『イラン空軍のF-14トムキャット飛行隊』
大日本絵画
Tom Cooper (原著)、Farzad Bishop (原著)、 平田 光夫 (翻訳)

イラン空軍のF-14トムキャット飛行隊 (オスプレイエアコンバットシリーズスペシャルエディション)

文:誤字 様

 
米海軍の可変翼戦闘機F-14トムキャットはその独特なフォルムから某映画の主役機になったり某アニメの変形ロボのモデルとなったりと大変人気のある戦闘機ですが、複雑な可変翼と艦隊防空戦闘機というその特徴から採用国はわずか二カ国に限られます。

 一つは開発国であるアメリカ海軍、そしてもう一つが今回紹介する本の主役、現在も現役の『イラン空軍のF-14トムキャット飛行隊』です。

 これまでイラン空軍のF-14については導入直後に生じたイランイスラム革命とそれに続くイラン・イラク戦争の混乱により限られた情報しか伝わっておらず、西側メディアで得られる話はほとんどがその活躍を否定するものでした。

 しかしながら本書の著者は「現役及び退役イラン軍F-14パイロットとRIO(レーダー迎撃士官)、そして元イラク空軍士官たちへの徹底的なインタビュー」によりこれまで伝えられたことが「真実というよりも想像の産物」であり、イラン空軍のF-14が本家米軍に勝るも劣らぬ驚くべき戦歴をあげたことを明らかにしています。

HOBBY MASTER 1/72 F-14AM トムキャット イラン・イスラム共和国空軍 2014
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F-14A トムキャットの前に並ぶパイロット達、彼らはイスラム革命政府による弾圧とイラン・イラク戦争の激戦に巻き込まれながらも卓越した活躍を見せた。(写真引用:ウィキペディアコモンズ:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pilots_of_F14-IRIAF.jpg

 
本書はパフラヴィー朝時代のF-14導入計画「ペルシャンキング」の詳細から始まり、イラン革命の混乱とその後のイラン・イラク戦争における最初期の戦い、戦争中盤の消耗戦、そして戦争終盤のタンカー戦争におけるF-14部隊の活躍を実際に戦ったパイロットたちの証言や多数の写真資料を中心に書き上げています。

 その活躍ぶりは驚くべきもので、1980年9月前半の本格開戦前の小競り合いでミル25(ハインドの輸出版)を機関砲(!)で撃墜し、翌10月にはミグ23BNを中心に少なくとも25機の確実撃墜を記録したのを皮切りに

トルコ領空を通ってイラン領内奥深くを爆撃するスルターン攻撃作戦の護衛
一発のAIM-54(フェニックスミサイル)によるミグ23BN三機の撃破
高空を高速で飛ぶミグ25「フォックスバット」との激戦
迎撃機と対空ミサイルを合わせた「キリングフィールド」の構築
ペルシャ湾におけるシェペルエタンダールやミラージュF1EQ-5相手のタンカー防衛戦
密かに派遣されていたエジプト空軍のミーラジュ5SDEとの遭遇
最新装備の実戦テストを行うために派遣されたソ連軍のミグ27やミグ25BMの迎撃戦
戦争最終盤に行われた勇敢なミラージュF1パイロットとの『小さな戦争』

など、F-14が多種多様な環境下で様々な敵機との交戦を行い、そのほとんどで優勢に戦いを進めてイラン空軍の”防空システムの一翼”として多大なる貢献を果たした事を明らかにしています。

 このような驚くべき戦いの数々の他にも、イスラム革命後に”シャーのパイロット”たちが味わった苦難、AWG-9レーダーによる『ミニAWACS』としての運用やその電子戦の一端、信頼性が低いTF30エンジンとの苦闘、「自給自足ジハード隊」などによる稼働率維持への努力など、数多くの興味深い話が紹介されています。


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イラン空軍のエースパイロット ジャリール。ザンディー氏、F-14でもっとも多くの敵機を撃墜したパイロットで、4機のMiG-23、2機のSu-22、2機のMiG-21 、および3機のミラージュF1の総計11機を撃墜した。(引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Jalil_Zandi

