【読者投稿】対戦車戦闘の基本的分類 傾向と対策

文:ミラー

 ご無沙汰しております。

 昨今は、先人の方々によるソ連軍考察本などを拝見し、まだまだ勉強不足な事を痛感する次第です。

 
そこで、今回は初心に立ち返り対戦車戦闘に関する手段を分類分けすると共に、傾向と対策を考えてみたいと思います。

 1、直接照準射撃による対戦車戦闘

 
まず、一番手は戦車の登場以来脅威であり続ける直接照準射撃による対戦車戦闘を見てみます。

 古くは第一次世界大戦にてドイツ軍が野砲を直接照準にてイギリス軍菱形戦車に撃ち込み、対戦車砲の発展や駆逐戦車を世に送り出しました。

 現在では歩兵や車両が運搬可能な対戦車ミサイルによる精密な攻撃に至っています。

 また、戦車にとって特に設計上注意が払われる敵戦車による射撃もこちらに含まれます。

 
特徴としては、何れも弾着までの時間が短く、かつ隠覆蔽に優れている事が多く、入念な偵察を怠れば容易に戦車はキルゾーンへと誘われてしまう可能性が高いという点でしょう。

 一方で、直接照準による対戦車火器は発砲時に噴煙で自らの射点を曝し易い傾向があります。

 具体的には無反動砲やミサイルのバックブラスト、隠れる為に低く設計された砲による発砲時の砂塵巻き上げ等です。

 
対策としては、事前偵察の徹底はもとより、発砲を確認したら発煙弾による自らの隠蔽や部隊全体による制圧射撃を迅速に行う必要性があります。

 遮蔽物への避難も大切ですが、敵が直接照準射撃を行うポイントでは遮蔽物が少ない場所を選択される危険性が高いでしょう。

 照準に用いられるレーザーを検知して発煙する自己防衛システムは戦車の標準装備となりつつあります。

 逆に対戦車戦闘を行う側は稜線を利用する等、充分に敵射撃から身を守る事が求められます。

 
近年の傾向としては対戦車ミサイルの携行性と長射程を活かした、歩兵部隊や車両部隊の浸透による思わぬ位置からの待ち伏せ射撃が行われる事があり、戦車対戦車の場合は射撃管制機器(FCS)の性能に成果が左右されてる様です。

 ミサイルを含めてより高速化していくと共に、比較的戦車の防御が弱い上面を狙うトップアタック能力が注目されるところもあります。


 
2、間接照準射撃による対戦車戦闘

 
間接射撃による対戦車戦闘は、他の間接照準射撃による攻撃の延長にあるものと、より積極的に戦車を狙うものの二種類があります。

 まず、前者は戦車部隊の前進に対する阻止砲撃や集結地点や補給拠点等に対する長距離打撃であり、比較的多くの弾量を費やして面に対して攻撃するものです。

 戦車にとっては、着発や遅延信管による直撃がない限りは大きな被害を被る心配はありませんが、補給部隊が打撃を受ければ進撃に多大な影響があります。

 巡航ミサイルなどによる長距離からの打撃も考えられますし、艦砲射撃もこちらに含まれるでしょう。

 対して後者は戦車をターゲットとしてHEAT弾頭のクラスター弾や精密誘導砲弾を用い、戦車を破壊する事に重点を置いています。

 近年では自己鍛造弾によるものもあります。

 ただ、こちらは冷戦の頃から開発が行われては頓挫という傾向があり、拠点打撃用の精密誘導砲弾が流用されるケースもあります。

 何れも、遠距離から火力を発揮する為に、戦車単独ではどうしようもありません。

 対策としては戦車側は自己の位置を的確に隠覆蔽すると共に、味方による適切な対砲兵射撃戦や航空攻撃を期待しつつ、かつてナポレオン戦争時の騎兵隊が行った様に奇襲的かつ迅速な砲兵陣地への襲撃を行う他ありません。

 一方で、間接射撃側ほ的確な情報がなければ有効な打撃を行えず、ただ弾薬を消費し自らの位置を曝してしまうだけなので、観測情報が命となるでしょう。


 
3、近接対戦車戦闘

 
ここでは歩兵による対戦車戦闘を対象とします。

 こちらも戦車が登場して以来、爆薬による肉薄攻撃に始まり、対戦車ライフルやロケットランチャーの発展により大きな脅威であり続けています。

 特に市街地や森林では視界の悪い戦車に歩兵が比較的近づき易く、大きな被害を与える可能性があります。

 一方で、戦車は元々歩兵を掃討する為の兵器でも有るため油断は出来ません。

 
特徴としては、攻撃する場所を選ばないという事と、特徴上射程が短く仕留め損なえば非常に危険であるという事です。

 その為、歩兵による対戦車戦闘は複数の対戦車装備を持った歩兵により全周囲から攻撃を仕掛けるのが基本となります。

 地雷やIED(仕掛け爆弾)といった待ち伏せ兵器も有効です。

 
対策としては、戦車側は増加装甲などで防御力を高める事と随伴歩兵による周囲の監視が重要となります。

 歩兵携行の対戦車装備はどうしても重量が限られ、威力に限界があるのでHEAT弾頭であれば爆発反応装甲といった対HEAT用の防御装備やロケット弾などは迎撃用の装備が開発されています。

