にはいって」飛行場を強襲し、大規模戦闘終了の前日である4月13日にもA-10部隊を支援するためにティクリート近郊のSAM陣地に新型のマーベリックミサイルを撃ち込んで破壊するなどの活躍をしています(なお後日ティクリートのSAM陣地そばの隠れ家でサダム・フセインが発見されている)。

 これらの戦いでは毎回のごとく「かんかんに怒っている」イラク人がSAMと高射砲、時にAK-47までもを猛烈に撃ちかけてきますが、著者は二機、多い時には五機のF-16CJの編隊長として冷静に戦闘を指揮し、デコイやチャフ、フレア、燃料を盛大に消費しながら敵のSAMを回避し、お返しに敵SAM陣地にHARM、クラスター爆弾(3)、マーベリック空対地ミサイルを発射し、さらに隙あらばバルカン砲による攻撃さえ果敢に行なっています。

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F-16CJに装備されている高速対レーダーミサイル目標指示システム(The High-speed Anti-Radiation Missile Targeting System:HTS)  HTSはレーダー波を探知してHARMに目標を指示するほか、データリンクによって他の機体と情報を共有することが出来る。(出典:米空軍公式:http://www.af.mil/News/Photos/igphoto/2000439900/

 
このような戦時の血湧き肉躍る戦いもさることながら、著者の戦闘機パイロットらしい、大胆不敵さと繊細な点を併せ持つ独特の感性を感じさせる、平時の様々なエピソードとその語り口も本書の魅力の一つです。

 本書はイラク戦争で猛烈な砂嵐の中で味方海兵隊を助けるプロローグから始まり後半はイラク戦争での戦いが中心となりますが、前半部分では著者の米空軍戦闘機パイロットとしての生活が生き生きと書かれています。

 パイロットになるまでの厳しい訓練から始まり、核戦争となれば「平均余命はおよそ九十秒」という冷戦末期の西ドイツの基地での「ぺいぺいの新人(FNG)」としてのスタート、湾岸戦争での初めての実戦参加とその後の士官クラブでのゴタゴタ、「ノーズ(機首)を上げろ」と言うと自分の鼻を上げてしまうようなエジプト人たちとの楽しい交流、「戦闘機パイロットが受けれる正式研修や訓練をすべて受けてきた」という著者による経験を交えた米空軍エリートパイロット育成過程の説明、さらに自身も巻き込まれた90年代後半の中東地域での不穏な空気や編隊長として参加した911直後の戦闘空中哨戒任務など、戦闘任務以外にも多様で興味深い事柄が多く書かれています。

 著者は時にスペインの牛追い祭りに参加し、時に中東諸国での王侯貴族のような生活を満悦し、時にグレッグというエンジニアに手伝ってもらいながらナプキンの裏にHARMの目標指示システム(後のHTS R7)の設計図を書き上げるような愉快なことをする一方で、第一線で戦った現場の軍人としてイラク軍に多くの武器を売った親切なフランス人への嫌味を忘れず、パワーポイントを使って将校用のブリーフィングをまとめただけで青銅星賞を受けた少佐を非難し、米軍で蔓延している宇宙かぶれやUAVマニアをあざけり、優柔不断な本国の政治家たちについて遠慮のない言葉で嘆いています。

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AGM-88 空対地高速対レーダーミサイル(high-speed anti-radiation missile:HARM)  SAM攻撃の切り札として配備されていたが、この兵器に対する著者の評価は散々である。90年代はHTSによるHARMの命中精度は低かったが、著者を含む関係者は性能向上のための努力を続け、2012年から生産が始まった最新型のHARMはAARGMと名を変えて電波を停止した目標にも高い命中率を得られるようになった。
(出典:米空軍公式:
http://www.nationalmuseum.af.mil/Upcoming/Photos/igphoto/2000503265/

 
著者は自ら「ワイルド・ウィーゼルなしでは、アメリカ空軍による攻撃は成功しない」というほど重要な任務について、敵SAMやこちらの兵器の解説を交えつつ実戦経験者ならではの視点でその戦術・戦いを事細かに描いています。

 特に「HARMを搭載する場所がもったいない」と言うほどの従来型の対レーダーミサイルに対する低い評価は実戦経験者ならではの生きた意見です。

 対レーダーミサイルであるHARMは敵のレーダー電波に向かって飛ぶためSAMに不可欠な捜索レーダーや照準レーダーに対する有効な武器とされてきましたが、著者曰く精密誘導が不可能なHARMではSAM側がレーダーを断続的に利用するなどの対策を取られると「地面以外のなにかに命中したのか、それとも。たまたま携帯電話でぺちゃくちゃしゃべっていた気の毒なイラク人にあたったのかわからない」のです。

 ワイルド・ウィーゼルを「飛行中に、未確認かつ予想外の可動式SAMに対して行われる特別任務」だと考えている著者は「戦闘の最前線では、つねに、積極果敢で破壊的なワイルド・ウィーゼルを決定的に必要とするだろう」と記し、それを実際に行いました。

