第8回艦載三次元レーダー技術の歴史 パート1

文:nona

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ミサイル護衛艦「はたかぜ」に搭載されたAN/SPS-52 三次元レーダー。周波数走査(FRESCAN)方式を採用する。投稿者の撮影

 第8回記事では三次元レーダーの歴史です(マイナーでごめんなさい)。かつての冷戦初期、ますます増大する経空脅威に対向するため、三次元レーダー実現化のためにあらゆる方法のレーダーが検討されていました。動作原理も様々ですがいままで詳しく知る機会がなかったので、今回詳しく調査してみました。字数の関係で前編と後編に分割しましたので、合わせて楽しんでいただけるとうれしいです。

■二次元対空レーダーについて■

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汎用護衛艦「やまゆき」に搭載されたOPS-14二次元対空レーダー。投稿者撮影

 三次元レーダーが普及する以前の時代、あるいは現代の二次元レーダー搭載艦は、高度の測定に射撃管制装置レーダーや測高レーダー、あるいは光学測距儀を用いました。これらの装置で対象を測角、三角法で処理することで高度情報を得ていました。対象が僅かであれば対処も容易であることから、現代の対空レーダーにも二次元レーダーが採用されています。

 しかし三次元レーダーであれば多数の対象の高度をほぼ同時に測定可能で、(短波の)管制装置レーダーや測高レーダー、昼間限定の光学測距儀よりも遠くの対象を捉えることも容易です。これは大規模な航空攻撃に対抗するために重要な能力です。三次元レーダーは第二次世界大戦では実用化できなかったものの、1950年代にかけて複数の方式で登場します。ただこの年代のレーダーには実用的でない方式も含まれていたようで、次第に淘汰されていきます。



■FRESCAN(周波数走査)方式■

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http://www.radartutorial.eu/06.antennas/pic/st68u-ant.gifFRESCAN
(周波数走査方式)方式の概念図

 縦方向にペンシルビームの走査が可能な三次元レーダーです。各アンテナアレイの電波の周波数を制御することで擬似的に位相を変化させ、ビームを任意の角度に動かすことができました。フェイズドアレイレーダーに近い原理ですが、位相ではなく周波数を制御する点、ビームの制御が仰角方向のみに限られる点で異なるようです(常にアンテナを回転させる必要がある)。アメリカでは1953年にAN/SPS-26として試作が始まり、60~80年代にかけて世界でも一般的な3次元レーダーの方式となります。

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http://www.alternatewars.com/BBOW/Radar/SPS_Series.htmよりhttp://www.alternatewars.com/BBOW/Radar/SPS-48E.jpg
AN/SPS-48Eのスネーク回路(左側)とスロット導波管。本記事トップ画像のAN/SPS-52はカバーで覆われている。

 FRESCAN方式のアンテナ部分は電波供給用のスネーク回路と複数のスロット導波管で構成されています。改訂レーダ技術によるとスネーク回路は「走査感度を大きくする」ために給電線路長を伸ばす目的で使用されている、とのことで縦方向の走査能力に関わる箇所です。スロット導波管は隣接するアンテナの電波が相互に作用させ、電波の指向性を高める目的で採用されています。横方向の(狭い範囲の)走査に関わる箇所とされています。


■多重ビーム走査■

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http://www.radartutorial.eu/06.antennas/Cosecant%20Squared%20Pattern.en.html

 複数のビームを順番に発射し、重なった反射波を処理することで正確な高度を算出できる3次元レーダーの方式です。アメリカ海軍ではAN/SPS-2に用いられ、1953年に戦術指揮艦ノーザンプトン軽巡洋艦リトルロックの2隻で試験されました。しかし海軍ではFRESCAN方式が主流になったことで、AN/SPS-2の開発はキャンセルされています。一方で地上用に開発された欧州のMPR早期警戒レーダーなど実用例もあるようです。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/Category: AN/SPS-2(切り抜き加工済み)
戦術指揮艦ノーザンプトンのAN/SPS-2。艦艇用とするには放射器が複雑すぎるかもしれない。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:RIM-8_Talos_on_USS_Little_Rock_%28CLG-4%29_1960.jpg
軽巡洋艦リトルロックに搭載されたAN/SPS-2とRIM-8タロス長距離対空ミサイル

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http://www.dutchaviationsupport.eu/00-HTMS/aocs.htm
レドームに格納されたMPRレーダー。



■(ルネベルグレンズによる)ビーム・ステアリング方式■

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https://ru.wikipedia.org/wiki/AN/SPG-59

 タイフォンシステム管制用のAN/SPG-59多機能レーダー(捜索、追跡、ミサイル誘導の3役をこなす)に採用された方式です。電波の制御にルネベルグレンズ(おもに衛星通信に用いられる)を使用します。AN/SPG-59に詳しいalternatewarsによると2700個の増幅器、10800個のビーム素子、10200個のアンテナ素子が使用されたそうです。駆逐艦型の消費電力を平均2.9MW、最大は67MW、巡洋艦型で平均8.7mW、最大は200mW(原文ママ、MWの誤記?)と見積もっています。仮に200MWとすると瞬間的とはいえ、原子力空母の機関に匹敵するエネルギーが必要になります。技術的に困難であったのか1963年に計画が中止されています。