 しかし、一番有効なのは随伴歩兵により敵の位置を割り出し、戦車の火力と歩兵の近接戦闘により対戦車火器を排除してしまう事でしょう。

 戦車の運用としては、近年シリアで行われた槍騎戦術の様に戦車の突進力と火力を活かして、素早く突撃し素早く離脱する事で反撃の機会を与えないという手段もあります。

 一方、歩兵側としては随伴歩兵を如何にして戦車から引き剥がすかが大切になります。

 第二次世界大戦の沖縄では、米軍の戦車と随伴歩兵に対して、日本軍は砲や機関銃の火力を防護拠点から集中し歩兵を釘付けにする事で、引き剥がした先に待ち伏せした対戦車砲による至近距離からの射撃を成功させています。

 これは、現在も変わらない基本的な手段です。


 
4、航空打撃力による対戦車戦闘

 
湾岸戦争や第二次世界大戦の米軍による空爆は、戦車に対して大打撃を与えたと印象が強くあるのではないでしょうか。

 しかし、第二次世界大戦のバルジの戦いの様に天候で作戦が制限されたり、湾岸戦争では親衛師団を仕留め損ない、コソボ紛争ではセルビア陸軍主力を仕留め損なう等、完璧にいくものでもありません。

 米軍ですら完璧ではないのですから、より航空戦力が少ない他国では、航空戦力による戦車部隊の撃滅は夢に近いところでしょう。

 それでも、砲兵より遠くに、より正確に、大火力を投射出来る航空攻撃が対戦車戦闘で重要な事実には変わらないでしょう。

 特に対戦車ヘリが誕生すると空中を飛び回る対戦車ミサイルとして大きな脅威となります。

 
航空攻撃全般の弱点としては、持続的な火力発揮が難しいという点が挙げられるでしょう。

 加えて、固定翼機の場合は地形に隠れて攻撃位置に付くには地理的に恵まれた場所である必要性があります。(山地の近く等)

 目標の発見も比較的難しく、地上部隊との連携が欠かせません。

 攻撃ヘリの場合は、目標の発見や射撃位置まで隠れて移動するといった事が比較的やり易くなりますが、移動速度は固定翼より劣り地上からの対空火力の脅威は大きくなります。

 
メリットとしては、固定翼の場合素早く大火力を投射出来る事、攻撃ヘリの場合は味方の最前線後方に位置して対戦車火力を提供したり、ヘリボーンの際には定点から支援出来る事が挙げられます。(航空打撃力の持続性に関しては固定翼もヘリも余り変わりません)また、攻撃ヘリは着陸して待機する事で待ち伏せを行うという手段もあります。

 何れもコストや人員の安全確保から無人機へとなる可能性があります。

 一方で固定翼・ヘリ共に対戦車攻撃が任務から無くなる事はないでしょう。

 固定翼は長距離への打撃力として、ヘリは前線へと素早く近接航空支援を提供する手段として欠かせないからです。

 攻撃ヘリ不要論もありますが、個人的には今後も固定翼にない特性と武装ヘリと比較して際の生存性から残るものと考えてます。

 ベトナム戦争の戦訓で攻撃ヘリの専門化が必要なのは明白なのです。

 
対策としては、戦車側は隠覆蔽を徹底するのは勿論ながら、味方の航空戦力による航空優勢確保や防空部隊による航空拒否が重要となります。

 携行対空ミサイルによる自己防衛も有効ですが、これを用いる時は敵航空機の有効射程内でもあり、森林や市街地といった奇襲的に狙い撃てる場所でなければ武装ヘリ相手でも危険性があるという点を忘れてはならないでしょう。

 確かに、近年攻撃ヘリ等が歩兵携行の対空ミサイルで被害を被ってますが、ソ連のアフガニスタン侵攻の様に攻撃ヘリによる被害は依然として無視出来ない程脅威には変わり無いのです。

 
以上で対戦車戦闘の傾向と対策を終わりますが如何でしたでしょうか?

リクエストがあれば、そちらを調べて書こうと思います。


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