 一方で「五十カ所以上のSAMおよび重要な防空施設を”破壊”した」第77戦闘飛行隊の一員として「HARMを発射しただけでウィーゼル任務を終えることは、きわめて危険」だとも記し、イラク戦争で「驚いたことに、敵防空施設を破壊するという案を受け入れなかったシージェイ部隊」が「戦闘現場から30マイル離れた地点の高度3万フィートで戦争をし、毎日HARMを基地に持ち帰った」ことについて 「そんなのはごめんだ」 としています。(4)

 それ以外にもデータリンクの様々な使い方や戦闘空域における僚機との連携などは実際の戦場を飛んだ人間では無いと書けないような記述が多く、現代空軍の実戦を考える上で大変価値ある一冊です。

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パッチウェラーもしくはターゲットアームと呼ばれる兵装士官の証である戦闘機兵装学校の卒業パッチ、このパッチを着けたパイロットは「戦闘機パイロット版の特殊部隊か海軍SEALSと考えてもらえばいい」らしい。米空軍のパイロットの中から選抜された逸材がネリス空軍基地でさらに徹底的に教育されるが、その真の目的は戦闘技術の習得以上に最新の知識を飛行隊全員に広めることにある。(出典:米空軍公式:http://www.barksdale.af.mil/News/Article-Display/Article/634799/weapons-school-trains-airmen-for-war/

 
また戦闘描写以外にも現代米空軍戦闘機パイロットを取り巻く環境が色々と記されているのも本書の魅力の一つです。

 どのようにしてどんな人物が戦闘機パイロットになっていくのか、また戦闘機パイロットついて米空軍はどのような考えを持っているかについて、元パイロットならではの興味深い記述が多くあります。

 特に本書第5章パッチウェアラーは米空軍組織の簡単な説明から始まり、飛行隊に配属されたばかりの「ぺいぺいの新人(FNG)」の扱いからネリス空軍基地にある米空軍最先端の戦闘機兵装学校(5)卒業までに行われる様々な訓練について事細かく記載されています。

 厳しい入隊訓練やスリリングな実戦はさることながら、キャリアの過半を占める技量を維持・向上させるための無数の試験について、また避けては通れない組織的な問題などについても言及されているので、戦闘機パイロットに憧れる若者は一度読んでおいて損はないでしょう。

 
F-35ファンの私としては『このSAMの発見・追跡にEO-DASの全周視界があれば』とか、『このSAM陣地を探すのにEOTSのデジタルズームと画像共有があれば』とか、『素の状態で増槽二つ抱えたF-16並みの戦闘行動半径があるF-35ならば』とか、『ちっこいレーダー警戒受信機の表示もF-35のタッチパネル式大型液晶カラーディスプレイならば』とか、ここで『F-35の高度なデータリンクがあれば』とか、『ここでより強力な25mm機関砲があればとかとかとか、『ここでF-35ならば』とかわざわざ考え、その有効性に改めて驚嘆するという楽しみもありました。


米軍等に訓練用シミュレーターを納品しているBattlespace Simulations社のF-16によるHARMのシミュレーション動画、左下がレーダー警報受信機でF-16がレーダー波を探知した際に適当なシンボルと音でパイロットに知らせるものである。HTSを装備したF-16CJはもう少しわかりやすい表示がなされるようだが、著者が始めてバクダット上空を飛んだ際はあまりの多くのレーダー照射を受けたためにレーダー警報受信機の表示は「字並べゲーム盤さながらに見えた」とある。

 
色々と褒めてきましたが本書でも難点はいくらかあります。

 まず我々一般人の頭では本書で書かれている地上付近を亜音速で複数の戦闘機が飛び回り、多数のSAMが発射されるワイルド・ウィーゼルの戦闘を十分に追いきれないところです。

 難しい戦闘を最低限の描写でテンポ良く描いているので普通に読み進めれば『なんかスゲー所を飛んでいる!』って感じで読めるのですが、本書に書かれた戦闘を頭の中で真面目に再現しようとするとバクダッド上空を亜音速で飛び回る2〜5機の戦闘機と何処にあるかよくわからないSAMの動きをトレースしつつ、独特の言い回しを多用するパイロットのやりとりを理解し、さらに忌々しいヤード・ポンド法を換算しつつ本を読むことになります。(私は律儀に読み解くのを半分くらい諦めて、ポコスカ撃ち上がるSAM描写を楽しむようにしました)

 またハードカバーで400ページ近い長さで内容もギッシリ詰まっているので大変読み応えはあるのですが、写真や図は最初の数ページにあるだけなので目を休めるページが無く、その写真や図も著者とF-16が主なので基礎的な現代空戦や戦闘機、地対空兵器の知識が無いと手が止まる箇所が多くなるかもしれません。

 最後に本書の邦題がいけません。本書の邦題を「F-16の”エース”・パイロット 戦いの実録」としてしまっているので、私のように空対空戦闘が主だと思って本をとる人が多いでしょう。内容は空対地戦闘が主なので昔ながらのドッグファイトを期待して読む人は肩透かしを食うでしょうし、この題名ではワイルド・ウィーゼルの戦いや地対空ミサイルについて興味を持つタイプの人々には届きません。