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https://en.wikipedia.org/wiki/AN/SPG-59
実験艦ノートンサウンドとAN/SPG-59レーダー。後にはイージスシステムの試験も行っている。


■フェイズドアレイレーダー「SCANFAR」■

 「SCANFAR」はFRESCAN方式のAN/SPS-32と、後述する周波数-位相走査方式のAN/SPS-33追跡レーダーから構成される複合フェイズドアレイレーダーです。タイフォンシステムのAN/SPG-59と後のイージスシステム用のAN/SPY-1の中間的な機能を備えます。搭載艦は原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ原子力空母エンタープライズの2隻のみ。さらに80年代の改装でどちらも撤去されています。しかしロングビーチはベトナム戦争中に空中迎撃管制艦(AIC)となり、自身も1968年に2機のミグ戦闘機を撃墜しています(当時の新聞報道より)。撤去の理由は整備性の悪さと云われていますが、性能自体は良好だったと思われます。

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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a2/LongBeachFront.jpg
1961年に就役した原子力ミサイル巡洋艦「ロングビーチ」。1981年にSCANFARの撤去後、AN/SPS-48に換装される。



■周波数-位相走査方式■

 「SCANFAR」に用いられたAN/SPS-33はFRESCAN方式と位相走査の両方を使用する周波数-位相走査方式のレーダーです。アンテナはスロット導波管でしたが、新たに位相器を備えています。この位相器を用いて縦方向を位相走査でいくつかに仕切ることで、その範囲を周波数走査することで用いる周波数の範囲を減らす、又は限定的に横方向へのビームの発信に用いました。米海軍では完全なフェイズドアレイレーダーの登場までFRESCANが主流でしたが、1970 年代には陸上自衛隊の対砲JMPQ-P7や海上自衛隊のOPS-12に周波数-位相走査方式が採用されています。

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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8b/JMPQ-P7_JGSDF.JPG
対砲レーダーは砲弾が飛来する想定エリアにペンシルビームで作られた幕を複数生成し、砲弾が複数の幕を突き抜けるときの高度や距離、方位の差異から弾道を算出する。Wikipediaによると自衛隊の76式対砲レーダー装置は幕を3つ生成できる、とのこと。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/OPS-12#cite_note-nenkan20062007-4
初の国産三次元対空レーダーOPS-12。


後編へ続く



参考文献(最終閲覧日2015年8月20日)


FRESCANレーダーについて1
radartutorial.eu
「Phased Array Antenna」Frequency Scanning Arrayの項目
http://www.radartutorial.eu/06.antennas/Phased%20Array%20Antenna.en.html


FRESCANレーダーについて2
Scienceservice
「AN/SPS-52C - Long Range 3D Air Search Radar」PDF 1ページ目
http://scienceservice.si.edu/pages/103_033_Reference_HughsFrescan.pdf


FRESCANレーダーについて3
改訂レーダ技術 ISBN 4-88552-139-4
4.5.2(2)周波数走査方式(P128)より


MPR (Medium Power Radar)レーダーについて
radartutorial.eu
MPRの項目
http://www.radartutorial.eu/19.kartei/karte109.en.html


多重ビームスキャン方式について
radartutorial.eu
「Cosecant Squared Pattern」Stacked Beam Cosecant Squared Patternの項目
http://www.radartutorial.eu/06.antennas/Cosecant%20Squared%20Pattern.en.html


多重ビームスキャン方式について2
改訂レーダ技術 ISBN 4-88552-139-4
11.4(3) 多重ビームスキャン方式方式(P286)より


ルネベルグレンズについて
住友電工ルネキュー40
「ルネベルグレンズ」の項目
http://www.luneq.jp/introduction/composition/


AN/SPG-59について
alternatewars
「AN/SPG-59」の項目
http://www.alternatewars.com/BBOW/Radar/SPG-59.htm


SCANFARレーダーについて
warfaresims.com
「Waypoint Magazine. February 2003」PDF 17ページ目
http://www.harpoonhq.com/waypoint/articles/Article_044.pdf


巡洋艦ロングビーチの戦果記録について
Wikipedia(en)
「USS Long Beach (CGN-9)」よりHistoryの項目
https://en.wikipedia.org/wiki/USS_Long_Beach_%28CGN-9%29

Google News
AP通信(AP)Military WriterのBOB HORTONの記事(見出しがMissile Success Laudedの項目)
https://news.google.com/newspapers?nid=1915&dat=19700202&id=USEiAAAAIBAJ&sjid=NHQFAAAAIBAJ&pg=941,379236&hl=en


AN/SPS-33の動作方式について
FAS米国科学者連盟(非政府組織)
「Electronic Scanning and the Phased Array」
AN/SPS-33の記述「The AN/SPS-33 radar, which is no longer in use, was frequency scanned in elevation and phase scanned in azimuth.」より
http://fas.org/man/dod-101/navy/docs/fun/part07.htm


76式対砲レーダ装置について
wikipedia.orgより76式対砲レーダ装置
https://ja.wikipedia.org/wiki/76式対砲レーダ装置_JMPQ-P7


周波数-位相走査方式について
改訂レーダ技術 ISBN 4-88552-139-4
11.4(3)周波数走査方式(P286~287)より


OPS-12レーダーについて
wikipedia.orgよりOPS-12
https://ja.wikipedia.org/wiki/OPS-12#cite_note-nenkan20062007-4