 
厳しい周辺事情によりイラン軍のF-14の正確な戦果は今もって不明な点が多いですが、本書ではイランイラク両国のパイロットへのインタビューの他に米海軍の資料なども参考に、開戦時77機あったイラン空軍のF-14は革命の混乱と部品不足に終始苦しめられながらも7〜16機の損失(そのうち空戦による損失は3機程度?)と引き替えに159件の確実撃破と34件の未確認撃破/撃墜という戦果をあげ、その存在はイラク軍戦闘爆撃機に対して究極の阻止力となり、膨大な数のイラク軍戦闘爆撃機の攻撃を失敗に終わらせた という話を紹介しています。

 本書は兵器としてのF-14とAIM-54 フェニックスミサイルの素晴らしい性能を証明するのに最適である上に、空戦機動とミサイルと電子戦を頭に入れつつ戦う現代航空戦の実相を理解するのにも非常に有益です。またイラン・イラク戦争で終始数的・戦略的な劣勢下にありながらも善戦したイラン空軍の戦いは戦術・戦略レベルでの啓示に富むものでもあります。


本書では51ページと58ページに地図が掲載されているが簡易なものでわかりにくい、また作戦や戦場の説明も最低限なので、本書で言及されている空軍基地や戦場・作戦などの一部をGoogleマップでまとめてみました。
また本書では全く言及はありませんでしたが、おまけとしてオシラク原子炉や日本人船員が亡くなったAL MANAKH被弾地点などについても記載しています。

 
一方で本書はあまり馴染みのない中東地域での戦いということもあり聞きなれない地名が多く、戦争全般の流れに関しても言及が少ないので読んでいて混乱する事があります。

 また(少なくとも日本語版では)残念ながら参考文献などの紹介が無く、日本でのイラン・イラク戦争の資料の少なさも合間ってこの本を読んでイラン・イラク戦争に興味を持ってもなかなか手を広げる事が出来ないのが惜しいところです。

 さらに当地における「真実を覆う霧」は深く、戦後のイラン・イスラーム共和国政府は戦争中にイラン空軍戦闘機部隊があげた戦果の多くをイスラーム革命防衛隊の防空部隊による戦果としてしまう など政治的な混乱も合間りイラン空軍のF-14の実相にはまだまだ明らかにされていない点が見受けられます。


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イラン・イラク戦争中にクウェート船舶の護衛のためにペルシャ湾に派遣されたアイオワ級戦艦ウィスコンシンとイオージマ級強襲揚陸艦トリポリ、米国はイラン・イラク戦争において様々な形での介入を行ったが、特にイラク空軍に提供された空域・海域の情報はペルシャ湾で戦うF-14部隊の活動を大きく阻害した。(写真引用:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:USS_Wisconsin_in_Operation_Earnest_Will_DN-ST-93-00917.jpg

 
個人的には本書で特に言及はありませんが、F-14パイロット達が死闘を繰り広げたハールク島から輸出された石油のある程度は日本向けであったことは留意すべきでしょう。

 日本のイランからの原油輸入量を見ると、イラン・イラク戦争が始まった1980年こそ一時的に落ち込みますが、戦争中の1981年から1988年まで常に年間7300万バレル以上を輸入し、1983年には1億5千万バレル近く、実に原油輸入量の一割以上をイラン産原油に頼っていました。

 1980年代のペルシャ湾では、イラク軍がアメリカ軍の報告に基きソ連製の戦闘機に護衛されたフランス製攻撃機によるエグゾゼミサイルによって日本向けの石油も運ぶタンカーが狙われ、それを”シャーのパイロット”だったイスラム革命後のイラン人がイスラエル経由で入手した部品により維持されているアメリカ製の戦闘機に乗って迎撃に出撃するという多国籍で複雑怪奇な戦いが繰り広げられていた と考えると、本書で記しされているF-14の戦いも他人事とは思えなくなります。(なおイラン軍もペルシャ湾を航行する船舶に対する攻撃や臨検を多数行い、その中で日本人船員の死者も出ていることも個人的に記しておきます。)

 
全体的にはプラモ製作に使ってくれと言わんばかりの美しいカラー塗装図、平均すると毎ページ1枚以上はある豊富な写真資料、革命前から活躍しているイラン空軍現役士官による多数の証言など充実した内容ながら大変読みやすい文体で、戦記ものとしても高い完成度になっています。

 軍事に興味のある人なら読んで損のない名著です。

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