基礎復習 対艦戦闘の流れ(歴史編)

文:ミラー

戦艦大和&武蔵と日本海軍305隻の最期 (綜合ムック)

 ご無沙汰しております。
 今回は対地・対空と続けてきたので対艦戦闘の流れの基礎を抑えていければと思います。

 
古くは海洋を通して陸軍を遠征するための手段だった海軍は、やがて他国の海上通商を妨害または自国の海洋交通を守る手段となり、その延長として敵海軍力の撃滅を期するようになりました。

 特に日本や英国といった島国にとって重要な存在であるというのは
間違いはないでしょう。

そこで、今回は対艦戦闘の流れに関して復習というかたちで見直してみようと思います。

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○黎明期

 時代を遡ると、古代ギリシャ時代のサラミス海戦に代表される三段櫂船のような衝角を供えた木造船による体当たり攻撃からの白兵戦といった戦いにみられる様に、海戦は陸戦の延長上に存在するものでした。

 船同士を近寄せることで、陸上と同じように兵士を戦わせたのです。それは中国でも日本の水軍でも見られる光景です。


 この様相を変えていったのは、間違いなくガレオン型の帆船の登場と火砲の普及でしょう。

 火砲そのものはガレー船の艦首に搭載され、大量に用いられた海戦もありましたが、本格的な対艦戦闘となっていくのは、多くの火砲を船腹に据えて敵艦を完膚なきまでに叩きのめせるガレオン船の時代からといって良いかと思います。

 特にガレー船からガレオンへと切り替わりの時期だったレパントの海戦や英国とスペインが凌ぎを削ったアルマダの海戦は代表的でしょう。

 出来る限り多くの火力を相手に叩きつける戦い方が確立したのです。
また、ガレオン船の航海能力は外国との物流発展を実現すると共に、海戦は陸軍の輸送だけでなく国家の繁栄にも直結する問題となりました。

 そこで登場するのが海賊ですが、これはまさに通商破壊戦の原型となるものでしょう。

 そして海軍の保護なくして商船の安全は保てなくなり、商船そのものが武装する時代が訪れるのです。


○火砲の時代

 
やがて、炸裂弾と装甲艦が登場すると戦いの方法そのものも変化していきます。

それまでは大量の火力を実現する為に、大量の火砲を搭載した艦艇が強力でしたが、強力な大口径砲と重厚な装甲が持て囃される大艦巨砲の時代が到来します。

 同時にそれまでの海洋戦略の教訓をまとめた米国のマハン大佐の海上権力史論が各国海軍で重宝され、海洋戦略に対する政治的注目度が高まった事も大きいでしょう。

 更に時代が進み第一次世界大戦前夜となると、魚型水雷(魚雷)の登場により小型艦艇でも巨艦を沈める脅威となる事や、潜水艦が本格的に活躍する機会を得られるようになります。

 それでも、巨砲による打撃力は圧倒的で、最大の軍艦たる戦艦のアドバンテージは各国のパワーバランスに直結するほどの存在となりました。

 ここで、対艦戦闘は大砲を撃ち合うだけでなく、敵艦へ接近し強力な魚雷を叩き込む水雷戦の脅威と、それを水中に潜る事で最大限活かす潜水艦との戦いが新たに加えられる事となり、対艦戦闘の多様性を生み出します。

 特に潜水艦は二度の世界大戦から冷戦、現代にかけてあらゆる艦艇の天敵として現在も君臨しています。

 水中から放たれる奇襲攻撃は、ソナーといった探知装置の発達が無ければ対抗不可能で、現在も対応が困難な対艦攻撃手段です。

 
そして第一次世界大戦中に急速に発達した航空機は強力な爆弾と魚雷の搭載により、艦艇の新たな敵として立ち塞がります。

 第一次世界大戦中に航空機は軍艦を撃沈した事例こそ殆どないものの、商船相手に一定の戦果を生み出していたのです。戦後、米国のミッチェル大佐が行った対艦攻撃演習は、海軍主流派の批判を浴びつつも航空機が対艦戦闘で果たす可能性を充分に示しました。

 そして、第二次世界大戦の空母を主軸とした日米の戦いへと繋がるのです。


○航空機戦からミサイルへ

 
第二次世界大戦では、日米による空母機動部隊を主軸とした海洋航空作戦、北海や地中海方面でドイツと英国が演じた陸上基地航空隊と護衛部隊の戦いが空への防御が如何に艦艇にとって重要であるかの教訓を残しました。

 味方航空戦力が護衛に無いときは、強烈な打撃力を発揮する空軍力という特性そのものに対して、艦艇は大きな犠牲を払う必要性に迫られたのです。

 自ずと、艦隊を守る傘も提供し強力な打撃力を発揮する空母を持たない海軍はその活動範囲を沿岸域へ縛られる事となりました。

 
そして、第二次世界大戦が終わり東西冷戦の時代が訪れると、空母などの圧倒的海軍力を背景とした西側諸国にソ連は海洋の主導権を握られるようになります。

 これに対するソ連の回答は、潜水艦を中心とするサイレント・サービスによる西側通商航路への打撃力と陸上航空隊による打撃力、そして当時最新技術であったミサイルの対艦攻撃への使用というものでした。

 ゴルシコフ海軍元帥がソ連海軍戦略に著したように、最新の科学技術でもって西側空母機動部隊へ対抗したのです。

 特に対艦ミサイルの導入は対艦戦闘に大きな変化を起こしました。小型のミサイル艇ですら、目標を捕捉さえ出来れば航空機と同じ様に高速で遠方から打撃を加えるという方法を手に入れたのです。これは航空機自身や潜水艦も同様でした。

 加えて、潜水艦搭載型弾道ミサイル(SLBM)と核兵器の組み合わせは、新たな「巨砲」として世界に影響を及ぼし続けています。

 
ミサイルの対艦戦闘に与えた変化は、二つあります。ひとつは撃ち合いの距離を飛躍的に延ばし、探知手段の重要性を引き上げた事
。もうひとつは艦艇が対空防御すべき対象を航空機だけでなく、高速で突進する小型の飛行物体まで追加したという事です。

 対空迎撃の手段としてもミサイルは活用されました。
探知手段の重要性は、衛星を含めたあらゆる監視手段の海軍への関係を強め、同時に各種電子的妨害手段の発達に寄与しました。後者の対空ミサイルなどによる物理的迎撃も探知手段の向上あってこその存在です。

如何でしたでしょうか?

 水上を中心とした対艦戦闘に関して簡単なまとめでは御座いますが、コメント欄にてより深い知識と見識を持った皆様方の討論に少しでも話題となりましたら幸いです。


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