 
本書は現在の空軍、その中でも空対地戦闘に興味がある人には強くオススメします。

 また前半部分の米軍の戦闘機パイロット育成方法は、米空軍の強さの秘密を知りたい人々には大変有益なものでしょう。

 さらに昔の私のように『どうせ現在米空軍の話なんて圧倒的な戦力で敵地上軍を一方的にイジメて、こっちは数発のミサイル撃たれだけなのに”危険な任務だった”とか言うツマラナイ空戦ばかりなんでしょ?』とか失礼な事を思っている人には是非とも読んで欲しいです。F-15EやA-10、戦闘ヘリなどが撃たれる分のミサイルをまとめて引き受け、なおかつ反撃で敵SAM陣地を粉砕するのが本書のワイルド・ウィーゼルのお仕事です。

 もう一つ言うと昔の私のようにコソボ紛争におけるF−117撃墜について調べた際に『本来HARMでSEAD任務を行うべきF-16部隊が出撃してないじゃん、これくらいしっかりやっとけよ〜』なんてSEAD任務を軽く考えている人にも是非読んで欲しいですね。本書を読めばF-16CJによるワイルド・ウィーゼル任務が如何に過酷なものか、そしてHARMのSEADだけでは多くのSAM陣地が残されることがよくわかります。

 
一方で相手が相手なので映画「トップガン」のようなわかりやすいドッグファイトはありません(この本で書かれているのはより複雑で高度で多くのミサイルが乱れ飛ぶ戦いです)

 また空対地戦闘と言えば一番に思いつくであろうA-10による近接航空支援とは毛色が違い、地上部隊と共闘して敵装甲車に機銃掃射を食らわすような戦闘はプロローグで書かれている海兵隊支援ぐらいしかありませんので、そういったもの”しか”求めていない人には物足りないかもしれません。

 
適時必要な説明は書かれていますが内容は決して初心者向けとは言えず、個人的には現代空戦に関する知識が無い人にこの本をオススメするのは気が引けます。

 一方で現代空軍について知り始めた人、地対空ミサイルにロマンを感じる人、現代の戦闘機パイロットに興味がある人、エースコンバットでSAMをイジメて「俺TUEEEE」とかやっている人には是非とも読んでもらいたい本であります。




1)著者によれば「SAM陣地を攻撃するのは、少なくとも、敵戦闘機を撃墜するのと同じくらい困難で危険」であり、最近米軍が失った固定翼機の多くが地上砲火により失われたことを勘案すれば「空対地攻撃の”撃墜王(エース)”という称号が存在しないことに、首をかしげてしまう」ようです。

2)Wild Weaselの訳について、本書ではワイルド・ウィー"ズ"ルとなっていますがグーグル検索ではワイルド・ウィー"ゼ"ルの方が一般的なので、この記事ではワイルド・ウィーゼルで統一します。

3)SAM陣地の防壁は隠蔽や至近弾による被害拡大を軽減するためのもので、基本的にレーダーやSAM発射機は非装甲の状態です。そのためSAM陣地攻撃にはクラスター爆弾のような上からの面制圧兵器が有効です。 なおクラスター爆弾禁止条約の署名開放は2008年からなので、本書で取り上げられている2003年のイラク戦争でのクラスター爆弾の使用には何の影響も与えません。

4)多少難しい解説をすると、著者がHARMに否定的なのは封じ込めや抑止を中心とする敵防空網”制圧” (Suppression of Enemy Air Defence: SEAD)の限界を指摘するためだと感じました。60年代や70年代にはお粗末な指令誘導方式のミサイルが多くこの考えが通用しましたが、電子機器の性能が向上しSAM側が多様な誘導方式を行えるようになるとこの考えは通用しなくなります。またHARMで敵SAMのレーダーを一時的に無力化しても、SAM部隊が生き残っている間は味方航空機への脅威となり続けるのです。
著者を含むSEAD懐疑派はワイルド・ウィーゼルの任務をより索敵破壊を重視する方法に導き、イラク戦争ではHARMを補助的に使いつつクラスター爆弾等でSAM陣地を完全に破壊する敵防空網"破壊"(Destruction of Enemy Air Defence:DEAD)を果敢に行い、湾岸戦争と比べて米軍機の被害を劇的に低下させる事により自論を証明しました。

5)日本語版ウィキペディアでの「アメリカ空軍兵器学校」のこと、ここは「元々は1949年に航空機射撃学校(Aircraft Gunnery School)として開設されたものであり、1953年にはアメリカ空軍戦闘機兵器学校(USAF Fighter Weapons School)に改称され」、「1992年に航空戦闘軍団の設立に伴い、そこの所属とされ名称もFighterを取り、アメリカ空軍兵器学校(United States Air Force Weapons School)となった」ようです。

F‐16―エース・パイロット 戦いの実録
ダン ハンプトン
柏書房
売り上げランキング: 228,441

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